第9話『新たなスキルとBBQ』

「結構歩いたな。王都からまる5日間か。

 魔獣肉の味もけっこー慣れてきたな。

 というか、肉はやっぱりうまいな」


「ボクも肉は好きなの。魔王の城では

 お皿にのった冷えた料理ばっかりだった

 から、焚き火で焼いた肉汁したたる

 肉は食べたことがなかったなのっ!

 直火で焼くのも楽しいなの」



「安全確認のために毒味とかしていると、

 どうしても料理が冷えるらしいな。

 なかなか、魔王というのも大変だな」


「なの。アツアツの出来たのごはんが

 食べられるだけで幸せなの」



「ははっ。ソフィアも欲がないな」


「勇者の身分を捨てた、シローも

 人のことを言えないなの」


二人は笑い声をあげる。



ここは、メメントの森の前。

夜間は(シローが)危険なので、

一夜あけてから森に入ろうという

ことになり、森の前にテントをはって、

二人で、夕飯を食べているのであった。


きらきらと輝く、満天の星空の下で、

焚き火に串刺しにした肉を

突っ込み直火で焼く、ソフィアとシロー。



満月が二人を照らしている。



調理に必要な火や水はソフィアの魔法。

食材は魔獣の肉。塩や香辛料は、

王都で調達したモノだ。


シローは、丸焼きにした

ウサギ型魔獣のまるやきの肉に

ファサァ……と空中から塩を散らす。


ウサギの肉は転生前は、シローは

就職祝いに連れていってもらった

フランス料理屋でラパンという肉

でごく少量食べたのが最後であった。


シローの両親も裕福ではないため、

ラパンの料理をありがたがって

食べていたのを覚えている。


数少ないシローの転生前の世界の

あたたかな記憶の一つである。



「シロー。実は、前から気になっては

 いたんだけど、少し聞きづら方

 ことが一つあるなの……」


もじもじと、少し気まずそうに

ソフィアはシローに質問する。


「ん? なんだ。なんでも聞いてくれ」


「シローのその塩のかけ方は儀式なの?

 高いところから親指を人差し指で

 こすりつけながらファサァッって

 塩をまくあのやり方……。

 ……なんというか不思議だったなの」


シローはこの世界にきてから、

焼いた肉を塩で味付けをする時に

妙にセクシーなしぐさで肉に塩を振る、

『塩振りおじさん』の塩のまき方を

マネをしながら、ファサァ……っと

上空から塩をかけるのにハマっているのだ。



特に深い意味はない。



「あの塩の振り方が一番肉を

 おいしく食べれる塩の振り方なんだ。

 俺は肉には詳しいんだ」


「ほんとかなぁー……なの」


「ああ本当だ。俺は肉には詳しいんだ」


「えぇ……。うさんくさい……なの」



シローは特に肉に詳しくい

わけではない。ただ、ネットの動画で

流行っていたものを真似ているだけだ。


むしろ、インスタントやカップラーメン、

シリアルなどの安価に調達できる炭水化物

が食生活のほとんどだったので、

調理の経験はほどんどない。


強いて言うのであれば、

油と塩だけで安価に食べれるペペロンチーノ

は得意料理といっても良いかもしれない。



「塩の件は置いておいてだ。

 俺結構レベルあがったみたいだぞ」


「へぇー。この5日間でどれくらい

 レベルアップしているなの?」


「いまはレベル64だ。

 約20レベルほど上がっている。

 それにともなって基礎能力も随分と

 上がってきている感じだな」


「わー! すごいなの。

 いい感じで鍛え上げられているなの」


「おかげさまでな。

 ありがとうな!」



当初は、素速さ全振りによる

加速に振り回されることもあったが、

シローは実践での戦闘経験を積み、

徐々に体の動かし方に慣れ、

いまでは使いこなしている。



「スキルポイントはどうするなの?」


「前回と同じように素速さ全振りだ。

 獲得したいスキルがあるからな」



シローは、スキルポイントの

全ポイントを素速さにつぎ込む。

獲得したいスキルの名は、



『ウィンド・ブレーカー』



自動発動型のパッシブスキルである。


超高速の戦闘機なども一定の速度を超えると

『空気』というみえない壁を牙をむき、

その壁によって自壊するという現象が生じる。


その空気という見えない『壁』を破壊する

スキルが『ウインド・ブレーカー』


このスキルを獲得することによって

加速によって生じる空気抵抗を限りなく

ゼロにすることが可能となる。



「おっし! 『ウインド・ブレーカー』ゲット! 

