第51話 枯れる作物


 そして翌日


ゴォォォォォォォォ


 英吾達三人の目の前では濁流が流れている。

 

 ここは領内に隣接する『ハンシン大河』の岸辺である。

 ハンシン大河はミルガ王国全体の北の国境線となっている大河で、その豊富な水量は付近の国々を潤わせている。


 特に英吾達が居るヴァリス領は向こう岸が見えないほどの川幅になっており、もはや海と言っても遜色がないほどの広い川である。


 それだけに川の岸も半分崖のようになっており、東映のオープニングレベルの切り立ったところもあるが、一部、崖が緩いところがあり、川岸に隣接している場所に大きな洞穴があり、そこから川の水が押し寄せているところがある。


 大昔に使われていた用水の取水口である。


 だが、今ではその用水の入り口は岩で塞がれていたが、そこから小さな用水路を引いてため池があり、その池の脇に小さな畑があった。


 畑には小麦や野菜、豆などの様々な作物が植えられているが……


 その全てが枯れていた。


 それを見て困った顔になる英吾。


「やはり、育たないか……」


 ここで農業の試験を行っていたのだが……全然作物が実らないのだ。


 英吾はスティに尋ねる。


「数日前に良い感じの雨が降っていたからいけるかもって思ったんだけどなぁ…… 」


 悔しそうな英吾。

 一緒に来た嘉麻もトレードマークのアフロが心なしか萎れている。


「どれか一つぐらいうまく行ったことは無いんですか? 」


 嘉麻がスティに尋ねるが、スティは重々しく首を横に振る。


「ダメです。十分な水を与えましたが作物が育ってくれません。一度、一か月ほどここで野営して色々試したこともあるんですが……」

「……そうか……」


 悔しそうに呻く嘉麻。

 ゴムが手に入ってから数か月、軌道に乗り始めると同時に英吾達は農業の試験を行っていたが、どれ一つとしてうまく行かなかった。

 

(漫画知識ながら輪裁農業もやってみたが……)


 何をどうやっても植物が育たなかったのだ。

 嘉麻が不思議そうにスティに尋ねる。


「遥か昔、ここは大規模な穀倉地帯であったと聞いているのですが……それが何で荒れ地に? 」


 そう言って辺りを見渡す嘉麻。

 見てて嫌になるほどの荒野でほとんど砂漠と言って良い。

 植物もほとんど生えておらず、雨が降りやすい土地柄が無ければ砂だらけになっていただろう。


「わかりません。あのヴァリスの町もこの辺一体の帝国の帝都だったと聞いています。それぐらい裕福でしたのに何故か今は荒廃した土地だけなんです……」

「何でそうなったのやら……」


 スティの言葉に嘉麻もぼやく。


「神の怒りに触れて作物が育たなくなったと聞いております。あのラルゴ魔城も元は皇帝の居城で、神の怒りに触れて、城は呪われ、田畑は荒れ果てた荒野に変わったと言われております」

「……確かにそれを信じたくなるぐらいの酷さだな……」


 嘉麻が忌々しく枯れた作物を手に取って呟く。

 ここ数か月は『誰が先に出来るか競争♪』っとまで言っていたのが、あまりに酷すぎてやる気すら失われていたのだ。

 嘉麻が辛そうにぼやく。


「農学者が居ればいいんだが……」

「この時代にそんな人はいないよ……」

 

 悲しそうに英吾はぼやく。

 学者の大半は近代に入ってから生まれた職業で、要は様々な分野の技術が細分化され始めたからである。

 分野ごとの知識量が膨大になり、一人の頭で理解しきれなくなったのだ。

 そして、この時代の農作技術とは実は薬学に近い。


 英吾は土を掘って首を傾げる。


 土は固く、変な色をしていて、明らかに育ちにくい土だ。


「土がダメらしいが、だからと言ってこれをどうにかする方法も分からない……」

「どうすりゃいいんだよ……」


 英吾は頭を抱えて悩んだ。


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