第13話『レベル999 VS レベル999』

魔法使いの孫、マホーツは500円玉大の

銀色のコインを奥歯で噛み砕く。


このコインは『タリスマン』と呼ばれる

特殊なアイテムである。

本来は、転生勇者の生贄召喚に限定されて

使用が許可されているものだ。



いかに勇者パーティーの孫といえど、

私的な目的で用いる事は許されてはいない。



だが……頭に血が登った、このマホーツの

前にはそんなことは関係の無い話であった。



タリスマンを奥歯で噛み砕くやいなや、

マホーツを起点として、半径

100メートルの金色の超巨大な

魔法陣が地面に浮かび上がる。



「嘘……っ!? マホーツの魔力係数が

 計測不能……勇者召喚の時と

 同じ現象が起こっているなの」



「つまりどういうことだ……?」



「説明はあと! 二人とも! 

 いますぐにボクの体につかまって!!」



シローと、ラクイがソフィアにしがみつく。

ソフィアはそれを確認すると

同時に即座に詠唱を開始。



「竜よ我らを守りたまえっ! 

 十二の檻の牢獄壁ピスティス・ソフィア!!」



ソフィアの直下に真紅に輝く

魔法陣が浮かび上がる。

ソフィアを中心とした小規模な

球状のバリアが展開される。



その刹那、マホーツが展開した

巨大な金色の魔法陣から

黄金の火柱がそびえ立つ!


その黄金の火柱は高度

100メートルの高さまで達する。



魔法陣の範囲内に居た鉱夫、

魔獣、植物、ありとあらゆる命は

強制的に金色の魔法陣の中心部の

マホーツに吸収される。


黄金の火柱の直撃を受けた生物は

あとかたもなく死滅した。



「本来は……転生勇者を生贄召喚するために

 つかうものだったけど、もう

 そんなことはどうでも良いわぁ??」



「使ったなの……あの外法を!」



「外法? 違うわあ? 

 これは神の力よ。

 魂を贄として捧げることで、

 超常の力を獲得する……。

 そうこれはッ……奇跡っ!」



「こんな外法の何が奇跡なの!!! 

 それは禁じられた外法なの!!」



異世界の勇者を生贄召喚する

際に用いられる銀色のコイン。

今のマホーツは、本来は勇者召喚の

儀式で使用するソレを自分自身を

強化している。



その効果はあまりに膨大。



マホーツがラクイとの戦闘で

受けた怪我は既に完全に完治。

衣服も青と金色を基調とした、

高貴なものに变化している。



レベルも10倍に跳ね上がり、

今のマホーツはレベル999。

クラスは『大魔法使い』



過去の勇者パーティーが魔法使いの

全盛期と同等の魔力を有している。



「ひゃあーっはっははっはははは!!

 気分が良いわぁ!!!! 

 サイッコーにハイってやつかしら

 あああああぁ!!!???」



マホーツは金色の杖を地面に数度

たたきつけ、魔獣召喚のための

魔法陣を錬成する。



「アダマンタイト鉱石を触媒にして

 召喚! アダマンゴーレム!!」



金色の魔法陣が地面から浮かび上がり、

魔法陣からゴーレムがせり出す。


マホーツは鉱山で採掘して得た

アダマンタイト鉱石を全て消費することで、

アダマンゴーレムを召喚したのであった。


2メートルをゆうに越える巨体。

両腕は丸太のように太い。


動きは緩慢ではあるが、

その力は非常に強い。

恐るべき相手である。



シローが正面からまともに、

直撃を受ければタダでは

すまないであろう。



「シロー……ボクがコイツを倒すまで、

 そのゴーレムの足止めをして欲しいなの。

 アイツは……ボクが本気を出さないと

 押し切られる……」



「ラクイさんに任せるのだ!」



「ソフィア、了解だ! 俺とラクイ

 さんで、アダマンゴーレムを

 足止めする!!」



「シロー、ラクイさん、感謝するなの!」



「最後の会話は楽しめたかしらぁ?

 ひゃーっはっははっはははは!!!

 灰も残さず消してあげる!

