第12話『アライグマと大魔法使いの戦い』
ここはケモノ村近くのアダマンタイトの鉱山。
今まさに鉱山の採掘が行われていた。
アダマンタイトは宇宙からの
隕石由来の鉱物であり、
非常に硬度が高く希少な鉱物である。
永世中立地帯メメントの森でしか
採掘不可能な鉱物である。
過去の戦争の歴史においては、
アダマンタイトを制する者は世界を制する
とも言われるほどの鉱物である。
アダマンタイトは非常に希少な
物質であるが鉱山の中心部から
しか採取できないことから、
本格的な採掘は行われてこなかった。
だが、それも黒色火薬が異世界から
持ち込まれる前までの話である。
黒色火薬の普及に伴い鉱山の開発は
急速に進み、鉱山の掘削が容易になり、
その結果として、過去においては、
希少な鉱物であったミスリルなどの
価値も大幅に下落した。
そして、いままさにアダマンタイトも、
ミスリルと同じ運命をたどらんと
しているのであった……。
このアダマンタイト鉱山の開発を
指揮するのは、過去の勇者パーティーに
所属していた『魔法使い』
そのの孫のマホーツであった。
年齢は28歳。金色のロングに
病的に深い目元のクマが特徴である。
紫色の三角帽と魔法装束を着た女性。
そして、胸はでかい。
性格はヒステリーで、粘着質。
過去に受けた恨みをを絶対に忘れない
タイプの人間である。心の器はとても
小さく上に立つ人間ではない。
しかし、胸はでかい。
「もっと作業速度をあげるのよ!!!
チンタラ遊んでんじゃないわよ!!
ボンクラゴミカスインポテンツ!!」
現場を指揮するマホーツに対して、
鉱山の人員配置や安全確保などの
実務を管理する現場監督の男が答える。
「魔法使いの孫、マホーツ様……。
す……っすでに、スケジュールを大幅
前倒しで進めていいます。ですが、
これ以上は、無理です……っ!」
「あぁん? 私に口答えするわけ?
ねぇ……ねぇねぇねぇねぇ!?
それって、私の顔に泥を塗りたい
ってことでいーのかなぁ?!!!」
「いや、決して、そんなわけでは……
でも、不可能です。さすがに……」
「あなたぁ……知っているかしら?
不可能というのはねぇ……。
嘘吐きの言葉なんですよぉ?!!」
「……はい?」
『不可能というのは嘘吐きの言葉』
マホーツが思いついた言葉ではない。
過去に転生した勇者が労働改革を
行った際に残した『名言』である。
たったこの一言によって、
根拠不明な根性論が世にはびこり
この世界の幸福度は大幅に下落した。
「既に十三名の鉱夫が落石、落盤事故
で死んでます。黒色火薬の暴発による
負傷者も含めれば、二十を超えます」
「だからぁ……なんだって言うのよお!!」
マホーツは神経質そうに髪を掻きむしりる。
相当に苛立っている証拠である。
「現場責任者として、これ以上は、さすがに
作業をすすめることを容認できません!
鉱夫の安全が確保できません!
さすがにこれ以上の欠員が生じると、
鉱山の掘削作業自体も中止にせざる
おえなくなります!!」
「きーっ!! 無能がぁああああ!!!!
作業員がいなくなったら、
現地調達すればいいでしょ!!
無理っつーのはなぁ!!! 嘘つきのおおお
いいわけなんだよぉおお!!! ドクソがあ!」
「ここは永世中立地帯です。現時点で
私達の行為は条約に違反した不法行為、
更に……ケモノ村の獣人を拉致れと?
それは明らかな越権行為、そうなれば
魔法使いの孫と言えど……タダでは……」
「あんたは馬鹿だねぇ? どアホだよ!!
バレなきゃいいんだよ! バレなきゃ!」
「……尋常じゃない騒音が出ています。
ケモノ村の獣人が証言したら、
逃げ逃れはできません……再考を!!」
「うっせーんだよ!! このドハゲが!!
証拠ごと燃やせばいいでしょう?!!
ワタクシ様はねぇ、今までそうやって
全てやってきたのよ!! コネもあるし
とにかくとにかく超大丈夫なのよ!!!」
「しかし……」
「現場監督如きがゴチャゴチャうるせー!
ワタクシ様は魔法いの孫。マホーツ様
に口答えする人間なんていらないわ!
生きたままで焼き肉になりなさい!
バーニング・テンペスト!」
魔法使いの孫、マホーツが詠唱を
遂げると、男の直下に半径2メートル大
の紅蓮の魔法陣が発現。
魔法陣が赤黒く煌めいたと同時に
火柱がそびえ立つ、
男は、紅蓮の火柱の中に飲み込まれる。
「くぎやぁあああぁああああ!!!!!」
火柱の中の男の叫び声も数秒
すると聞こえなくなる。
男だった存在は、骨も残さず、灰となった。
「あらぁ……。火加減を間違えてしまったわ、
これじゃ、焼き肉ではなくて消し炭ね!
次は火加減を間違えないようにしなきゃね!
きゃあーっははははははははは!!!!!」
過去の勇者パーティーの『魔法使いの孫』、
マホーツ、その魔力は膨大。
『超魔法適正』のユニークスキルを
生まれた時から習得しており、
3歳になるころには、水の魔法
が使えるようになっていた。天才である。
そして、人を人とも思わぬ外道である。
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一方そのころ、シロー、ソフィア、
ラクイの三人はアダマンタイト鉱山の
すぐ近くまでたどりついていた。
「もうそろそろ鉱山に着くのだ!」
ソフィアの超広範囲魔法で敵を
根絶やしにしながら目的地へと向かう。
爆発音とともに地面が揺れる。
「確かにこの爆音、うるせぇ!
耳がおかしくなりそうだ!」
「地面と空気が震えているなの……」
シロー、ソフィア、ラクイの
3人は鉱山の前にたどり着く。
三人の前には、不敵な表情を浮かべる
魔法使いの孫、マホーツが立ち塞がる。
「こらー! そのドッカン! ドッカン!
を今すぐにやめるのだ! 村のみんなが
安眠できなくてとても困っているのだ!」
「飛んで火に入る夏の虫だわぁ?
ちょうど今、一人『事故』で欠員が
出た所なの。代わりにあなたが、
鉱山で働いてくれるかしらぁ?」
「断るのだ! ラクイさんは死んでも
絶対に労働はしない主義なのだ!」
「ケモノ風情が、このワタクシ様、
魔法使いの孫のマホーツ様に
逆らう気かしらぁ?」
「誰なのだ! ラクイさんは、
お前のことなど知らないのだ!」
「ふひゃぎゃっははっはは!!
無知蒙昧なる、ケモノの子よ、
もし止めたけりゃあ、力づくで
止めてみれば良いんじゃないかしらぁ?
きゃーはっはっはっはっは!!」
「なら、そうさせてもらうのだ!
シロー、ソフィアここは、
ラクイさんに任せて欲しいのだ!」
「分かったなの」
「少しでもヤバそうだと判断したら
すぐに手助けに入るから
そのときは許してくれ」
「分かったのだ!」
そうシローに言い残すと、
ラクイは、マホーツに向かって駆ける。
マホーツは余裕の表情で、金色の杖を
地面につけたまま一歩も動かない。
ラクイは右手に一般的な工具の
ハンマーと同じ程度の大きさの
木づちを右手に握り、マホーツの
頭部を狙い、振りおろす。
ガツィンッ!
ラクイの木づちは、マホーツの
頭上にある何もない空間に阻まれる。
魔法障壁の発動である。
「ひゃーっはっはっはっは!
だぁーから無駄だって言ったじゃない!
ワタクシ様の魔術防壁は絶対なの!!
