第55話 舞踏会(バンケット)


「MAROoooooooooooooo!!!!!!!!」


 シャウトする麿と呆然とする英吾。

 すると周りに居たお稚児さんみたいな子供たちから音が聞こえた。


ドンドンドンドン!

ジャラジャラジャラジャラ!


 どうやらドラム代わりの太鼓と銅鑼を鳴らしているようだった。


「……えーと……」


 英吾は呆然と様子を見ている。

 だが、麿は平然と三味線を鳴らしながら歌い始めた。


「恐怖におびえる♪ 都大通り♪ 」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 気持ちよく歌う男を呆然と眺めている英吾だが、ようやく事態を把握した。


(……ひょっとしてこいつは歌いたいだけか? バンドのライブをやってるつもりなのか?)


 何やらビジュアル系バンドの真似事のようなことをやってるようだった。


(そういや、ヴィジュアル系バンドのライブのこと舞踏会って言うんだったっけ? それに生贄ってのはファンのことを指してたような……)


 それに気づいた英吾は何も言わずに隠れていた嘉麻を手招きして呼ぶ。

 そして髪の毛に刺しておいた一本の小さな楊枝のような物を取り出してぽつりと呟く。


「戻れ『縦横無尽』」


ビヨン!


 奇妙な音を立てて、楊枝が一本の棒に変化した。

 英吾の持っている『縦横無尽』と呼ばれる神器で様々な変化をする棒である。

 平たく言えば如意棒みたいな武器である。


ガシッ


 何も言わずに棒を地面に突き立てた後、そのまま麿の方に棒を向ける。


「あれをやるんだな」


 呼ばれて出てきた嘉麻があきれ顔で麿の方を見る。

 麿はその様子に気付いたようで嬉しそうに叫んだ。


「ほーほっほっほっ! どうやらようやく麿の歌のすばらしさに気付いたようだな! さぁ我が歌に酔いしれよ! 下等な人間どもよ! 」



 そう言って歌を再開する麿。

 一方、嘉麻は英吾の突き立てた棒に顔を当てて、棒先が麿の方を向くように狙いを定める。


「もうちょい右」

「こうか? 」

「麿に~♪血を♪捧げたまえ~♪」


 歌を全く無視して何かやってる英吾と嘉麻と、それらを全く無視して気持ちよく歌う麿。


「おっ良い感じ」

「じゃあ行くぞ」

「ふーかき♪森のおーくで♪そびえ~たつ~♪嘆きの~お堂♪ 」


 狙いを定めて深呼吸する英吾と気持ちよく歌い続ける麿。


「ストップ。ちょっとずれた」

「おいおい。しっかりしろよ」

「すまん」

「ひーかり♪ 拒み彷徨う ♪妖怪の巣窟♪ 」


 ちょっとだけ揉める二人と相変わらず気持ちよく歌う麿。


「「・・・・・・・・・(無言で狙いを定める二人)」」

「ジャンがジャンがジャンがジャン♪(間奏中)」


 片方で騒がしく歌って、片方で無言の作業を続けている状況を見て、村人たちが呆然と立ち尽くす。


「村長……ひょっとして、ただ怯えただけ無駄だったのでは? 」

「かもしれん……」


 いい加減に状況を把握してきたのか、村長たちも一緒に見学を始めた。

 それを見てますますノリノリになる麿。


「かーわき♪飢えたきーばで♪なぞるぅ~♪そのうなーじぃ♪ 」


 声も段々高まって最高潮へと上がっていく!

 一方、英吾達は無言で照準を定める。


「よし、OKだ。そのまま固定」

「わかった」

「憂い♪抗えなーいさだめ♪ 菊を~♪まとうもーのぉぉぉぉぉ♪ 」


 そしてついに曲が最高潮に達した!


「我の名はぁぁぁぁぁ!!!!! まぁぁぁぁぁろぉ!!!! 」

「伸びろ縦横無尽」


ゴッ!


 最高潮に達した吸血鬼太閤『麿』の頭に縦横無尽が直撃してマーロはぶっ倒れた。


ポンッ


 すると奇妙な音を立てて煙が出た。


「何だ? 」


 英吾は慌てて駆け寄ってみると、そこには髪の長い平凡な顔の村人が一人ノビていた。


「……ひょっとしてこいつが吸血鬼太閤マーロの正体か? 」

「みたいだな」


 二人は呆然と気絶した村人を眺めていた。


用語説明


ヴィジュアル系バンド用語


 何やらややこしい言い方をするということだけを知ってる作者なので、多少の間違いはお許しください。


 ついでに言えば、正しい言い方を知ってる方は教えてください(´;ω;`)

 今一つわからない……






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る