第7話『マヨネーズシンジケートをぶっ潰せ!』

二人は、元の商人のところに戻る。



「おまたせしました。それじゃあ、極上の品質の

 マヨネーズが味わえるというその隠れ家に

 お連れしてもらえますかね?」


「お待ちしておりました。もちろんですよぉ。

 それでは私の後についてきて下さい。

 この路地裏はとても危険です。くれぐれも

 私から離れないようにしてくださいよ。

 この裏路地は治外法権なので、何があっても

 助けにくる人はいませんのでねぇ……」



王都の裏路地は、

毎日祭りが開催されているような

活気のある王都の中央通りとは

うってかわって、


雑多な違法建築物が立ち並ぶ、

スラムであった。


転生前の世界で言うならば、取り壊される前の

香港のクーロン城が一番近いだろう。



本来は道であっただろう場所に、

雑然とかってに作られた違法建造物が

たち並び、道は入り組み、案内人が

いなければもと来た道に戻ることすら困難である。



裏路地の路面には、ゴザの上で

横たわるやせ細った亜人や、売春のために

立ちんぼをする奴隷の少女たち。


なかには、明らかに奴隷ではない一般の女性

の姿もちらほら見られた。



そこは、華やかな王都の暗部であった。



「ひひひ。あなた様、あの花売りの少女奴隷に

 ご執心で? でも今は我慢してくだせぇ。

 あとでゆっくり楽しんでくだせぇ。

 最高のマヨをキメたあとの方が

 お楽しみなれれると聞きますよ?」



「一つだけ気になることがあるのですが、

 『お楽しみなれれると聞きますよ?』と、


 さっきからすべて、言葉が伝聞なのですが、

 おじさんはマヨネーズを食べたことないんですか?」



一瞬、顔が能面のように無の表情に

なったかと思うと、すぐに恵比寿様の

ような満面の笑顔に変わり、言葉を続ける。



「いやいやいや! 私は商人ですので、自分の

 商売道具に手を出すのは禁止されているんですよ!

 本当は私もマヨネーズを味わいたいんですが、

 我慢しているんですよお」



商人は過度にへりくだった態度で、

揉み手をしながらシローに告げる。

だが、にじみ出る胡散臭さは誤魔かせない。



「なるほど。それじゃ、引き続き案内を頼みます」


「もちろんです」


シローとソフィアは、商人の後ろをついて歩く。

裏路地は入り組んでいて、さながら迷路だ。

この商人からはぐれたら元の王都の

中央通りに戻るのは困難であろう。



「さあ、お疲れさまでした。ここが目的地です」


「……? ただの行き止まりですよね」


「ひひっ……ここから先は隠れ家ですから」



商人が行き止まりにしか見えない

裏路地の石造りの壁を何度か叩く。


すると、壁の向こう側からかすかに

男の声が聞こえてくる。


商人の男と、壁の向こうにいる男が

何度か暗号のような言葉を繰り返すと、

石造りの壁のように見えた扉が、

にぶい音をたてて開く。



(隠し扉! 随分と偽装に手がこんでいるな)



「ささ。どうぞ中にお入り下さい」


シローの背後で商人に聞こえないように

小声でソフィアがささやく。



「シロー。この先はきっと見たくもない物を

 たくさん見ないといけないなの。

 でも、少しだけ我慢して。


 下手に動いて逃げられたらあとが厄介なの。

 一網打尽にするタイミングを待つなの」


「わかった。証拠物品を目にしたあとに、

 一網打尽に出来るタイミングを掴む

 まではおとなしくしてるさ」



隠し扉の先は、裏路地の退廃とした世界とは

うってかわって、屋内は金色や赤色

を基調とした色鮮やかな装飾がなされており、

まるで貴族の社交場であった。



(事前情報から、アヘン窟みたいなのを

 想像していたが、随分と豪華なつくりだな……。

 それだけ儲かっているということか?)



この豪勢な建物には、明らかに

二種類の人間が存在していた。

端的に言うと、貴族と、冒険者。



シローのような、いかにも冒険者風の

姿の人間と、貴族風の者たち。



貴族風の男女はまるで仮面舞踏会

にでも参加しているのかのように

仕立ての良い服を着ていた。


そして、その顔には特徴的な

顔が半分だけ隠れるマスクで

顔を隠しながら優雅に談笑をしていた。




「あの仮面の人たちは一体どういった

 身分の人たちなんですか?」


「あの方たちは、この隠れ家の

 特別なお客様たちです。


 お忍びで来ている貴族や大富豪の

 ご子息ご令嬢ですね。あなた様も、

 長生きをしたいのであればあまり

 彼らの素性を詮索されないほうがいいでしょうな」


シローは、商人の言葉に無言でうなずく。



(……ワケアリ貴族ってことか)



「では。私の案内は以上です。

 あとは存分にお楽しみください」



そういって、大げさにお辞儀をすると、

男は立ち去っていった。




「ソフィア。もう喋っても大丈夫だぞ」


「はぁ……。ずっと黙っているのも

 なかなか大変だったなの。でも、

 その苦労にみあった成果があったなの。

 これは……シロー。超大金星なの!」


「どういうことだ?」


「ここはマヨネーズの密造組織の元締め組織なの。

 今までもマヨネーズの密輸を防ぐために、

 魔族のスパイは潜りこませようと

 してきたけど、うまくいかなかったなの」



「ありがと! まぁ、俺が人間族の

 冒険者だっていうことであの商人の

 ガードが下がったんだろう。


 中をザッとみたところ、ここには亜人とか

 いないようだし。魔族のスパイが内部に

 潜入できなかったのもその辺りが

 原因かもしれないな」



「あの商人の手引がないとここまで

 たどり着けないようになっているなの。

 それほどにあの裏路地の作りは複雑。

 ほとんど迷宮という感じだったなの」


「シロー。施設の内部を一通り探索するなの。

 いまここで大暴れしてもいいけど、

 逃げられる可能性もあるなの」


「了解。そうだな。しばらく中の様子を

 みてから、一網打尽にしよう」



シローとソフィアは施設内を探索する。

ある部屋には、いかにも貴族風といった

ような男女が、ゆったりとしていかにも

座り心地の良さそうな高級ソファーに

座りながら水タバコのような物を吸っている。



「あの人たちが吸っているのはなんだ?」


「マヨネーズを溶かした水を加熱して

 蒸気化したモノを吸引しているなの」


「マヨネーズを溶いた水蒸気を吸って

 気持ちよくなれるのか?」


「説明が難しいなの。シローには

 マヨネーズ完全無効化の勇者としての

 ユニークスキルがあるなの。覚えてる?」


「ああ」


「例えば、猫にマタタビを与えたら、

 酔っぱらった感じになるけど、

 人間が食べても、匂いをかいでも

 猫のようにはならないなの」


「なるほど。つまりは、マタタビの

 例でいうのであれば、俺が人間だと

 すると、この世界の人達は猫。


 だから、俺にはトリップする感覚

 というのは理解することができないと。

 こんな感じの理解で正しいか?」 

 

「それであっているなの」


「それにしても、あの貴族っぽい

 人たちは中毒にならないのか?」


「あそこで、ゆるんだ顔でトリップしている

 人たちもそのうちは中毒症状を悪化させて

 マヨネーズのことしか考えることができなく

 なるなの。


 そしてそこまで中毒にした後に、

 大金を要求したり、いろいろな便宜を働く

 ような使いやすい駒として扱うなの」



(転生前のテレビCMでも、最初は軽い気持ちで

 ドラッグに手を出した女子高生が最後には

 ヤク中になって死ぬみたいなのがあったけど、

 やっぱドラッグってヤバいんだなぁ……怖いなあ。

 ドラッグ、ダメ。ゼッタイ。)



「もちろん。無効化があるからってシローも

 吸っちゃダメ! 何かあったら大変なの!」


「そうだな。好奇心はネコをも殺す、とも言うし、

 危ない橋は渡らないようにするよ。それじゃあ、

 他の部屋を回るか」


奥の方に進むとさっきとはうって変わって、

シローのような冒険者風の男たちが、


こ汚い部屋で、壺に入ったマヨネーズに

手をを突っ込み、その手をそのまま舐めている。

ほのかに頬を赤らめて恍惚の表情である。



「やべー……」


「やべーなの」



その光景を眺めていると、その中の

一人の男が大声をあげる。



「マヨネーズ売ってください!

 どうか、マヨネーズ売って下さい!!

 そのためなら……何でもしますから!」



男が叫んでいる相手は、シローをこの

隠れ家に連れてきた、商人風の男である。


「ふん。マヨネーズが欲しいなら、その

 対価としての銀貨2枚を渡しなさい。

 当然、今日は持ってきたんでしょうねぇ?」


「そんな……っ酷いじゃないですか!

 銀貨2枚なんて払えるわけないですよ! 

 そもそも最初は銅貨10枚だったのが

 いつの間にかドンドン高くなっていって……。


 もう……っ私にはお金が無いんです!

 どこの質屋ももう、私にはお金を貸してくれない」


「いやいや。まだあなたはたくさん資産を

 お持ちですよお? あなたが知らないだけで。

 確か……あなた自慢のかわいい娘さん

 がいらっしゃるようじゃないですかあ?」


「そっ……それがどうしたと言うんだ!?

 いまのこの話と何の関係が……」



「お前のその自慢の娘さんを奴隷商に

 高値で売ればいいじゃないですか?

 銀貨2枚なんて余裕で支払えます。


 当面のマヨネーズ代に困らないくらいの

 高値がつきますよ? その前に私が

 先に味見をさせていただきますがねぇ。

 ひっひっひっ」



「ふざけるな!! 娘はまだ10歳だぞ!

 そんなことをさせられる訳がないだろ!」



「はぁ……。あなたは、需要と供給

 というものを何も分かっていない。

 

 幼い蕾のままの少女だから、高値で

 売れるんじゃないですか。


 咲いた花よりも、咲く前の花を

 愛でる人がこの王都には多いのですよ。

 ひっはっはっは!!!」


「貴様ああああああああああっ!!!!」



男は、商人に殴りかかるも軽くいなされる。



「おやおや、もとはそこそこ優秀な冒険者と

 きいていましたが、随分と衰えたようですねぇ。


 衛兵、この男を地下牢に幽閉しなさい。

 あなたが地下牢にいる間に、あなたの

 娘さんはたっぷりとこの私が調教して

 あげますからねぇ。ひっひっひ」



男は力の限り暴れまわるも、複数人の衛兵に

取り囲まれ、どこかに連れて行かれる。


「てめぇ!!! 必ずぶち殺すっ!!!!!」



「いや。――その必要はない。

 その男は俺が今ここで、ぶっ倒す」



シローは豚のように肥え太った

商人の顔面に拳をめり込ませる。



シローが繰り出したのは、スキルではなく

ただのパンチだが。魔王のパワーレベリングに

よって今のシローのレベルは46。


高レベルの勇者パンチをくらって

鍛えていない商人風情が、

ただで済むはずはない。



豚商人の前歯はことごとくへし折れ、

鼻はあらぬ方向に曲がり、

血が噴き出している。



「ぶっっぎゃああああぁあああ!!」



きりもみ状に回転しながら、

吹き飛ばされる豚商人。

豚のような悲鳴をあげている。


男を取り押さえていた衛兵たちが、

シローを取り押さえようと

じりじりと近づき包囲しようとする。



そこに、別行動をしていた

ソフィアがあらわれる。



「シロー。今のはなかなかかっこよかったの。

 ボクも、加勢するなの!」


そう言うとソフィアは詠唱を開始する。


「雷の精霊よ我が契約に応じ主の敵を麻痺させよ! 

 マルチプル・パラライズ・ランス!」


ソフィアの前面に複数の黄色の魔法陣が

浮かび上がり、その魔法陣から黄色に輝く

槍の形状の魔法が射出される。



対象を麻痺させる魔法『パラライズ・ランス』



麻痺の状態異常が付与された無数の

魔法の槍を衛兵たちの胸に突き刺さる。


衛兵たちは、ピクピクと

痙攣しながら床に倒れる。



「ナイス・フォロー! ソフィア」


「シローもナイス・ガッツ!」


「シロー。よくやってくれたなの。

 正直、スカッとしたなの」



「さすがに我慢の限界だ! ここから先は

 この組織をぶっ潰すまで大暴れだ!


 ソフィアは、出入り口の方に向かってくれ。

 人数が多いから大変だと思うが、

 誰もこの施設から逃がすな!」


「りょーかいなの!」



「俺は、このふざけた施設の

 元締めを見つけ、ぶん殴ってきてやる」



シローは奥へ奥へと進んでいく。

騒ぎを察知した他の衛兵が、

シローを取り囲もうとするが、シローの

基礎的な体術だけで制圧されていく。


レベル46による基礎体力の高さはもとより、

シローは素速さ全振りである。



シローがジャブを繰り出せばそのジャブの速さは、

通常の訓練しかうけていない衛兵ごときには、

視認することする不可能。


シローのジャブを喰らえば、一瞬で意識を失い、

気付いたら地面に伏しているというありさまである。

当然ガードも不可能である。



目の前にも新たな衛兵。シローの高速のジャブが

衛兵の無防備な顎に直撃。


一瞬で激しい脳しんとうを起こし、

倒れ意識を失った。



後ろから、追いかけてくる衛兵たちも、

素速さ全振りのシローにおいつけるはずもない。

シローは追手を振り切り、この施設の最深部へ進む。



シローが、施錠されたドアを

前蹴りで蹴り飛ばすと、靴底が

当たった部分から扉が爆散した。



「ちっ……。見たくもねぇツラを

 一日に二度も見るとはなあ。今日は厄日だぜぇ。

 おい、冒険者の兄ちゃんよお」


「そのセリフはこっちの方だ門番!」



 最奥の部屋に鎮座する、

 このシンジケートのボスは王都の

 出入を管理している門番であった。



「門番なのにソフィアを買うために、

 金貨10枚は出すとか随分と気前が

 良いと思ったがそういうことか!」


「はは。そのとおりだわなぁ。

 表の顔は王都の門番。

 裏の顔は、マヨネーズシンジケート

 つまり、ここのボスだ!」


「なぜ、表と裏の顔を使い分ける」



「外から訪れる人間は全て王都の門を

 必ず通る。外から入っていくる

 金を持ってそうな奴やマヨネーズ

 中毒になりそうなカモを

 選別するには最も最適な仕事なんだよ!


 それに、王都の外からきた人間なら、

 王都内の人間をカモにするよりも

 足がつきにくい。

 

 さらに、冒険者をうまく取り込めば、

 王都だけではなく、外の国にも商売するための

 運び屋にすることもできるからなぁ」



(ソフィアの言っていた、魔族の都での

 マヨネーズ密輸の理由もそういうことか……!

 マヨネーズ中毒にさせて運び屋として使う、

 なんて狡猾で卑劣な奴なんだ!!) 



「雑談はこれで終わりだ。

 ただの門番だと甘くみたのが運の尽きだ! 

 俺は由緒正しい――戦士の孫!」

 

「……戦士の孫?」


「そうだ。だがなぁ、ただの戦士の孫じゃねぇ……。

 勇者パーティーに属していた戦士の孫、センシー様だ!


 その血を引いた俺に、てめぇのようなひよっこ

 冒険者が勝てるはずがねぇのよ!

 口からヘドぶちまけて死になぁ!!」



センシーを名乗る男は、身の丈ほどある

ウオーアックスを力任せに横薙ぎに振り回す。


シローはこの攻撃を、上体を反らせることで回避。

素速さ全振りのシローが、避けられない速さではないが、

喰らえば致命傷は免れないだろう。


センシーがウオーアックス振るうたびに

部屋のあちらこちらが破壊されていき、

木片や鉄片が床に散らばり、徐々に

シローの足場も少なくなっていく。


「へへ……。お兄ちゃん、随分とスピード

 には自信があるようじゃねぇか! 

 でもこの足場じゃあ、お前のご自慢の

 スピードも生かせねぇんじゃねぇか?」



(ちっ! こいつ、脳筋に見えて

 意外に策を弄するタイプか戦士の孫を

 名乗るだけのことはあるということだな。

 恐るべき相手だ。センシー!)



「センシー。俺も素手では分が悪いようだ。

 ここから先は俺も本気だ。武器を使わせてもらう

 それで問題がないな? センシー」



「はっはっは! 武器を持とうが持つまいが

 どちらにせよ貴様の死は確定事項よ。

 許可を取るまでもないことよ。


 そのようなみすぼらしい短剣でこの

 ウオーアックスに太刀打ちができると思うたか。

 愚かなる冒険者よ」


「やってみなきゃわからねぇぜ?」


 シローは腰の鞘から抜き出した

 短刀を右手に構える。


 盗賊のボスから奪い取った黒光りする

 ワザモノの短剣。


 シンプルな見た目ではあるが、その刃の切れ味は

 魔王のソフィアも認める一級品である。



「ふっ。度胸だけは大したものだな。

 殺すには惜しい男よ。名を名乗れ。

 その名前、覚えておいてやろう」



「俺の名前はシロー。冒険者だ」



「ふふ。シローとやら。面白い。だがなぁ、

 ……実力の伴わぬ勇気は蛮勇というのだぁああ!!

 がらあああああああぁあああああああっっ!!!」



センシーは上体を最大限にひねり、

腰のバネを最大限に活かし、

ウオーアックスを横薙ぎに振り回す。


シローはこれを見切り、

床を蹴り空中に跳ぶ。


だが……センシーが放った分かり易い軌道の

大ぶりの一撃はあくまでもフェイント。

本命は、その後であった。



「シロー。貴様が空中に逃げることは

 よんでいたぞおおぉ!!!!!!!

 これでしまいだらあああああ!!!!」



センシーはシローに回避され空振りとなった

ウオーアックスをぐるりとさらに一回転させ、

シローが跳んだ上空にウオーアックスを振り上げる。



センシーの対空迎撃用の戦技!  



ウオーアックスの軌道はシローを確実に捉えていた。

空中で、回避行動をとることは不可能。

よって、シローの体がセンシーのウオーアックスに

両断されることはもはや時間の問題でしかなかった。



『ハイ・ジャンプ』



シローは小さつぶやく。シローは曲芸師

のように空中で体をくるりと反転させる。

足元に淡い光。


靴底には青色の魔法陣。


シローは足のヒザを限界までかがませ、

バッタのように最大限の力で魔法陣を蹴り、

自分自身の五体を弾丸と化しセンシーの

元に跳ぶ。――目にも止まらぬ一閃。



「なに……っ!!」



ウオーアックスを振るっていたセンシーの右腕が

どさりと音をたてて、床に落ちる。

数瞬遅れて、右腕の切断部から出血。



「まだ。やるか?」


「ふう。こんな小僧に俺の右腕を取られるたぁ

 俺も焼きが回ったなぁ。俺の負けだシロー」



センシーはそう言うと、残った左手で、

腰の鞘から小刀を抜き出し、

自分の心臓に突き立てる。



「冒険者シローよ。貴様の勇敢さは

 称賛に値するが、まだ甘いな。

 俺が知っている情報はあの世に持っていく……

 地獄で待っているぞ、シロー……がはっ!!」



センシーは言い終わるや否や吐血して死んだ。

この男は人を人とも思わぬ、紛うことなき外道であった。


だが最後の瞬間だけは戦士としての

尊厳を取り戻したのであった。



「シロー。こっちの方は全部片付いたなの!

 ここにいた人間は全員ボクの麻痺と

 束縛の魔法で拘束したなの。

 こいつら全員ギルドに突きつけるなの」


「こっちも、ギリギリなんとかなった……ぜ!

 ソフィアの顔をみて安心……したせい…

 か…急に……疲れがドッときたみた……」



シローはソフィアの顔を見て緊張の

糸が途切れそこで意識が途切れたのであった。

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