第49話 飢餓


 そして一か月後……


「なあ……お前らもうちょっと言い方を何とかならない? 」


 英吾は馬車を動かしている金髪モヒカンに尋ねる。

 モヒカンは頭を抑えながら口を尖らせて仏頂面で答えた。


「アベシは悪くないもん。何一つ嘘言ってないもん」

「その面でそういう言い方するなよ」


 仏頂面の金髪モヒカン……名前はアベシだが……アベシを睨む英吾。

 すると後ろで子供たちの相手をしている金髪ツンツン頭も抗議の声を上げる。


「アベシもタワバも本当の事しか言わなかったよ! 」

「いや、本当のことは言ってんだよ? ただ、あれじゃどう見ても人買いが子供攫いに来たようにしか見えねーんだよ! 」

 

 そう言って怒る英吾。

 ちなみに金髪ツンツン頭はタワバという名前である。


「子供は大事に預かって、簡単な仕事だけをやらせてそれでも高いお給料上げるでしょ? 」

「それは間違っていない」

「夜に読み書き教えてあげるって言ってたじゃないか! 」

「それも間違ってない」

「「じゃあ、何が悪かったっていうんだよぉ! 」」

「その面でそんなこと言っても説得力がねぇんだよ! 」


 英吾は二人に怒鳴り返した。

 二人とも納得いかない顔で口を尖らせてよそを見ている。

 彼らは今、次の村へと向かう途中で、馬車の後ろには子供たちが乗っている。

 今のところ子供たちは持ってきた食べ物をもしゃもしゃ食べており、食べていない子は寝ている。


 中には大幅にやせ細った子供も居たが、そちらは嘉麻が先に町の医者の所へ連れて行った。


 すでにお腹がガスで膨れており、極めて危険な状態で、その状態で下手に御飯を食べると頓死する。


 とりあえず、少量の水に浸したパンだけ食べさせて、馬車を走らせていた。


「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」


 無言で目の前のパンを頬張る子供たちの姿を見て少しだけほっとする英吾。

 馬車には大量のパンが置いてあり、子供たちが好きなだけ食べられるようにしているが、全員が黙々と食べている。


「予想以上に食糧事情がヤバいな……」

「仕方ないよお兄ちゃん。この辺は特にヤバい土地って言われているから……」

「そうなのか? 」

「ほら、あそこのラルゴ魔城なんかは常に屍人がうろついてるって言われていて、誰も近寄らないよ」


 そう言って金髪モヒカンのアベシが指さしたのは遠くにうっすらと見えているヤバい雰囲気の城であった。

 金髪モヒカンは続けて言った。


「あの城の向こう側には魔王の領地になっているって言うし……ここは向こうの領地から逃げ出した亜人達が勝手に住み始めているんだ。お父ちゃんの話だと僕も向こうのエルフが食うに困って人買いに売ったから奴隷になったみたいだし」

「未だにお前がエルフというのは信じられん……」


 ジト目になる英吾。

 だが、金髪モヒカンのアベシは言った。


「でもこの鋲付きの黒革服はエルフの民族衣装だよ? 多少の違いはあるけど、エルフはみんなこういったトゲ付きの黒革服を着て、上半身は半裸と決まってるんだ。マミヤ姉ちゃんもアイリ姉ちゃんも一緒でしょ?」

「……わかった。要は名前が一緒で全く違う種族だ」

「一体どんな種族と比べたの? 」


 不思議そうな顔をしてるが、どう見ても世紀末雑魚の金髪モヒカン少年アベシ。

 話を変えようと英吾はぼやく。


「ジャムを持ってきておいてよかったな……」

「そうだよね。アレが無かったら死んでた子も居たと思う……」


 英吾はここに来る前にジャムを多く買っておいたのだ。

 本当は子供に甘味で安心してもらおうと作っておいたのだが……


「まさか、連れて行く子供の半分以上が飢餓で死にかけてるとは思わなかった……」

「甘味で助かる命もあるんだね……」


 しみじみと呟く世紀末雑魚。

 果物を煮詰めただけの簡素なジャムだが、子供の命を助けることに一役買っていた。


(どうしたものかな……)


 英吾は考えていると後ろで面倒を見ていた金髪ツンツン頭のタワバが叫んだ。


「アベシ! もうパンの残りが少ない! 次の村で終わりにしよう! 」

「わかった! タワバもそう言ってるから次の村で終わりにしよ? 」

「わかった」


 そう言って英吾は次の村で子供を集めて屋敷へと戻った。


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