第40話 売れない

「エーゴさんのばかぁ……」

「ごめんよ……」


 泣き続けるスティを優しくあやし続ける英吾。


 騒然となる玄関だが、そこにゆっくりとアクドイが階段から下りて来た。


「みなさんおはようござい……何事ですか?」


 不審そうにいぶかしむアクドイ。

 金髪白人ギャルを連れ添いながら下に降りてくるアクドイに、英吾は何も言わずにドヤ顔で下着を嘉麻に渡す。

 嘉麻もにやりと笑い。ドヤ顔でアクドイにそれを見せる。


「お金になる物をと思いまして、天女の下穿きを入手しました。それがこちらです」

「おお! あのゴンボルの最後の遺産ですか! では確認させていただきます!」


 喜色ばんだ笑顔で下着を受け取るアクドイ。

 だが、その顔がすぐに曇る。


「これは……だめですな」


 凍りつく嘉麻。


「なんで……」

「ただの汚い下着にしか見えないからですよ」


 そう言ってふぅっとため息をつくアクドイ。


「例えばですが……これを天女の下着と言って信じますか?」

「……ああああああああ!」


 ようやく重要な事実に気づく嘉麻。


「みなさんの姿から考えて恐らくは本物の天女の下穿きだと思います。ですが、これを売るとなると信憑性が重要になるんです」


 当たり前だが……豪華な意匠が入った剣や槍を実際の英雄が使う事はまずない。

 戦国猛将も実際に使ったのは無名の剣や槍でしかも何本も持って行ったのが定説である。

 だが・・・


「当たり前の事ですが、薄汚い本物より綺麗で豪華な偽物の方を信じるのが人間なんですよ。ですからこれでは売れません」

「しまったぁぁぁぁぁ!」


 あまりの事に叫ぶ嘉麻。

 すなわち、立派に彩らないのと信じて貰えないのだ。

 流石にただの下着を天女のように豪華にするのは色々無理があり過ぎる。


「・・・・・・・・・・」


 肝心の天女の方はと言えば、沈黙したままだ。

 基本、ロボットなので自分からはあまり喋らない。

 だが、ここで天女が自分の物だと言い張っても無理だろう。


「苦労して手に入れたのに……」


 さすがに倒れそうになる嘉麻。

 それをみてふむとつぶやくアクドイ。


「一つだけ確認したい事があるんですが……帳簿をみていると去年までは何とかやっていけてたようにお見受けしますが……今年になってお金を借りようとしたのは何故ですか?」

「……盗賊に村が焼かれて税を免除したんだよ。だからお金が必要なんだ」


 自棄になった口調答える嘉麻。

 だが、それを聞いてふむとつぶやくアクドイ。


「ふーむ……そういった事情であれば仕方ありませんな。融通いたしましょう」

「……え?」


 呆然と顔をあげる嘉麻。

 ふむふむと頷くアクドイ。


「バカなことに使うような人であれば貸しても借金を増やすだけですが、帳簿を見た限り少ないお金を必死でやりくりしているのがわかります。無駄のお金を減らす努力も見られているのでお貸しはできます」

「……本当ですか?」


 嘉麻が呆然と顔をあげると、にちゃりと汚い笑顔を見せるアクドイ。


「もっとも取り立ては厳しくさせていただきますがね」

「うぐ……」


 嫌そうに唸る嘉麻。

 そこにふらついた足取りの緑髪のメイドがやってきた。


「みなさん……おはよう……ございます」


 ふらふらと頼りなげに歩くメリル。


「あぶない!」


 倒れそうになるメリルを慌てて受け止める嘉麻。


「大丈夫か?」

「大丈夫は大丈夫ですけど……」


 辛そうにため息をつくメリル。

 そこに世紀末雑魚達が現れた。


「昨日は楽しかったぜぇ」

「またやろうぜぇ」

「たっぷりマワしてやるからよぉ……」


 嬉しそうに話す男達。

 それを聞いてギラリと睨む嘉麻。


「てめぇら……」

「なんだてめぇ?」

「おまえも遊びたかったのかぁ?」

「まぜてやろうか?」

「たっぷりマワそうぜぇ」


 ゲハハハハハと笑う男達。

 英吾の顔も険悪になる。


「……このやろう……」


 嘉麻も我慢できずに思わず立ち上がろうとするがメリルが止める。


「大丈夫ですから……」

「もう我慢できねぇ……」

「だから大丈夫ですって……シクージャで遊んだだけですから」

「・・・・・・・」


 その言葉を聞いてギラリと睨む嘉麻。

 と、そこに眉をしかめたアクドイがぽつりと言う。


「お前達……まさか徹夜でシクージャをやったのかい?」


 アクドイの言葉にぴたりと動きを止める男達。

 丁度、戸の影で見えてなかったようで、その言葉を聞いて急に慌てる世紀末雑魚。


「げぇ!」「おとうちゃんがいた!」「なんで!」


 慌てふためく男達。


(おとうちゃん?)


 急に言動が変わった男たちの様子をいぶかしむ嘉麻。

 そんな嘉麻の腕の中でぽつりとメリルがつぶやく。


「まさか本当に遊ぶだけとは……」

「うん?」

「輪姦も覚悟して行ってみたのに……徹夜でシクージャするだけとは……」


 チンポついてんのかとポツリとつぶやくメリル。

 一方、男たちはアクドイに必死になって弁解する。


「父ちゃんごめん!」「つい、やっちゃった!」「だって暇だもん!」

「だまらっしゃい!」

「「「「ひっ!」」」


 直立不動になる男達。


「自分らだけで遊ぶだけならまだしも! 泊まり先のメイドさんにまで迷惑かけて! 謝りなさい!」

「「「「ごめんなさい!」」」


 全員がメリルに向かって謝る。

 それを見てアクドイも頭を下げる。


「すいません。乱交にむりやり参加させて」

「……乱交?」


 きょとんとする嘉麻。


「乱交は……を言うんです……」


 辛そうに言うメリル。

 それを聞いて唖然とする嘉麻。


「申し訳ありません。徹夜で回すなんて。今後二度とこんなことはさせないようによく言って聞かせますので……」


 アクドイが申し訳なさそうに謝る。

 それを聞いて嘉麻が半眼になる。


「……ひょっとして……」

って言うんです」


 メリルの言葉に昨夜の男達の言葉を思い出す。


「話しがわかるねぇ」

「いいねぇちゃんだ」

「マワすぞぉ~~~」

「乱交パーティーだぁ!」


「・・・・・・・」


 頭に登っていた血が一瞬で冷めて行くのを感じる嘉麻。

 ちらりと横を見るとスティを抱きしめたまま無表情の英吾がいた。

 自分も同じ顔をしているのを理解しながらはぁっとため息をつく。


 要は輪姦していたのではなく、ゲームで遊んでいただけなのだ。


(まあ、格好のせいで早合点してしまったのもあるか……)


 見てくれで判断してはいけないなと心の中で言い聞かせる嘉麻。


「・・・?」


 目を真っ赤に腫らしたスティが英吾の腕の中からひょこっと顔を出す。

 場の空気が変なことになってるのできょろきょろ見回している。

 それを見てふぅとため息をつく嘉麻。


「まぁ……いろいろありましたがお金を貸していただけるんですね?」

「……ええ。勿論」


 にちゃりと笑うアクドイ。


「ダメです」


 場の空気を引き締めるように冷酷な声が響く。

 声の主を探すとアクドイの連れていた白人金髪ギャルがじろりと嘉麻を睨む。


「金庫番として認めるわけにはいきません」

(金庫番だったんかい!)


 と心の中で突っ込みを入れる英吾だった。

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