第42話 フォルンの正体

 そして次の日


 屋敷の庭には全員が集まっていた。

 嘉麻のやることを全員がぽかんとみている。

 


「……みた事あるなぁとは思ってたんだ」


 そう言って樹液が集まる様子を眺めている嘉麻。


「ファンタジーみたいな世界で柔らかい石っていうから賢者の石を思い浮かべていたけど、よく考えたら物理法則は一緒なんだ。ぐねぐねでピンと来た」


 そう言って、器に入った樹液を少しだけスプーンで掬う。


「これがフォルンの『原石』だ。俺達の世界ではゴムと言われているがな」

「……気付かなかったなぁ……」


 苦笑する英吾。


「道理でおかしいと思ったぜ。採掘方法がやたら隠されてる割りに採取方法を書いた本が無いんだからな。こんな簡単な方法なら口伝で十分だからな」

「いちいち残す必要も無かったんだね」


 苦笑する英吾。


「でも……それだったらどうしてゴンボルが死んで作り方がわからなくなってたんでしょう? 庭の木から樹液を取っても作れたんでしょう?」


 メリルが不思議そうに尋ねる。

 それを聞いてクリィが答える。


「調べてみたのですがゴンボルは長男にしか教えてなかったみたいです。その長男が事件の3か月ほど前に事故で死んだので後継者を考えている内に事件が起きてしまい、秘密のまま終わってしまったんでしょうね」

「ゴンボルの強欲さが裏目に出たんですね」


 悲しそうに言うスティ。


「そうゆうことだ。みんな手分けしてこれと同じように樹液を集めてくれ。確かすぐに加工しないといけないはずだから全員で試作品ぐらいは作れるようにしよう」

「「「「はーい」」」」

 そう言って全員で手分けして作業を開始した。


そして一ヶ月後


「……確かにフォルンですね……」


 アクドイが驚いたように出来上がった試作品を眺めている。


「コイツを加工すれば色んな事が出来るようになる。これを見てくれ」


 そう言って机の上にずらりと並べる嘉麻。


「まずは下着だ。伸縮性があるから楽に着れる。勿論、他の衣服にも応用可能だ。これは緩衝材。少々重いもんでも下の土台を傷つけずに使える。これは滑り止めだ。これは……」


 一つ一つ説明していく嘉麻。

 それを見て苦笑する英吾。


(こうして考えるとゴム製品って多いんだな……)


 忘れがちだが日常のあらゆるところにゴムは使われている。

 形が変わり、伸縮性が高いのは使い勝手がいいのだ。


(しかも無限に作れる資源だし! 木が成長するまで待たなくていいし!)


 ゴンボルが自分の子孫のために用意していた山だが、これだけの数のゴムの木があれば、慌てて植林する必要性も無い。


「こんなところかな? これを全てあんたの所で販売するようにしよう。それでいいか?」

「いいもなにも……こちらからお願いします。どうかよろしくお願いします」


 そう言って頭を下げるアクドイ。


「ホントに作ってくるなんて……」


 マミヤが苦笑する。


「約束忘れてないよな?」


 にやにやと笑う嘉麻。

 それを見て英吾が口を尖らせる。


「お前だけずるいぞ。俺もまぜろ「グサ」って痛いぃぃぃぃ!なんか足に刺さった!」

「ふんっ!」


 英吾の横で鼻を鳴らしながら顔をそっぽ向かせるスティ。

 それを見てくすりと笑うクリィ。


(……ようやくスティ様に春がきましたか……)


 嬉しそうに微笑むクリィ。


「あのぅ……先日の無礼は謝りますので……その話はなかったことに出来ませんか?」


 申し訳なさそうにあばた顔を歪ませてお願いするアクドイ。

 それを見てくすりと笑う嘉麻。


「わかってるよ。冗談だ。いくらなんでもこれからのビジネスパートナーに唾吐きかけるような真似はしねぇよ」


 そういって手を差し出す嘉麻。


「これからも宜しくお願いします」

「こちらこそ」


 そう言って二人は握手した。



 そしてその日は深夜まで宴会が終わらなかった。


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