 能力の試運転にちょっくら本気で走ってみる」



今まではある程度の速度を超えると、

空気抵抗によって体にかかる負荷が

大きくなることが課題であった。


そのためシローはあえて速度を制限してきたが、

この能力を取得することによって、

ノーリスクで能力の使用が可能になる。


シローはクラウチングスタートの姿勢を取る。

地面を蹴る右足の靴底には、

青く淡い光を放つ魔法陣。


その青い魔法陣をシローは蹴る。

弾丸のように射出される、

初速を殺さないように左右の足で

更にスピードをあげる。


そして、ある速度を超えたタイミングで

シローの体に淡い青い光が灯り、

まるで、空気はシローを避けるかのように

シローの周囲には無風の状態になる。


その姿は、ソニッ○・ザ・ヘッジホッグ!

シローはソフィアの前を通り過ぎる。


「これが素速さ全振り。速い……なのっ!

 まるで、蒼き閃光!」


ソフィアは中にっぽいセリフをつぶやいた。

そういうのが好きな年頃なので、仕方がない。


魔力全振りとはいえレベル999の

ソフィアの動体視力はかなりのものである。


だが、そのソフィアでも肉眼で追うのが

困難なほどの速度をシローは実現している。



「はぁはぁっ……。全力で走ると疲れるな!

 ソフィアどうだった?」


「シローもまあまあ……やるなの。

 さすがは、ボクが鍛えただけ

 のことはあるなの」


「ああ。サンキューな。

 そのお礼に、俺の焼いたこの

 串し焼きをくれてやろう。ほれ」


串焼きの肉をシローは

ソフィアに手渡しをする。


「もぐもぐ。おいしーなの」



シローは、明日に決行する

闇クエスト『獣人の救出』のために、

ソフィアに質問を投げる。



「永世中立地帯メメントの森。

 なんというか微妙に寂れているな」


シローの目の前には、

錆びた看板が置かれていた。

その看板に書かれている文言は、



『あつまれ メメントの森』



鉄でできた看板は、経年劣化により

全体に錆ており、赤茶けていた。


どことなく、廃墟となった

遊園地を連想させるような

風化の仕方であった。



「永世中立地帯メメントの森、

 獣人たちの暮らす」


「その永世中立地帯っていうのはなんなんだ?」


「魔王も勇者もギルドも手を

 出してはいけないと言われている

 非武装中立地帯なの」


「ああ……なるほど。

 ギルは、ギルドが正式に

 動けないから闇クエストとして

 俺たちに依頼したわけか」


「基本的にはシローの認識で

 あっていると思うなの」


「基本的にというのは?」


「ここが危険な地域だからなの。

 このメメントの森に現れる魔獣は、

 スライム、ゾンビ、半魚人、巨大蜘蛛、


 触手の化け物、あと名称不明の目が

 たくさんある魔獣とか、明らかに

 他の魔獣と生態系が異なる奴らが

 群生している危険な地域でもあるなの」



「なんだそれ。やべーな」


「やべーなの」


「一体どうしてここだけ生態系が違うなの?」


「ボクも詳しいことは知らないなの。

 太古の昔に空から巨大な隕石が

 落ちてきて、それ以後急速に

 増えたという記憶が残っているなの」


「隕石が落ちてきて、繁殖した魔獣。

 なんとなく、宇宙的な恐怖を感じるな」


「とにかく、ここの魔獣は、

 うにうにしていてキモいなの」


(うにうにって表現かわいいな)


シローは言葉に出さずに、ソフィアの

「うにうに」という言葉を噛み締めていた。



「そもそも、このメメントの森は

 もともとは、移民の町だったなの」


「移民の町?」


「そう、多種族で構成される

 移民の町だったなの」


「どんな人達が移民してきていたんだ?」

 

「精神を病んだ人たち、セクシャル・マイノリティー

 人との付き合いが苦手な人……それこそ

 さまざまな悩みを抱えていた人が集まっていたなの

 苦しい思いをした人たちが築いた町」



「なるほど。俺も転生前の世界では、

 この町に移民する側の人間だったから、

 ここに来た人たちの気持ちは分かる」


「もちろん、移民でできた町だから

 最初は魔族、人間族、エルフ、ドワーフ

 といったように種族が異なる人達の

 間に小さないさかいが頻発していたなの」


 

「同じ人間族だけでも、住む地域によって

 考え方やルールが違うから、ましてや

 種族が異なるとその差は大きくなりそうだな」


「そうなの。その種族間の差を埋めるために、

 メメントの森に暮らすひとたちが下した

 決断が、獣と融合することだったなの」



「つまり……ここにいる獣人は、

 元は他の種族だったということか?」


「そうなの。でもいまは獣人なの。

 住人が全員、獣と融合することによって、

 種族間の問題は克服されているなの」



「随分と大胆というか画期的な解決策だな。

 面白い考えというか、良いと思うぞ」


「なの」


「それで、移民の町だったところが、

 なんで永世中立地帯になったんだ?」


「それは、明日には分かることに

 なると思うなの」


そういうと、ソフィアは小さなあくびをする。


「明日もあるからきょうは眠るなの。

 おやすみ。シロー」


「そうだな。おやすみ。ソフィア」



二人は、満点の空の下で寝袋にくるまり

そして、眠りにつくのであった。

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