そんな、ちみっちぇえ木づちで
壊せるほどヤワじゃないのよねぇ?」
「なら……こうするのだ!
木づちさん……大きくなるのだっ!」
ラクイの右手に持っていた
木づちが、餅つきの杵と
同じ程度の大きさに変化する。
彼女の持つユニークアイテム
『打出の木づち』の能力
木づちの今の形状は、
少し柄の短い、餅つきの杵
といった感じの木づちである。
ラクイは、大きく振りかぶり、
再度同じ位置、マホーツの
頭部に狙いを絞り木づちを振り下ろす。
ガツィンッ! ガツィンッ! ガギィンッ!
ラクイは、木づちを何度も振り下ろす。
そのたびにまるで水晶を打ち
付けた時のような金切り音が響き渡る。
「わたくし様の防御壁は絶対なの!
何度やっても無駄だと言っているでしょう?
諦めなさい。きゃーはっはっはっ!!」
「押してダメなら、押し倒すのだ!
もう一発いくのだーっ!!」
バリィン!
マホーツが絶対の魔法防壁と
うたっていた透明の魔法防御壁が
ガラス細工のように砕け散る。
「そんな! 馬鹿な?!
ワタクシ様の絶対の
魔法防御壁が……
力づくで破壊されるなんて?
ありえないっ!!!」
「今謝れば許してやるのだ!」
「ふっざけんじゃないぎゃー!!
まだまだまだまだまだよーっ!!
魔法防御壁、硬度5倍ッ!!
魔法防御壁、枚数5倍ッッ!!
やれるもんならやってみやがれぇ!!!!」
「なら、こっちも本気を出すのだ!
木づちさん、もっと大きくなるのだ!」
餅つきの杵と同じ大きさ程度
だった木づちが更に巨大化。
今の木づちの大きさは、
アニメ等で出てくる10トンハンマーと
同じ大きさにまで巨大化している。
ラクイは、その木づちを
両手に構える。
「確認するのだ……魔法防御壁は
十分に張っているのだ?」
「はははっ! 当たり前じゃない!
ワタクシ様の魔法防御壁は完璧よぉ!!
さぁきなさいよぉ獣人!!!!!
お前の無力さを思い知るが良い!!」
「……了解したのだ」
ラクイは木づちを頭上で二回転させる。
そして、その10トンハンマーの
ような形状の木づちを両手に
握ったままで、空に跳ぶ。
恐るべきはケモノの膂力
空中でマホーツの頭上に
木づちを振り下ろすと、
一枚目の魔法防御壁が割れた。
「しゃらくせんだよおお!!!
防御壁硬度強化ぁああああ!!!」
更にもう一枚割れる
「超硬度強化ぁあがあああ!!!!」
更にもう一枚……。
「超超硬度強化がらあああ!!!!!!!」
最後の一枚……。
「あわああぁあああんぎゃあああ!!!」
「
最後の一枚も砕け散り、マホーツの
顔面に巨大な木づちが振り下ろされる。
魔法防御壁により限界まで速度軽減
されていたとはいえ、顔面で
受け止めてただで済むはずがない……。
木づちはマホーツの顔面を確実に捉え、
圧し潰し、鼻はへし折れ、前歯は
いびつにへし折れている。
へしゃげへし折れた歯の隙間から
ヒューヒューと空気が漏れ出る音がしている。
「成敗のだ!」
「はぁ……はぁ…まぁだだぁ…………
まぁだぁ……ぉ終わら……ないぃ……
ヒューッ……生ぇ贄ぇ……強化ぁあ……
第ぃ2ぃ……ラぁウンドぉ………開始ぃ……
ひぃ……ひゃっ……はっははぁ!!」
マホーツは、五百円玉を一回り大きく
したような銀色に輝くメダル……。
そのメダルは『タリスマン』。
マホーツは、銀色に鈍く光る
タリスマンをコインチョコの包装紙を
剥がさずに、噛み砕くがごとく、
ガギリと欠けた歯で噛み砕くのであった。
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