 クリムゾン・フレア!!!」



金色の杖の先端で黄金の魔法陣が

浮かび上がり、超高熱の

巨大な火球を射出する。



レベル999の『大』魔法使いの上位魔法。

その威力は魔王ソフィアに比肩する程である。



「吹きすさべ! 冥府の風よ!!」

 ブレス・オブ・コキュートス!!

 そんな火の玉くらいっ」



ソフィアが伸ばした右腕の手のひらから

青色の魔法陣が浮かび上がり、

氷の嵐が放たれる。



マホーツが放った巨大な炎と

ソフィアの巨大な氷がぶつかりあう。



爆発。



「ひゃーっはっははは! 

 アンタぁ……なかなか

 やるじゃないのぉ!!」



(……コイツ……強い……なのっ!)



一方、シローとラクイは

マホーツが召喚した

アダマンゴーレムと対峙していた。



「力比べなら負けないのだぁ!」



ラクイは10トン木づちを

横薙ぎに振るう。

アダマンゴーレムに直撃。


アダマンゴーレムは木づちの

衝撃により、後ろずさる。



(こいつ……ラクイさんの木づちの

 直撃をくらっても表面にはかすり

 傷一つ無しかよ! なんて硬さだ!!)



アダマンゴーレムすぐに体制を

戻し、再びシローとラクイに襲いかかる。



「ラクイさん……数秒の間だけ

 足止めを頼めるか。策がある」



「りょーかいなのだ!

 ラクイさんにまかせるのだ!」



ラクイはアダマンゴーレムの

両手の平をあわせ、力での真っ向勝負を挑む。


相撲で言うところの、がっぷり四つの姿勢。

恐るべきは、ラクイの膂力。

力の差は完全に均衡している。



完全にアダマンゴーレムは静止。



だが、マホーツの魔力供給により

無尽蔵のエネルギーを有する、

アダマンゴーレム相手では長期戦は分が悪い。



(こいつが俺の知っている通りの

 ゴーレムであるのならば!)



シローは、速度極振りの最大加速で

アダマンゴーレムの背後に回る。



「ははっ……。やっぱりあったぜ!」



シローはアダマンゴーレムの背中に

おぶさり、ゴーレムの首の後ろに書かれていた

『Emeth(真理)』の文字を見つける。



「読んでてよかった!! 

 異世界小説ッッ!!!」



シローは、『Emeth(真理)』の最初の

一文字『E』をナイフで削り取り、

『meth(死)』に変える。




「グオオオオォォオオオン……」




アダマンゴーレムは咆哮をあげ、完全に静止。

各部位がバラバラのになり完全に

機能を停止させた。




「やったのだ? 

 ラクイさんたちの勝ちなのだ!」



「ラクイさん、マジで助かった。

 ありがとな! あとは、ソフィアの方だな

 ……あっちは完全に怪獣大戦争だな」




光と闇、炎と氷、雷と土、

激しい魔法の応酬が続いている。

レベル999同士、互いに一歩も譲らない。



「ひゃーっはっははは!!!! 

 ワタクシ様相手に対魔法戦で

 叶うと思っているのかしらぁあ?」



(コイツ……っ魔力の底が見えないなの!)



タリスマンを触媒とした

生贄強化あくまでもその強化は

一時的なものであるが、

その力は過去の勇者パーティーの

魔法使いの全盛期と同レベル。



つまりレベル999の魔法使いと同じ力。

ソフィアの祖父にあたる魔王を打倒した

時の力と同程度になっているのだ。



(お祖父様はこんな化け物複数相手に

 戦っていたって事なの?!)



「でも……だからこそ……魔王である

 ボクがこんな所で……こんな所で

 負けるわけには……いかないなのっ!!!」



ソフィアは左右の小さな手のひらに

最大の魔力をこめ、渾身の魔法を作り出す。



「地獄の炎よ我が敵を燃やし尽くせ!

 フレイム・オブ・ジュデッカ!!!!!」



ソフィアの前方の虚空に巨大な

真紅の魔法陣が浮かびあがる。



その魔法陣から、超高熱の炎が

噴き出し、マホーツを丸呑みにせんとす。



「きぃーひっひっっひっっひ!!!!!!

