第57話 楽園


 翌朝


 村人が総出でムサガ村に向かうと……全員が驚いた。


「これは一体……」

「凄い……」

「どうやって……」


 畑と言う畑には作物が青々と実っており、池には大きな魚が泳いでいる。

 収穫した作物らしきものを蔵に入れている子供たちが居るが、入りきらなくて困っているようだ。

 そして、沢山の子供たちが村の中を元気に走り回っていた。


「わーい♪ 」

「待て待てぇ♪ 」


 全員の血色がよく、助けに来た村人よりも元気そうだ。


「あっ! お父だ! 」

「お母が居る! 」


 何人かは親を見つけたのか駆けて来て親に突撃する。

 そのあまりの元気の良さに親の方が倒れてしまうほどだ。

 英吾は驚く嘉麻に笑って言った。


「やっぱりな……」

「英吾……お前はこれがわかってたのか? 」

「ああ、だって子供の腕が明らかに違うだろ? 」


 呆気なく答えて子供の腕を指さす英吾。

 丸々と太っており、明らかに栄養が良好である。

 夕べ貰った種もみを見せながら言った。


「こいつはただの米じゃない。まあ、日本に居る俺たちにとってはただの米だが、この時代にとっては重要な米なんだ」

「どういうことだ? 」

「この米は『緑の革命』を越えた米なんだ」

「……緑の革命? 」


 訝し気な嘉麻に説明する英吾。


 緑の革命というのは簡単に言うと『穀物の生産性を大きく向上』させることだが、その中には「品種改良」もある。

 実は江戸時代の米に比べると現代日本の米は遥かに品質が向上しており、味は元より、生産性も大幅に高い。

 病気や天災にも強く出来ているので栽培がしやすいのだ。

 そして、ゴンゾに尋ねる。


「それと、『7回生まれ変わっても農民』と言ったな? 」

「そうでおじゃる」

「ひょっとしてその中には日本よりも農業が発達した世界もあったんじゃないか? 」

「……えっ?」


 英吾の言葉に嘉麻の顔が凍り付いた。


「……そうでおじゃる。麿はその中でも農民として生涯村で過ごしたでおじゃる……麿も都会でアルビルとかしたかったでおじゃる……」

「アルビルってのはよくわからんが、多分、その世界での流行の遊びだな」

「そうでおじゃる」


 それを聞いてにやりと笑う英吾。


「つまりは今の日本よりも優れた農作技術も持ってるわけだな」

「そうでおじゃる。でも、そんなもの何の役にたつのやら……」

「……お前……本気で言ってるのか? 」

「????????」


 嘉麻のあきれ声に不思議そうに首を捻るゴンゾ。

 英吾はパンパンと手を叩く。


「これで分かっただろ? こいつは殺す必要はない。このまま俺たちが連行していく。それでいいな? 」

「はあ……」

「まあ、たしかに……」


 微妙な顔で村人が答える。

 それを見て訝しむ嘉麻。


(うん?なんだ? )


 村人がどうも嬉しそうに見えない。

 嘉麻は強面の顔をさらに険しくして尋ねる。


「どうした?子供も元気だし、こいつも別に悪いことしていたわけじゃない。何も悪くないだろ? 」

「ま、まあそうですな! 」

 

 そう言って無理矢理笑顔を作る村人たち。

 それを見てさらに訝しむ嘉麻。

 だが、英吾はすぐに気づいた。


「おい、お前ら……ひょっとしてこの子たち……口減らしのつもりで生贄に出したんじゃないか? 」


 それを聞いて村人全員が何とも言えない顔で目をそらした。

 嘉麻はそれを聞いて目を見開かした。


「おい……じゃあ、この子たち……」

「そもそも『要らない子』だったんだよ。多分、本当の子供たちは別に隠してたんじゃないか? 」


 英吾は額に青筋を立てて睨み付ける。

 対する村人たちは目を逸らすばかりだ。


 すると麿は困った顔で答えた。


「麿はライブの後は普通に解散したでおじゃる。でも、誰一人として帰ろうとしなかったでおじゃる。みんな『帰るところが無い』と言っていたので連れ帰っただけでおじゃる」


 それを聞いて村人の顔が完全に青ざめる。


 結局、体よく利用して子供を捨てただけだったのだ。


 残酷なようだが、これが現実である。

 日本でも昔は子殺しは何度も行われていた。

 時によってはお隣同士で互いの子を交換して殺してその肉を食べたこともある。


 飢えはそれだけで地獄を作るのだ。


 英吾もそれがわからないわけでは無い。


 何しろ、英吾達が受け入れた子の大半が『口減らし』なのだ。

 だから、飢え死に寸前の子供まで受け入れていたのだ。


(飢えはそれだけで人の心を荒ませる……)


 村人を怒るわけにもいかず……

 かといって許せない怒りもある……


 そんなモヤモヤを抱えて怒りを止めるように英吾は必死で自制した。


「英吾……」


 おなじようにやるせない顔になった嘉麻が慰めるように肩を叩く。

 それを笑って受け止める英吾。


「……大丈夫だ……」


 英吾はゴンゾの縄を解いてやった。


「まろ? 」

「お前はとりあえず屋敷に連行する。この村の子供たちもだ。それから……」


 英吾は目の前の田畑を指さして言った。


「村長。この田畑はお前たちが管理しろ。良いな? 」

「は、はい! 」


 慌てて頭を下げる村長。

 こうして、周辺の村を無駄に騒がせた吸血鬼の問題が解決した。

 だが、周辺の村人は微妙な顔でこれを受け入れた。


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