第45話 お金はある!
時は少し遡って一か月前。
ヴァリスの領主の館では何名かの男女が庭の大釜で茶色い何かを煮込んでいた。
「ふぅ……ふぅ……」
そして、数名の者はその茶色いものを鋳型に流し込んでいる。
彼らが作っているのは『フォルン』という物で平たく言うとゴムの事である。
最近、領主のスティ王女の下男として入った二人の少年が大富豪ゴンヴォルの謎を解き明かしてゴムの生産が出来るようになったのである。
何しろゴムは様々なことに使える上に、ここでしか生産できないので良く売れる。
毎日フル稼働しても追いつかないぐらいなのだ。
そんなゴムを生産する様子を二階の窓から眺めている男が居る。
強面の大柄な黒人の男で髪は縮れてアフロヘアになっており、気難しい顔になっている。
そんな怖い顔をさらにゆがめて男はぼやいた。
「……人が中々集まらないなぁ……」
「すいません……私のせいで……」
後ろに居た茶色いショートヘアの少女が身体を縮こまらせながら困った顔で謝る。
少女は小奇麗だが、質素な貴族の服を着ており、そばかすがまだあるものの、顔立ちはそこそこ可愛い、地味系の美少女と言った感じである。
もうちょっと化粧したら清楚系美人になるのかもしれない。
彼女の名前はスティグミ=アーシア=マイルグ
このマイルグ王国の王女でこのヴァリスの領主である。
彼女は『災いの姫』と呼ばれており、災いに巻き込まれてはかなわないと人々が敬遠しがちなのだ。
これほど良く売れて、従業員の給料も相当高給になっているのに、それでも人が集まらないのだ。
人々の彼女を見る目がどういうものなのか想像がつくだろう。
慌てて黒人の男が言った。
「いやいや、スティのせいじゃない。なんかうまい方法をやれば絶対人が集まるから」
そう言って励ます黒人の男。
彼の名は嘉麻 一石。
ある日突然この世界に送られた少年の一人で、強面に長身なので勘違いされがちだが、まだ15歳である。
彼はこの『フォルン』の謎を解き明かした少年の一人でこの特需の立役者の一人である。
万年金欠だったヴァリスが最近は超黒字経営なので、非常に裕福である。
滞りがちだった町のインフラは整えられてきて、ヴァリスの町自体は活気が出てくるようになった。
だが、一方で特需に対応できていないと言う問題もある。
悩まし気な嘉麻は視線を部屋の床に向けて言った。
「おいバカ。なんかいい案は無いか? 」
「……少しは俺を助けようという気持ちは無いのか? 」
床に正座をして縛られている少年がぼやく。
少年の左目の下には涙ボクロがあり、愛嬌のある顔を悲しそうに歪ませて座っている。
彼の名は久世 英吾。
嘉麻と一緒に何故かこの世界に送られてきた少年で彼もまたフォルンの謎を解いた立役者でもある。
実は二人とも元は日本に居たのだが、何故かいつの間にかこの『ヴィルタ』の世界に来てしまったのだ。
よくある異世界転移というやつである。
それはそれとして、そんな立役者が何故縛り付けて正座させられているのかと言えば……
「スティ様。このバカは何やったんだ? 」
「メイドに手を出そうとしました」
「じゃあ、仕方ないな」
あっさりと諦める嘉麻。
すると涙目の少年 英吾が抗議の声を上げる。
「はい!はい!はい!はい! メイドに手を出しているのは嘉麻君も一緒なので同じ罰を与えるべきだと思います! 」
「ちょっと待て。俺は手を出してはいない」
「すでにヤッたと聞いてるぞ! 」
「失礼な。俺はただ付き合っているだけだ」
「絶対悪いのはやることやってる嘉麻君だと思います! だからもっと重い罰をお願いします!」
必死で食い下がる英吾。
だが、スティは困った顔で答える。
「でも付き合っているのでは仕方ありませんから……」
「何で! 何で俺だけダメなの! 」
さめざめと泣きながら抗議する英吾。
そんな英吾にスティは優しく言った。
「これはあなたに立派な騎士になって欲しいと言う私の親心です。ですからキチンと節度を守ってください」
「じゃあ、あいつも立派な騎士にしよ! そしたらあいつも罰与えるんだよね! 」
「諦めろ俺はエロゲーの主人公になるから騎士にはなれない。お前はラノベの主人公になるんだ。だから諦めろ」
「じゃあ俺もエロゲーの主人公になる! 主人公になってハーレムを作る! 」
「許すと思いますか? 」
「…………………………思いません……………………」
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