 無駄よぉ? 諦めなさあぁい!!??

 水には水を、土には土を、火には火をッ!!

 クメィル・ルージュッ!!!!!!!」



金色の杖の先端に魔法陣が浮かびあがる。

その杖の先端から巨大な金色の魔法陣が描かれ。

太陽のようにまばゆい火球が射出される。



炎と炎のぶつかり合い。

純粋な魔力量の勝負である。


双方の魔法が激しくぶつかりあい、

結果としてマホーツに、

シローとラクイの接近を

許す結果となった。



マホーツは、ソフィアとの魔力戦に

意識が集中しているため、

すぐ間近に近づいている、

シローとラクイの存在に気づけなかった。



シローはラクイに命じる。



「ラクイさん! この馬鹿女を

 直上に打ち上げてくれ!」



「りょーかいなのだ!」



ゴルフのスイングのように、

アッパーブローで木づちを振り上げ、

マホーツにブチ当てる。



「えっ……っなにっ……?!」



木づちで打たれた衝撃でやっと、

二人の存在に気づく。



不意打ちであったが、致命打には至らない。

だが、それは計算の内だ。



マホーツは自身の周りに防御壁を展開

しているマホーツの体には届かないが、

衝撃で空高くに打ち出される。



上方に向かうエネルギーと、重力の落下による

エネルギーが均衡するその一瞬の束の間、

速度はゼロになり静止する。



その一瞬をシローは見逃さない。


空中に打ち上げられたマホーツを

追いかけ、いままさにマホーツの

横に並び立つ。



「もういっちょおおおおおお!!!!!!」



シローは空中で靴底に魔法陣を展開、

空中に自身の足場を作り、マホーツを

蹴り上げ、更に上空に打ち上げる。



その後、シローは魔法陣を蹴り、再び跳躍。

打ち上げたマホーツの横を通り過ぎるも、

さらなる高度へ飛翔する。



シローは、自身の直上に魔法陣の

足場を展開、空中で身をひるがえし、

上空のその魔法陣を蹴り、

超速度で、下方に急降下する。


下方から打ち上げられてくる

マホーツに向かって自身の

体を弾丸のように射出したのであった。



「とどめだぁああああああ!!!!!

 ウインド・ブレーカー!!!!

 グラビティー・コントロール!!!」




『グラビティー・コントロール』

アダマンゴーレムを倒して得たスキル

ポイントを更に素速さ全振りにして

得た新たなるスキル。


自身の自重を10倍から

10分の1に調整可能とするスキル。



今のシローの重量は通常の10倍。



隕石のように重量をともなった、

超速のつま先が、マホーツが展開する

100を越える、魔法防壁をガラスの

ようにバリバリと破壊しながら、突き進む。



「バカなぁぁああああ!!!!!

 このゴミムシがあああああ!!!

 ワタクシ様に靴底を向けるとは

 万死に値するわぁああああっ!!!」



重力落下を止めるために、

マホーツは直下に魔法防壁を

展開するが、シローの上からの

超重量によってガラスのように砕かれ、

落下を止めるには至らない。



「こんな……こんな……こんな

 ワタクシ様げぁあああああ!!!

 絶対……っ許さな!!!!!!

 なっ?!!!!!!!」



自身が落下する地点に、

何者が待ち受けているのを

確認する。ラクイさんである。



「いい加減死ぬのだ!」



着地地点に待機していたラクイが、

再度大きく木づちを振り上げ、

超高度からシローと共に、

超速で落下してきたマホーツを打ち上げる。



「お前はぁああああああっっ!!!

 このぉ腐れクソパン……ッッ!!!

 ぐぎゃりゃああらあああああ!!!」



皮肉なことに、マホーツは、

自身の前面と背面に展開した

絶対の魔法防御壁の間に

挟まれ……サンドイッチされる。



「がはぁッッ!!!」



自業自得とはこのことである。

絶対の魔法防御壁に体が

圧し潰され、全身の骨が砕け、

そこでマホーツは意識を失った。



かくして、『魔法使いの孫』

マホーツは、シローたちに

敗北したのであった。

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