第38話 縦横無尽

「しつこい!」


 足に絡みついた手錠を外そうと試みる英吾。

 だが、手錠はかなり頑丈で外れてくれない。

 当然ながら手錠に付いている鎖も頑丈で外れそうにない。


「進言。手錠を外さなければ逃げられません」

「わかってるよ!どうやったら取れるんだよ!」

「回答。専用の工具を用いて下さい」

「それはここにあるの?」

「回答。ありません」

「じゃあ、言うな!」


 投げやりに叫ぶ英吾。


ドゥン!バシン!


「あぶねぇ!」


 枝の間から飛んできた一撃を間一髪で避ける英吾。


(どうする?どうすれば手錠が外れる?)


 必死で考える英吾。

 何とか逃れようと引っ張って見るが大黒柱にあたり止まる。


(せめてコイツを盾に出来れば……)


 そう思って柱を回り込もうとするが鎖の長さが限界でそれ以上いけない。


(こんなにちょうどいいもんが目の前にあるのに!)


 傷一つ無い柱を見ていらだつ英吾。

 そこでふと、ある事に気づく。


(……こいつ何で出来てるんだ?)


ドゥン!バシン!


「あぶねぇ……」


 柱に気を取られて危うく当たりそうになるところを間一髪避ける英吾。

 枝が吹き飛んでロボットの様子がわかるようになったが左手の刃は完全に下敷きになっており動けなくなっている。

 右手の方も上腕部分が木の下敷きになっておりあまり動かせなくなっていた。

 そして何よりも先ほどに比べるとどうも動きが鈍い。


「……電池切れか?」

「回答。溜めこんだアウルを使い果たしたようです」

「……じゃあ、後一歩で動かなくなるのか?」

「回答。一発のチャージ時間が長くなるだけです。ヴィルタ時間でおよそ5分ほどかかると思われます」

「なんだよヴィルタ時間って……」


 色々と突っ込みたい気持ちを押さえる英吾。

 我慢しようと俯くと先ほどの骸骨が見えた。


(さっきニョイと思った骸骨か……)


 伝説の戦士ニョイ。

 その夢を見たので骸骨がそれだと勘違いしたのだ。


(サイコメトラーの力が見せたんだと思ったんだけどなぁ……)


 ちらりとロボットの方を見てみると少しエネルギーがたまってきたようだ。こちらに見える砲口に光が見える。


(でもまてよ? 何でニョイの夢を見たんだ?)


 周りを見渡してみる。

 だが、周りには先ほどの骸骨しかいない。


(あの夢を見たってことはニョイに関わる物があったんじゃないのか?)


 サイコメトラーは何も無い所から何かを見るわけではない。

 あくまで残留思念を感じ取る能力である。


(名前が如意棒に似てるなんてギャグでしかなかったけど……)


 改めて西遊記を思い出そうとするがはっとしてロボットの方を見ると、エネルギーたまっていたようだ。

 慌てて避ける英吾。


ドゥン!バシン!


 今度は余裕を持って避けられた。

 砲撃は柱に当たって空しく弾かれる。

 そして改めて柱に手を当ててみる。


(さっきから何発も当たってるのに傷一つつかないなんて……)


 なのにだ。


(岩石でできていてもこうはいかない)


 そして西遊記を思い出す。

 大本の如意棒は作品によってどんなものかは違う。

 海の深さを測る道具であったり、倉庫にあったもっとも強い武器であったり、色々変わる事が多い。

 だが、その中でも英吾が見た西遊記では如意棒は元々全く別の物だった。


(如意棒は海を支える柱だった……)


 それゆえに龍王の神殿の中でももっとも固く重い大黒柱であった。

 怪力の孫悟空にとって、もっとも使い勝手のいい武器でもあった。


(予想が正しければ……)


 英吾は一度深呼吸だけして、ぽつりとつぶやく。


「縮め『縦横無尽』」


 ギュオウン!


 目の前の柱が光ったかと思うと柱が消え去り、手には程良い大きさの棒が残る。


「……こいつが『ニョイの棒』だったのか……」


 呆然とニョイの棒を手にする英吾。

 そしてゲイドの方を見てみると、砲口にはまだ半分ほどのエネルギーも溜まってなかった。

 英吾はゆっくりと立ち上がると頭にニョイの棒を当てる。


「大きくなれ『縦横無尽』」


ヒョドゴォン!


 棒が先ほどのような大黒柱になり、ロボットが下敷きになる。


「進言。ゲイドは機能を停止しました」


 天女の抑揚の無い言葉が全ての終わりを告げた。

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