第53話 吸血鬼


 英吾と嘉麻はとりあえず荷馬車に乗った子供たちをアベシたちに預けて屋敷へ送ってもらい、英吾と嘉麻で状況を尋ねることにした。


「こちらを見てください」


 そう言って、村長はある紙を見せる。

 そこにはこう書かれてあった。


『ふはははははは!

 我は吸血鬼大公マーロなり!

 今宵は我が魔界より生まれて千年!

 偉大なる吸血鬼マーロは血と生贄を所望する!

 この日より、満月の夜には我が眷属らと共に舞踏会を行う!

 村の者共はミヤビ山の中腹の『ガガクの岩』に来るがよい!

 愚かなる者どもにわれの偉大さを見せてやろう! 』


「「・・・・・・・・・・・・・・」」


 やたら汚い字で書かれたその紙を見て困った顔になる英吾と嘉麻。


「なんつーか……」

「すげぇ痛いな……」


 頭の悪そうな文章に辟易する二人。

 困った顔の村長が言った。


「正直申し上げて、どうしていいかわからないので、毎月、月終わりに生贄を一人ずつ送っていたのですが……」

「それが子供たちだったと……」

「はい……」


 さめざめと泣く村人たち。


「それ故に子供がもはや一人も居ない村になってしまい……どうしたらいいか……」

「なるほどな……」

 

 嘉麻も渋い顔で手紙を眺める。

 英吾は不思議そうにする。


「一つ尋ねたいんだが……満月ってのは月終わりの事なのか? 」

「ええ、そうですよ? どうしましたか? 」

「……何でもない」


 英吾は不思議そうだが、納得する。


 この世界の月は土星のような環状の月なので『月が満ちる』というのは12の月獣が変わる時を示している。

 そのため、満月の日は晴れていればわかるものである。

 だが、英吾は不思議そうにしている。


(変な感じだな……『満月』って俺らの世界の言い方だろ?)



 何となく違和感がぬぐい切れない英吾。

 

 当り前だが『月が満ち欠け』するから満月と言う。

 これは英語でもフルムーンという言い方をするので洋の東西を問わず共通の言い方である。

 一応、こちらでも『満月』という言い方はするのだが、『月の終わり』という言い方の方が一般的だ。


 だが、訝し気な英吾を置いて話は進む。

 村長は自身の家の床に土下座して頼んだ。


「おねげぇしますだ領主様! どうか今年の税は免除してくだされ! 」

「……実際に言われるとむっちゃ困るな」


 困り顔になりながら方言でぼやく嘉麻。


 嘉麻から見ても一度免除すると、これから先の統治が上手くいかないのがわかるのだ。

 

 当り前だが、「何であの村だけ税が免除される! 」と不平不満が出る。

 そもそも、現状でも「貧しいのは理由にならない。他の村も税を取るべきだ」との声が多かったのだ。

 英吾の提案もある意味『渡りに船』だったのだ。


 労役で返すことで税金を払ったことにするのは理にかなっていた。

 それすらも出来ないと言うのだ。


(一人許せば全てを許さなくてはならない。法律の最大の問題点だな……)


 頭を抱える嘉麻だが、英吾が声を上げる。


「その吸血鬼大公とやらを倒せば問題ないだろ? 」


 それを聞いて全員がざわついた。

 嘉麻が困った顔で言った。


「おい英吾。本当に倒せるのかよ? 」

「……わからん。だが、とりあえず会いにいけば良いだろ? 」


 そう言って招待状?が書かれた紙をひらひらさせる。


「幸い、今日は月終わりだ。今日の夜にこいつの顔を拝みに行こう」

「良いのか? 」


 嘉麻の言葉にこくりとうなずく英吾。


「生贄はどうする? 」

「俺がなろう」


 そう言って英吾は手足をパタパタさせて笑った。


「嘉麻じゃどう頑張っても大人にしか見えん。おれなら子供の振りは……まあ、何とかなるだろ」

「まあ……ギリ、見えなくもないかな? 」


 嘉麻は15歳だが190を超える大柄な体つきで細身ながらもがっしりと筋肉が付いている男だ。

 どう頑張っても子供には見えないのだが、英吾は身長が168と微妙な身長で童顔だから子供に見えなくもない。


「嘉麻は近くで見張っていてくれ。俺は生贄の振りして待ってるから」

「わかった」


 そう言って二人は笑いあった。


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