第41話 貸ししぶり


「金庫番として認めるわけにはいきません」

(金庫番だったんかい!)


 心の中で突っ込みを入れる英吾。

 金髪白人のギャル風ファッションをしていたのは金庫番だった。

 どうやらあ、アクドイ自身も頭が上がらないらしく、急にオタオタし始めた。


「でもマミヤちゃん。この人達は困ってるんだよ?助けてあげないと」

「あんなの嘘に決まってるでしょ父ちゃん。父ちゃんは人が良すぎるのを付け込まれてるんだよ」


 そう言ってじろりと周りを睨むマミヤ。


(しかも娘かい!)


 英吾は心の中でさらに突っ込む。

 マミヤは厳しい顔になっており、辺りを威嚇している。


「前だってそう言って嘘ついてた貴族が居たから、私が取り立てなかったら踏み倒してたんだよ?」

「う~ん。でもあれも本当だった可能性もあったんじゃ……」

「愛人にお金使いまくってただけだよ。こいつらも同じだよ。貴族は信用できない」


 そう言って口を尖らせるマミヤ。


「おとうちゃん……また慈善するつもりでいたでしょ?」

「うぐ……マ、マミヤちゃん?お父ちゃんはね。世の為人の為に働く人には惜しみない支援を与えるべきだと「言い訳しない」……はい」

 

 マミヤの言葉に声を詰まらせるアクドイ。

 それを見てきょとんとする嘉麻。


「マミヤ。お父ちゃんが優しいから私たちが居るんでしょ?あんまり怒っちゃだめだよ」


 横にいたもう一人の際どい恰好の女性が窘める。

 だが、マミヤはますます顔をこわばらせる。


「わかってるわよ。私とアイリが奴隷として売り飛ばされてたのを助けてくれたのは父ちゃんだもん……」

 

 そう言ってぼやくマミヤ。


「でもだからこそよ。私はお父ちゃんを食い物にするような奴らがゆるせないだけなの。わかってアイリ」

「それはわかるけど……」


 そう言って困り果てるアイリ。


(……見た目に反していい人みたいだな……)


 英吾は場違いにもそう思った。

 話ぶりからしてたまに借金を帳消しにするような慈善をしているように思えた。

 だからこそ、この二人の金庫番は厳しく見ているのだろう。

 英吾はちらりと嘉麻の方をみる。


「何かないか?」

「今考えている!」


 嘉麻も必死で考えているのかあーだこうだとつぶやいている。

 だが、良い方法が思いつかない。


「……そう言えば、フォルンの原料はなかったんですか?」


 ぽつりとスティがつぶやいた。


「それがなかったんだ」


 悔しそうにつぶやく英吾。


「採掘場には林しか無かったんだ。何も掘ってなかったんだよ」

「何もって……じゃあ、どうやってフォルンを作っていたんですか?」

「……わからない」

「そんな……」


 呆然とするスティ。

 だが、それを横目に聞いていたアクドイがにちゃりと笑う。


「ほら、マミヤちゃん!この人達はフォルンの採掘場に行ってたんだから、フォルンを作ってくれるよ!それだったらいいだろ!」

「ちゃ~んと聞こえてたよ。フォルンの原料は見つからなかったって」

「うぐ……」


 悔しそうに呻くアクドイ。


「柔らかくてグネグネ伸びるフォルンでしょ?、そりゃ作れるんならいいけど作れないんなら無理よ」


 あっさり答えるマミヤ。


「グネグネ伸びる?」


 怪訝そうに尋ねる嘉麻。

 それにアクドイが答える。


「ゴンボルのフォルンはグネグネ伸びるんです。伸び縮みするので衣服によく使われてたんですよ。他にも弓の弦などにも使われていて非常に使い勝手が良かったんです」

「・・・・」


 嘉麻がそれを聞いてぴたりと動かなくなる。


「……ぐねぐね伸びる……」


 ぽつりとつぶやく。

 少しの間考えたあと……急に目を輝かせた。


「そうか!」


 突然、嘉麻が大声をあげる。

 そして嬉しそうに笑う。


「ばっかばかしい! 幸せの青い鳥は身近に居たってことか……」


 膝を叩いて笑う嘉麻。

 不思議そうにきょとんとする全員。


「あの……」

「いいぜ。フォルンを作って販売する。これならあんたらも損しない。大丈夫だろ?」

「そ、そりゃ大丈夫だけど……作れるの?」

「ああ。それもゴンボル以上に作って見せるぜ」

「……本当かい?」


 嬉しそうに尋ねるアクドイ。

 対する金髪ギャルの金庫番マミヤは少し戸惑っていた。


「ああ。ついでに言えば、借金を十倍にしてチャラにしてくれたら、フォルンを独占して販売する権利を与える。それでもいいか?」


 一瞬、戸惑うマミヤだが、すぐに気を取り直す。


「……いいわ。その代り、フォルンを先に用意してくれたらの話しになるわ? 作れるんでしょ?」

「勿論だ。だが、他の原料の兼ね合いもある。試作品を見せる前に少しだけお金を借りるかもしれんがそれはいいか?」

「……いいわよ。いくら?」

「……すまんが流石にすぐにはわからん。今からつくってみない事にはどれぐらいのお金が必要かもわからんのだよ。少し待っててもらえるか?」

「……それはどれぐらい?」


 慎重に嘉麻の意図を見極めようと睨むマミヤ。

 だが、自信満々に答える嘉麻。


「それもわからん。ある程度めどがついたらこちらから連絡するから今日は帰ってくれないか?」


 堂々と答える嘉麻。

 それを聞いてふぅうんと唸るマミヤ。


「いいわ。今日は帰ることにするわ」

「話しがわかって助かるぜ」


 にやりと笑う嘉麻を見て、ふんと鼻で笑うマミヤ。


「できなかったら笑ってやるわ」

「大丈夫だ。もし出来たら一回やらせてくれるか?」

「いいわよ」


 そういってにやりと笑うマミヤ。

 隣で「嘉麻だけずるいっていててててて!」と英吾が何か言ってるがそれは気にせずに帰ろうとするアクドイ達。

 アクドイが去り際に頭を下げる。


「すいません。気の強い子で……」

「いいってことよ。あんたもいい人みたいだから稼がせてやるよ」

「はぁ……」


 帰り際に謝るアクドイに自信満々で答える嘉麻。

 そこにメイド長のクリィが現れた。


「朝食の用意が出来ましたけど?」

「ありがとうございます。ですが私どもは帰るところですので……」

「何か包める物があったら包んであげてくれ」


 アクドイが丁重に断ろうとするところを、むりやり止めて朝食を渡そうとする嘉麻。


「これからのビジネスパートナーってやつなんだ。仲良くしてくれ」

「はぁ……」


 嘉麻のあまり変わり様に付いていけなくなっているアクドイはそのまま去っていく。

 後に残されたのは屋敷の面々だけだ。それらを見渡して嘉麻が叫ぶ。


「とりあえずは休もう。英吾。明日から忙しくなるぞ」


 そう宣言した嘉麻は誇らしげだった。

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