第39話 帰還


「エーゴさんはまだ帰ってきてないんですか?」


 そわそわと台所を歩き回るスティ。

 朝食の用意をしながらクリィはいらだっていた。


(……やっぱり死んだか……)


 スティの様子を見て暗澹たる気持ちになる。

 誰にも心を許せないスティに滅多に現れない大切な友達が失われたのだ。

 その事実をどう伝えようか悩みながら調理をしていた。

 そんな時だった……


「ただいま……」「疲れた……」


 玄関から聞き覚えのある声が聞こえる。

 それを聞いて目が輝くスティ。


「帰って来た!」


ザシュッ!


 叫ぶと同時にすっ飛んで行くスティと思わず包丁を失敗するクリィ。

 指先の傷を口で舐めながらクリィは呆然とした。


「帰ってこれたのか……」


 信じられないものを見るようにクリィは玄関の方を眺めていた。



「お帰りなさい……ってぇぇぇぇぇぇっぇ!!!」


 玄関先に現れた二人の姿を見て叫ぶスティ。

 服はボロボロ、身体は擦りキズだらけ。

 見るも無残な姿に呆然とするスティ。


「大丈夫ですか?」

「……なんとか」

「……生きて帰れた」

「回答。マスター達は極度の疲労状態にあります。休息を依頼します」

「……????」


 聞きなれない声に首を傾げるスティ。

 だが、二人の後ろから現れた素っ裸の天女をみて硬直する。


「……あの……それは?」


 不思議そうなスティに抑揚なく答える天女。


「回答。私は護衛型可変アンドロイド『アラレ』です」

「……はぁ……」


 そうとしか答えられなかった。

 美女のように見えるのだが、素っ裸なので乳首もマンコも無いのがはっきりわかる。


「マスターからの識別名称は『天女』です。以後は天女とお呼びください」

「はぁ……どうも」


 気の抜けた声で答えるスティ。

 そのスティの前に一対の下着を見せる英吾。


「それで、これが『天女の下穿き』だよ」

「……え?」


 呆然とするスティ。


「言ってただろ?ゴンボルの採掘場に天女の下穿きがあるって。取ってきたよ」


 そう言って自慢げにそれを見せる英吾。


「いやぁ大変だったわ。サルミは強いし、トラップで死にかけたし、あと、殺人鬼のゲイド?そいつまで居たからほんとに死ぬかと思った」


 笑いながら答える英吾。

 だが、それを俯いてズボンを掴んで黙って聞くスティ。


「でもこれで、売る物できたからお金はつくれるでしょ?そのために頑張ってきたよ。ってどうしたのスティ?」


 さりげに呼び捨てにする英吾。

 黙ってうつむいていたスティが顔をあげる。


パンッ


 スティの平手打ちが英吾の頬を打った。

 呆然とする英吾。


「危ない事はしちゃダメだって言ったじゃないですか! 死んだらどうするんですか!」


 目に涙を溜めて叫ぶスティ。


「どれだけ心配したと思ってるんですか! いつの間にか居なくなって! そのまま帰ってこなかったらどうしようかって思ってたんですよ!」


 そう言って目に涙を溜めながら激昂するスティ。

 あまりの勢いに数歩後ろに下がる英吾。

 だが、それをさらに掴みかかるスティ。


「あなたが死んだら……また一人になると……思って……ひっく」


 それ以上は言葉にならず泣き始めるスティ。

 そのままその場に座り込んでしまう。


「エーゴさんの……ばかぁ……」


 その様子を見て苦笑してスティを抱きしめる英吾。


「大丈夫だから……帰ってきたから……」

「ひっく……ばかぁ……」


 そう言って泣き続けるスティを英吾はあやし続けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る