第56話 前世
とりあえず、吸血鬼マーロとその仲間をぐるぐるに縛って村まで連行して取り調べを始める英吾達。
「でっ? お前は結局何なんだ? 」
「ふっ、先ほども話したであろう? われの名は吸血鬼太閤「もう一回殴られたいか? 」ムサガ村のゴンゾって言います」
「自白早いな~」
「手間取らせるよか良いだろ? 」
グーパンで脅す英吾と呆れる嘉麻。
英吾は村長に尋ねる。
「ムサガ村ってどこだ? 」
「あの山を越えた向こう側にあった村ですが……」
「……あった? 」
「ええ。ですが今はだれも住んでいないはずです」
「……どういうことだ? 」
「飢饉で住民が離散したんです……」
「…………」
村長の重々しい言葉に英吾は顔を顰める。
だが、吸血鬼改めゴンゾは涙を浮かべながら言った。
「麿は口減らしのために置いて行かれたのでおじゃる……」
それを聞いて全員が沈鬱な表情になる。
食べていけないと親でも平気で子供を見捨てる。
それが飢えであり、窮乏なのだ。
ゴンゾは泣きながら話を続ける。
「ある日、気が付いたら父上も母上もみんな居なくなっていて、麿だけが村にぽつんと一人で居たでおじゃる。ひもじくてひもじくて木の皮を食べて飢えをしのいでいたら……突然目覚めたのでおじゃる! 」
そう言ってパッと顔を上げるゴンゾ。
「何にだ? 」
「前世の記憶でおじゃる! 」
ポンッ♪
再び煙を出して先ほどの公家姿に戻るゴンゾ。
と言っても相変わらず縛られているが。
英吾はジト目でゴンゾを睨む。
「ちなみにお前は前世で何やってんたんだ? 」
「ヴィジュアル系バンド『HEIAN狂』でおじゃる! 」
それを聞いてあきれる英吾だが、そのまま話を続けるゴンゾ。
「故に麿は吸血鬼太閤『麿』としてこの世に復活したでおじゃる! 」
「……何の役に立ちそうもない前世だな……」
あきれ顔の英吾。
「大体、そんな名前のバンド聞いたことも無いぞ? 日本でやってたのか? 」
「やってたけど、メジャーになり切れなかったでおじゃる……」
「まあ、『太閤』なんて名前使ってりゃなぁ……」
あきれ顔の英吾に不思議そうに尋ねるゴンゾ。
「何故でおじゃる? 太閤とは豊臣秀吉もなった由緒ある最高位でおじゃるよ? 」
「『太閤』ってのは摂政を経験した人が隠居した時に与える『称号』だよ。ほとんど何の権限も無いんだよ」
「まろぉぉぉぉぉ……」
そう言って泣きそうになるゴンゾ。
英吾は呆れていた。
(というか、俺が日本を知ってることに疑問持たねぇのかよ! )
諦めて他の事を尋ねることにする英吾。
「大体なんでバンドなんかやってたんだよ……普通に町で仕事すりゃいいだろ? 」
「麿は悔しかったでおじゃる……ずっと農民ばかりやらされる人生が終わったかと思ったら、また農民だったでおじゃるから……」
「……うん? どういう意味だ? 」
訝し気な顔で英吾はゴンゾを見る。
「前世の記憶で分かったのでおじゃる……麿は……七回生まれ変わって全部農民だったでおじゃる……」
「一応、この小説はカクヨムで書いてある小説だからな? 最強の剣士とか魔法使いとか、そういった役に立つ前世持てよ? 」
「無茶言うな英吾……そんなもん持とうと思っても持てるもんじゃないだろ? 」
問い詰める英吾にそれを止める嘉麻。
ゴンゾは尚も涙ながらに語る。
「麿はビッグになりたいのでおじゃる! だから歌で世界を制覇したいでおじゃる! 」
「この時代のこの生活様式で出来ると思ってるのがすげぇな……」
あきれ果てる嘉麻。
ぶっちゃけ、この時代の歌手はほぼ根無し草で野垂れ死にコースである。
そもそも歌手はさほど地位が高いものではなく、オペラなどに出る『俳優』でも地位は低く、基本は大道芸人のような扱いである。
