おまけ 吸血鬼大公マーロ

第44話 世紀末?

 マイルグという国がある。


 人と亜人と魔人が住まうルミリア大陸の南の方にある小さな国であり、一言で言えば辺境である。

 主要な街道からも遠く、国民は貧乏とは言えないものの裕福とは言えない普通の国であった。


 そんなマイルグの東の果てにヴァリスという土地がある。


 その土地は一言で言えば荒れ地ばかりで、わずかながらの耕作可能な土地で耕作して何とかやっていける程度の土地である。


 当然ながら、大半の集落は貧しく、盗賊も決して少なくはない土地で、治めるのが難しい土地である。


 とはいえ、現領主にしてマイルグ王女であるスティグミ=アーシア=マイルグは善良な領主で徴税が難しい者は無税としてくれる良い領主であったが、一方で『税収が少ない』のでインフラが全く進まないため、貧乏な状態が続いていた。


 そのヴァリスにはエゼットという村があり、ヴァリスの村らしく貧乏な寒村で完全に税が免除されていながらも貧しいままという村だった。


 そんな村にある異変が起きた。


「おかあさぁぁぁぁぁん!!! 」

「ひゃっはぁぁぁぁぁぁ!!!!! 子供だぜェェェぇぇぇ!!! 」


 金髪モヒカンと金髪ツンツン頭の二人の男が両脇に子供を抱きかかえて笑っている。

 男は鋲付きの黒い革服を着ており、悪魔の様な顔つきで目つきが鋭く、耳が上を向いて尖っていたので本当の悪魔のような顔つきだった。

 現実世界の我々なら『世紀末雑魚』と言えばわかりやすいだろう。

 そんな地球が核の炎で包まれない限り表舞台に出ないような男たちが子供を両脇に抱えて笑っている


「お願いします! せめて! せめて娘に乱暴しないでください! 」


 泣きながら懇願するやせ細った母親らしき女性。

 だが、金髪モヒカンは嬉しそうに笑って言った!


「安心しな! あんたの娘はここの領主のスティ様がだぁぁぁぁいじに預かってやるからよぉぉぉ!!! 」


 凶悪な笑みを浮かべながら笑う男。

 すると隣にいる金髪ツンツン頭が笑った!


「ちゃぁぁぁぁぁんと子供に出来る仕事を与えてやるから安心しな! 」

「それもたぁぁぁんまり稼げる仕事をな! 」


 ぎゃははと笑う男たち。


「ああ……」


 目を覆って崩れ落ちる母親。

 娘で簡単に稼げる仕事と言えば体を売る以外にない。

 まだ10歳にも成っていない我が子がそんな仕事をするようになるとは思わなかった。

 心の中で悲しそうに嘆く。


(どうして! どうして急に税を掛けてきたの! )


 とてもではないが自活できないことはここの領主も知っているはずだ。

 それ故に税金を免除してくれていたのに、ある日突然税金がかかるようになったのだ。


 一か月前に数人の役人が「これからは全ての領民に税をかける」と一方的に告げられて、しかも猶予は一か月しかなかったのだ。


 当然払う当てなどなく、どうなる事か思っていたら、一か月後に本当に徴税官がやってきた。

 そして目の前の男たちは、信じられない事に『徴税官』で税金を押収する役人と名乗っていた。

 そして税金が払えないのであれば労役で払うようにと娘を取り上げたのだ。

 やっていることは完全に人身売買である。


(何故! 何故このようなむごい真似を領主自らがやるのか! )


 運命に嘆き、泣き崩れる母親に対して男たちはさらに笑いかける。


「おっと! 泣くことは無いんだぜ? 」

「俺たちがちゃぁぁぁぁぁんと面倒見てやるからよぉぉぉ」

「安心していいぜぇ? 」


 そう言ってぎゃはははと笑う男たち。

 その言葉が全く信用できるはずもなく、さらに顔を曇らせる母親。

 男たちはさらに笑って言った。 


「仕事だけじゃなくて色んな勉強を教えてあげるからなぁ! 」

「夜にちゃーんと俺たちが懇切丁寧に手取り足取り教えてやるからよぉ」

「わかるまでつきっきりだろ? なぁ兄弟? 」

「当たり前だろ? 」


 そう言ってぎゃはははと笑う男たち。


「ああ……」


 もはや何の希望も残されないと母親が絶望したその時だった!


 メコォ!


 男たちの後ろ頭を一人の男がジャンプ蹴りした!


「「どぉぉぉぉ!!! 」」


 思いっきり吹っ飛ぶ金髪モヒカンたち。

 母親は呆然と金髪モヒカンを蹴った男を見た。


 中肉中背の黄色い肌の男で黒い髪を後ろで無造作に束ねている。

 割と小奇麗な服を着ていて、最初に『徴税官』と名乗った男だ。

 まだ年若く、15歳ぐらいだろう。


 愛嬌のある顔で左目の下に涙ボクロがあるのが印象的な少年だった。

 その男が肩で息をしていた。


「お・ま・え・ら・なぁぁぁぁぁぁ!!!! 」

「落ち着け英吾! 」


 怒り狂った涙ボクロの少年が叫ぶと後ろから背の高い強面の黒人が羽交い絞めにして止めた。


「ちょっとは言い方考えろ! 」

「気持ちはわかるが暴力はイカン! 」

 

(……一体何が? )


 二人の様子に母親は不思議そうな顔をした。


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