第10話『メメントの森を攻略だ!』
ここはメメントの森。
シローとソフィアは起床後に、
すぐに装備を整え森に入った。
目的地は、メメントの森の
中心部にあるケモノ村。
今回の依頼人が居るという村だ。
ギルドマスターのギルダーからは、
詳しい依頼内容は、依頼者に直接
聞いて欲しいとのことである。
「我が契約に従い主の敵を焼き尽くせ!
マルチプル・クリムゾン・ボール!!」
ソフィアが詠唱を終えると、
空中に朱色の光を放つ無数の
魔法陣が浮かび上がる。
10を超える魔法陣の同時展開、
レベル999の魔王にしか
できない芸当である。
朱色の魔法陣から真紅に燃える
火球が射出され、スライムの
群れに直撃する。
朱色の球体が当たるやいなや
スライムは爆散。後に残るのは
消し炭のみである。
恐るべき火力と破壊力である。
「ぬらあ! エア・エッジ!」
シローは半魚人型の魔獣に向かって駆ける。
そして、そのスピードを殺さず、
そのまま横薙ぎに短剣を振るう。
エア・エッジ、
シローの速度向上による
派生スキルの一つである。
刀身に風の刃をまとわせる
ことによって、刀剣の
切れ味を向上させるスキル。
その斬撃が、半魚人の頸部を捉える。
一閃。
半魚人の頭部が、体から
ボトリと落ちる。
「シローもなかなかやるようになったなの!
かっこいい一撃だったなの!」
「どういたしまして!
……っでも油断大敵っと!」
今まさに、シローの足を切り
離された頭部だけの魚人が
噛みちぎらんとしていた。
シローはその魚人の頭を
靴底で踏み潰す。
恐るべき生命力の高さである。
ここメメントの森の魔獣は、
こと生命力に関しては他の地域の
魔獣よりもはるかに高い。
油断は禁物である。
昆虫と同じように、斬り落とされた
頭部だけでも噛みついてくるの
でトドメをさす必要があるのであった。
メメントの森では、スライムですら
他の地域のスライムとは異なり、
薄緑色のゼリー状の体内には、
人間の眼球のようなものが無数に
浮かんでおり、その複数の眼球で
敵を捉え、捕食する獰猛さをもつ。
過去に空から落ちてきた隕石の
残留物質の影響であろうか、ここの
地域の魔獣は特殊な進化を
遂げているのであった。
「それにしても随分と危険なところに
暮らしているんだな。ここの住人は……
魔獣も凶暴だし見た目もグロい」
「ここの魔獣は強さもさる事ながら
そのしぶとさがやっかいなの」
「スライムは、すぐに分裂するし
半魚人は首を切り落としても
まだ生きてるからなぁ……」
「つまりは、いまボクたちが向かっている
ケモノ村の獣人はここの森の中でも
暮らせるくらいの強さをもった
獣人っていうことなの!」
「すげーな。レベル64の俺ですら、
ソフィアいなけりゃ死ぬくらいの
危険地帯なのに、そんなところで
生活できるとはよほど強いってことか」
「そうなの。魔王、勇者、ギルドの
三勢力が彼らに手を出さない
と決めた最たる理由なの」
「敵に回すと怖いってやつか。
なるほどね。力をつけることで
永世中立地帯の地位を自力で
獲得したってわけか」
「力の勝利なの」
獣人の強さの他にも、この
メメントの森の魔獣が
天然の要害となっている面もある。
並大抵の練度の冒険者を送っても、
ケモノ村にたどり着く前に、
道中の魔獣に食い殺される
のがオチである。
王都のギルドマスターのギルダーが
シロートソフィアに闇クエストを
依頼したのも、そういった事情がある。
道中のスライムやゾンビや半魚人の
群れを超広範囲魔法で爆散させながら、
森の中をつき進む。
「うおお凄いまるで魔獣がゴミのようだ!」
「わっはっはははははっっははははぁ!
我は魔王ソフィアなのじゃー!」
(……そういや久々にソフィアの『我』
って、初対面の時に聞いたとき以来だなぁ
なんというか新鮮だな)
森のあちらこちだで爆炎があがる。
火事にならないように、念のために、
水魔法で消火するのも忘れない
このあたりが、なんだかんだで
人がいいソフィアなのであった。
上機嫌で魔獣の群れに爆撃を
食らわせるソフィア。
その姿はまさに魔王。
「そんなに魔法ぶっ放して、あとで
ケモノ村の人に怒られない?」
「大丈夫! 地形は変えないように
最大限注意して魔獣のみに効果が
あるようにしているなの」
ソフィアが進んだ先には魔獣が
存在しない無人の荒野ができていた。
「立ち塞がる者は全てブチのめす!!!
これが魔王の流儀なりぃっ!!!!!
げほんっげほんっ! むっ、むせたなの。
シロー水をよこすなの」
「ほらよ。魔王ロールプレーが
楽しいのは分かるが、あんまり
大声だしてっと喉がやられるぞ」
「あひがひょうなの」
ろれつの回らない言葉で、
ソフィアは感謝の意を伝える。
水筒の水を飲みながら、
喉をうるおすのであった。
シローはソフィアの口元をハンカチで
ぬぐい、ソフィアのよだれを拭き取る。
「そろそろ、メメントの森の
ケモノ村に到着するなの」
「あれがギルドマスターの
ギルが言っていた依頼人
が住んでいるという
獣人の暮らすケモノ村?」
「そうなの。ここが、目的地の
ケモノ村なの」
村の入口はアーチ状になっており、
そのアーチにはこう書かれていた。
『うえるかむ ようこそ ケモノパーク』
看板はどことなく赤茶けていて、
さびれた温泉旅館を想像させるような
作りの看板であった。
「ケモノパーク……?」
「ちがうなの……。それは間違いなの。
ここは、ケモノ村なの」
「でも看板にパークって書いて……」
「とにかくケモノ村なの。
いい? ケモノ村なの」
「そういうものなのか?」
「そーいうものなの」
『そういうものなのか』シローは、
一人うなづくのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます