第6話『マヨネーズをぶっ潰す!』
「そこのお兄さん。その串肉をもっともっと!
美味しく食べられる、王都の隠れ名産品、
"魔法のホワイトソース"に興味はありませんか?」
(なんだこのウサンクサイ笑顔の商人……。
怪しさ全開だな……キッパリ断ろう)
「すみません。結構です」
「結構……。それはつまりOK……。
"YES"ということですね?」
「いやいやいやっ! 俺のいった『結構』は
必要ありません、不要のNO、
という意味で使ってますんで……」
(このおっさんグイグイくるな……。
生保の電話営業かよ)
「冷たいですねぇ! そんな情のないことを言わずに!
あなた様の貴重なお時間をほんのちょっとだけ
いただくだけですから。えぇ……。
決して、あなたに後悔をさせませんので」
(繁華街の呼び込み並か。しつこいなぁ……)
「いや、お気持ちはありがたいんですけど!
ほんっっと! すみません。
王都にくるまでにけっこーハードな
長旅をしてきたので今日は疲れているんです。
いち早く宿でゆっくりしたいんですよ。
またお会いする機会がありましたら。ではっ!」
シローは、怪しげな商人風の男との会話を
打ち切り、その場から立ち去ろうとする。
「よよよ……。実は、ノルマがありまして、
どなたか連れてこないと私がボスに
怒られるんですよ。
見知らぬお方、どうか……
この私のことを救うと思って!」
シローはこのおっさんの言葉のニュアンスと
表情がどうにも嘘くさいと感じたが、
生来の"困っている人から頼み事をされたら断れない"
お人よしなところが災いし、足を止める。
「まあ、じゃあ立ち話くらいなら聞きますよ。
王都の特産品のソースでしたっけ。
そんなにうまいんですか?」
「美味いのなんのって、一度味わったら最後
二度とはソレなしでは生きていけなくなる
ような代物でございますよ」
(……ドラッグかな?)
「それでは、話を聞いてくれたお礼に、
あなただけに特別に無料で、
ソースの味見をさせてあげますよ。
特別です……。
きっと世界が変わりますよ?」
やけに親切な商人風の男は、白いトロミ
がかったソースが入ったガラス瓶から
ソースをヘラでかき出し小皿に分け、
シローに差し出す。
「どうぞ、そのソースを舐めてみて下さい
きっとあなたの世界が変わりますよ」
「ペロッ……。これはマヨネーズ」
「……っっなの?!」
後ろでさっきまで奴隷のふりをするために、
黙っていたソフィアが驚きのあまり、
思わず小さな声をあげる。
「へっへっ。あなた様お察しの通り……マヨネーズです。
"マヨネーズ"の名前を知っているとは、あなた様も
相当のワルですね」
「まぁ……マヨネーズくらいは知ってますよ?」
「もう! 知っていたなら早くそう言ってくださいよ?
人が悪い……。でっ、どうですブツの味は?」
「いや、特に感想はないです。
これ、いたって普通のマヨネーズですよね?」
「おお……。あなた様ほどの中毒……じゃなくて、
舌の肥えたお客様になると、この程度の
粗悪な質のマヨではトリップできないと?
もっと質の良いマヨを寄越せと!
そういうわけですね?」
(マヨネーズでトリップ? 脱法ドラッ○かな)
「わかりました。それなら、
あなた様にはごく一部の者しかお連れしない、
とっておきの極上のマヨネーズを
味わえるところにお連れしますよ」
ソフィアが、シローの服の袖を
引っ張って何かしら話したいことが
あると視線で合図を送ってくる。
「ちょっと、一旦待ってくれますか……?
俺の奴隷がおしっこがしたいと言ってますので。
トイレが終わるまで、ちょっと待ってくれますか?」
「あらあらあら。奴隷なんてそこらへんで、
用をたさせればいいじゃないですか?
おしっこくらいそこらへんでさせればいいんですよ。
奴隷ごときにトイレなんてもったいない……」
シローは一瞬激昂しそうになるが、
異世界と地球の価値観の違いなどもあるの
かもしれないと考え、ぐっと我慢する。
「でもそうもいかないと思いますよ?
ほら、衛生面の問題とかあるじゃないですか?
それに、あなたの発言、不愉快です」
商人風の男は、キョトンとした顔で
シローの話を
「はぁ……すみません。衛生面。ですか?
そうですね。あなたは見た目に
似合わず意外と潔癖なんですね。
いいでしょう。それでは、私はここで
お待ちしていますので奴隷の排泄が終わったら
ここに戻って来て下さい」
シローは商人の物言いにイラッと
したが異文化の常識の違いというの
もあるのだろうと、ぐっと我慢し、
ソフィアと男の元を離れる。
「あれがソフィアの言っていた、王都を
むしばむ"マヨネーズ"ってやつか?
俺にはただのソースとしか感じなかったけど、
それほど危険なものなのか?」
「この世界の人間にとっては、とても危険なものなの……。
王都のみならず、更に危険な質の悪い
粗悪品が周辺国にも出回っているなの。
ボクの支配する魔族の都でもどこからか
粗悪品が密輸されてきているなの……」
「どうしてそんなにヤバい扱いなんだ?」
「論よりも証拠なの。シロー、試しに
ステータスウィンドウの耐性の
項目を確認してみるなの」
シローは状態異常耐性の項目を確認する。
そこには勇者のユニークスキル
『マヨネーズ完全無効化』を見つける。
「おいおい。この世界では"マヨネーズ"
って状態異常の一つなのか?」
「そうなの。この世界では、マヨネーズは
根治不可能な中毒症状を引き起こす
状態異常なの。特に人間族にとっては
効果絶大なの」
「他の種族が食べた場合はどうなんだ?」
「オーク族のように生まれた時から
『マヨネーズ耐性:弱』を保有する種族は
例外として、猫科の獣人なんかは人間族と
同じように中毒にかかる劇物なの」
「俺の持っている『マヨネーズ完全無効化』
を持つ奴は他にいないのか?」
「『マヨネーズ完全無効化』は勇者の
ユニークスキルなの。レベル999の
魔王であるボクですら耐性は、
『マヨネーズ耐性:強』止まりまでなの」
「耐性のない奴がマヨネーズを
摂取するととどうなるんだ?」
「最終的には、死ぬなの。
マヨネーズが厄介なのは遅効性の毒という点なの。
摂取してすぐに中毒症状がでるわけではないなの。
人によって差はあるけど、一ヶ月後とか
三ヶ月後とかに発症することが多いなの」
「発症まで時間がかかるのは厄介だな……
無害だと勘違いして、その間に、悪気なしに
広めてしまう可能性が高い」
「そうなの。だから自分が食べて中毒に
ならなかったと勘違いして、家族や友人にも
勧めて、本人だけじゃなくて周囲の人間まで
まとめて中毒になるということが多いなの
過去にマヨネーズの中毒性を訴えた人間も
いたけど、ことごとく神隠しにあったかの
ようにいなくなってしまったなの」
「拡散性のある薬物か。それは、ヤバいな。
それで、中毒になるとどうなるんだ?」
「まず、最初は『またあれを舐めたいな』みたいな
弱めの症状がでてきて、時間が経つにつれて、
『人を殺してでもまたアレを舐めたい』ってなる、なの。
徐々に頭のなかで欲求が肥大していって、最後には
マヨネーズのことしか考えられない廃人になるの」
「例えば、中毒になった人間がそのまま
マヨネーズを吸い続けたらどうなるんだ?」
「まず初期症状として劇的に体重が増加するなの」
(まあ。マヨネーズはカロリーが高いからね)
「次に、顔を中心として肌荒れがひどくなるなの
吹き出物とかニキビとかが出るようになるなの」
(脂質が高いからなぁ……)
「症状が進んでくると血圧が高くなるなの」
(塩分の過剰摂取で高血圧になるということかな?)
「そして最後には、脳が爆発して
目と鼻と耳から血を噴き出して
苦しみながら死ぬなの……」
「脳が爆発っ!!!???
それに顔の穴という穴から出血?!
……なんで最後だけそんな恐ろしい
ことになってんだよっ!」
「この世界の人間は基本的に、
マヨネーズを腸内で消化できないなの。
だから徐々に体内の血中マヨネーズ濃度が
高まっていくなの」
(水銀を大量に含む魚介類の過剰摂取
による水銀中毒みたいなものか?
教科書とかでしか見たことないけど)
「そして、蓄積された血中のマヨネーズが
血流に乗って最終的に脳の血管に
固着していくなの。
そして徐々に脳の血管が圧迫されていき、
最終的には、完全に脳の血管という血管
が詰まって破裂するなの。恐ろしいことなの……」
「やべーな。中毒になって最終的には脳が爆発とか」
「ヤバいなの」
「そんなもん闇でも流通させるわけにはいかないだろ。
そんな闇業者とっとと潰すしか無いな。
おしっ! マヨネーズをぶっ潰そう!ソフィア、
協力してくれるか?」
「もちろんなの。まだ大々的な問題になって
ないだけで、ボクの都にも粗悪品が闇ルートで
密輸されているなの。マヨネーズ汚染は、
魔族の都にとっても他人事ではないなの」
「おっし! そうとなりゃ、善は急げだ!
あまり長居していると怪しまれる。
あの怪しげな商人のところに戻って、
状況を探ろう。あとは臨機応変に」
「おーっ! りょーかいなのっ!!」
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