実は歌手が高い地位を持つようになったのは『蓄音機』や『レコード』が一般的に出回るようになったからで、それまでは底辺職の一つでもある。
(馬鹿馬鹿しい理由でバカバカしい考えだが……)
当人にとっては大事なことなんだろう。
英吾は呆れながら続きを尋ねる。
「そんで、何でヴィジュアルバンドやってた奴がこんなところに居るんだ? 」
「渋谷のハロウィンにロードローラーで乱入したら、うっかり足を踏み外して下敷きになったでおじゃる」
「吸血鬼なのにロードローラーに轢かれて死んだのかよ……」
あまりにバカな死にざまにさらに呆れる嘉麻。
だが、英吾は少しだけ別のことが気になった。
「というかお前は飢えで死にそうだったんじゃないか? どうやって助かったんだよ? 」
「それは……こうやったでおじゃる」
そう言ってゴンゾは手のひらで握っている物を縄で縛られながらも見せた。
それはもみ殻のついた米だった。
「……米? 」
「前世で栽培していたものを召喚することが出来たでおじゃる……」
「……前世で栽培していただと? 」
それを聞いて眉を顰める英吾。
すると、村長が大声をあげた。
「もういいでしょう! さっさとこいつを殺しましょう! 」
村長がそう言うと村人の一人が斧を持ち出した。
「こいつで首をはねますので下がっててください! 」
そう言っていきり立った村人たちがゴンゾを乱暴に捕まえて引っ立てる!
「さあ来い! 外で首はねてやる! 」
「ひぃ! ま、まろは何もわるいことしてないでおじゃる! 」
「うるせぇ黙れ! 子供の敵だ! 」
泣いて怯えるゴンゾだったが、その時だった!
バチィン!
「いてぇ! 」
ゴンゾを引っ立てようとした村人が痛そうに手を当てながら飛び退る!
そしてゴンゾの首の上に一本の棒が立ちふさがった。
「そいつの首をはねるのはダメだ」
英吾がそう言って村人たちを睨んだ。
だが、村人たちは叫ぶ。
「そいつはうちの子を誘拐したんだ! 」
「そんな吸血鬼野郎は殺してしまえ! 」
「お前も吸血鬼の味方をするのか! 」
そう言っていきり立つ村人たち。
だが、英吾は睨みながら叫んだ!
「黙れ! 」
ピタリ
いきり立った村人が全員静まり返る。
嘉麻はそれを見て震える。
(出た……英吾の怒鳴り……)
英吾はよく怒るが本当に怒ることはまずない。
だが、本当にキレた時の英吾は恐ろしいほどの「オーラ」を出す。
(要所要所でこういったこと出来るからこいつはすげぇんだよな……)
英吾の『声』は叫んだだけで相手を制圧することも出来る。
そんな不思議な力を持っていた。
英吾は静かに言った。
「夜が明けたら、こいつをムサガ村まで連れて行く。村長。案内しろ」
「はあ……それは構いませんが……」
そう言ってチラリとまだ怒りがくすぶっている村人の方を見て困り顔になる。
「まずはムサガ村だ。それからこいつの処遇は決める。それで良いな? 」
「……本当にそいつの首をはねてくれるんですか? 」
それを聞いて英吾はにやりと笑った。
「はねる必要はない」
ザワッ
村人たちの間に再び怒気が高まる。
だが、英吾は一緒に縛られている子供たちの手を取った。
子供たちはゴンゾと一緒に来た子供だが、ぷっくりとした子供らしい柔らかい手を取って英吾は笑った。
「連れて行かれた子供たちはまだ生きている。そうだな? 」
それを聞いて子供たちがこくりとうなずいた。
ザワッ!
再びざわめく村人たち。
だが、今度は怒気よりも戸惑いの方が多い様だ。
「ま、そっち見てからだな。今日は全員休め。明日は早いぞ? 」
そう言って英吾は村人たちに笑いかけた。
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