第43話 物語は終わらない


「いやぁ食った食った~」

「久しぶりの肉だったな~」


 英吾と嘉麻は二人で寝室で一服していた。

 これからの前祝いとして関係者一同でしたささやかな宴会だったがしばらく肉を食べていなかった二人にとっては立派なごちそうだった。


「こっちに来てから粗食で苦しかったからな。あんなに食べたの久しぶりだわ」

「先進国日本の凄さがわかったろ?」


 忘れがちだが食糧事情は決していいものではない。

 ましてや大帝国ではなく、地方の小国のさらに小貴族である。

 懐事情が裕福な所でも今の日本と比べたら、最貧国と同レベルと言える。


「毎日麦粥と野菜のスープだもんな。クリィさんは料理上手だけどそれでもきついもんがあったからなぁ……」

「それでも毎日食べられるだけマシだぞ。この辺の食糧事情はそれよりもさらに酷い」

「……まじで?」

「ああ。とりあえずお金は確保できるようになったからそこから改善して行かないとな」


 そう言って資料に目を通す嘉麻。


「とりあえずは灌漑工事から始めないといけないんだが……どうも荒れ地に水を撒いたからと言っていいものではないらしい」

「……そうなの?」


 嘉麻はゆっくり頷く。


「土壌の改善とかも必要になるらしいんだが……やり方がどうにもわからなくてな。農業の専門家を呼ばないといけないらしい」

「……きてくれるの?」


 嘉麻はかぶりをふる。


「そもそも、農業が科学大系に組み込まれたのは富農や錬金術師が自主的に研究を始めたからであって,

それまでは知ってる奴は知ってる程度のものだったらしい」

「……え~と……つまり?」

「誰に聞けばいいのかわからない状態だ。一応研究機関はあることはあるが、帝都の方にあるからそっちで招く必要がある」

「……帝都?」

「ここは小国マイルグ国でエルミリア帝国の傘下にある。この辺はお前の方が詳しいんじゃないか?歴史得意だろ?」

「う~ん……国によって形が違うから何とも……後で調べてみるよ」

「頼む。俺も歴史は専門外だ……」


 そう言って嘉麻もベッドに腰を下ろす。


「今日の所は寝ようか。シクージャやってお前も大変だったろ?」

「あれぐらい大した事ねえよ。あいつら弱すぎ」

「大勝ちしたのが接待かもしれんぞ?」

「あの顔から察するに本気だろうな」


 そう言ってにやりと笑う英吾。


「元々あの手のゲームは得意だからな」

「世紀末雑魚があべしとか言いながら背中から倒れた時は笑ったわ」


 そう言ってくすくす笑い出す嘉麻。


「犠牲になったメリルの心意気を無駄にしないためにも頑張ったのになぁ……でもくたびれ儲けにならなくてよかったわ……」

「ホントだな……」


 しみじみと語る二人。


「メリルちゃん……お礼にやらせてくれないかな?」


 ずるっ


 思わずベッドから落ちそうになる嘉麻。

 慌ててベッドの端を掴み床の手前で止まり、ゆっくりと降りる。


「メリルはダメだぞ。お前にはスティがいるだろ?」

「それはそれ。これはこれだよチミィ。本命は本命で必要だけど別腹も必要と言うか……」

「そのいい方酷いぞ!」


 抗議する嘉麻だが、英吾は平然と答える。


「いやいや、異世界に来た以上はハーレムを築かないといけないでしょう? こんなメシがまずくて、生活も不便な世界に長く居る必要なんか無いんだし」

「その認識間違ってるからな。あと、そう言うセリフは帰り方を知っている奴のセリフだぞ?」


 嘉麻の冷静なツッコミを入れるが英吾は聞いてないフリをする。


「そのためにも!色んな女の子を助けてハーレムを築かねば! 目指せハーレムエンド! 跳び越えろジャンプ基準! 目指せエロゲー化!」

「先に書籍化を目指せよ!」


 熱くなる英吾にツッコミを入れる嘉麻。


「そしてエロゲー化の為にもメリルちゃんにお願いしてきます!」

「何するつもりだてめぇぇぇぇぇ!」

 

 そう言って英吾の服を掴んで止める嘉麻。


「とにかくメリルは諦めろ! お前はスティに集中するんだな」

「スティは手を出しちゃダメな相手じゃないか! それじゃハーレムは作れない!」

「だったら違うのを最初に選んどけよ! と・に・か・く! メリルはダメだからな!」


 そう言って頭から湯気を出す嘉麻。

 それを聞いて眉を顰める英吾。


「お前……メリルちゃんと何かあったか?」


 ぴたりと嘉麻の動きが止まる。

 そして急に目をそらして焦り始める。


「おい嘉麻……てめぇまさか……」

「……お先に御免……」


しーーーーーーーーーーーーん・・・・・・・


 一瞬にして部屋の中が静寂に包まれる。


「きたねぇぞ!てめぇだけ!」

「いいじゃねぇか!」


 瞬時にしてお互いを怒鳴り合う。


「いつだ! いつの間にやった!」

「お前がスティに教育されてる時だよ! 誘われてそのままベッドインしただけだよ!」

「道理であの姉ちゃんの脅しをさらりと返すわけだ! 先にいい思いしやがって!」

「いいじゃねぇか! 折角誘ってくれるんだから乗ったって悪くねぇだろ!」

「こうしちゃおれん!」


 そう言って寝巻のまま部屋を出ようとドアに向かう英吾。


「どこに行く!」

「メリルちゃんにやらしてもらえるように土下座してくる!」

「ちょ……ちょ待てよ!」

「待たん!」


 そう言ってがちゃんとドアを開ける英吾。


「どこへ行くんですか?」


 ドアを開けるとスティがにこやかな笑みを浮かべて立っていた。

 動きをピタリと止めて冷や汗を止まらなくなる英吾。


「え~と……いつから居たの?」

「別腹も欲しいと言ってたところです」


 にこやかな笑みのままどす黒いオーラを吹き出しながら答えるスティ。

 それを見て震えた英吾はそのままドアを閉めようとする。


バキっ!


 ドアノブが盛大な音を立てて壊れスティの手で廊下へと放り投げられる。


「あらあらドアが閉められなくなってしまいましたね……」


 どす黒いオーラを吹き出しつつにこやかな笑みを絶やさないスティにガタガタと震える英吾。

 ゆっくりとまわれ右してベッドに入ろうとするとその襟首をがっしりと掴まれる。


「さ、深夜のお仕事が待ってますわよ」

「え~となにするんですか?」

「穴を掘って埋めてを朝まで繰り返す簡単な仕事です」

「それ拷問だから!頭がおかしくなるから!」

「じゃあ、騎士の心得を朝まで書き続けてもらいます」

「それも嫌だぁ~~~!!!」


 嫌々するように泣きながら首を振る英吾。


「さ、行きますわよ。駄犬」

「その呼び名はいやぁ~~!!!」


 ずるずると引きずられる英吾。

 それを見てクスリと笑う嘉麻。

 するとスティが引きずっていった方向とは逆の廊下からメリルが顔を出した。


「何かあったんですか?」

「何にも。それより、今日はどうだい?」


 パンパンとベッドを叩く嘉麻。

 それを見てうふっと笑うメリル。


「だんだん手慣れてきましたね」

「そっちの方がいいだろ」


 そう言ってメリルは嘉麻のベッドに向かう。

 メリルがベッドまで来ると嘉麻はランプの灯を消した。


 その夜は英吾の悲鳴とメリルの嬌声が屋敷中に響き渡った。

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