第37話 必殺技


「……何か武器はない?」

「回答。私は家庭用バディルですので防具としての機能しかありません」

「なんだよそれ……」


 唸る英吾。


「回答。私は『ピギャギャア!』用の護衛アンドロイドです。当然ながら、マスターから危険から守るのが目的ですので能力自体は工場作業用バディルと大差はありません。軍用の使用には『キュギギギィイ!!!!』の許可が必要です」

「・・・・・・・・・・・・・」


 所々の音が飛んでいるので何のことを言っているのかわからない。

 とりあえず要点だけは聞こうと英吾は辛抱強く尋ねる。


「よくわかんないけど、それ今すぐ出来んの?」

「回答。可能にするには『ギュギィ!』の許可。及び、専門の工場での改造が必要になります。マスターの社会的立場を考慮に入れると5年ほどの時間が必要です」

「…………普通に無理って言えよ」

「了解しました。普通に無理です」

「…………なんかむかつくな」


 英吾がつぶやく。

 そして改めてロボットの様子を見るといつの間にかロボットがこちらへと右手を向けていた。


ドゴン!


「うごぉ!」


 英吾の胸に衝撃が走り、そのまま後ろへとたたらを踏む。


「進言。今の一撃を何度も食らいますとさすがに装甲が持ちません」

「…………わかった」


 改めて相手の方を見る英吾。

 今度はジャキっと刃を構えてこちらへと跳躍する。


「うぉ!」


シャッ!


 英吾が屈むと同時にロボットの斬撃が横一文字に走る。

 その攻撃でずるっと木が滑り落ちる。


「進言。あの刃の一撃は一回でもマスターの命をたやすく奪います」

「だろうなぁ!」


 そう言って足払いをする英吾。

 だが、それをひらりと避けるロボット。


「やば!」


 慌てて足払いの足を地面に当てて止め、そのまま足で蹴って横っ跳びする。


ガシュッ


 ロボットは地面に刃を突き立てて形で止まる。

 飛んだ体勢そのままに下に向けて斬ったのだが刃が地面に突き刺さったのだ。

 ずるっと刃を引き抜くロボット。


「あいつは一体何なんだ!」

「回答。『ギュキキィ!』の戦闘用アンドロイド『ゲイド』です。敵性人類を襲う自律移動型地雷です」

「自律…………何?」

「自律移動型地雷です。付近にいる敵兵を自動的に倒すのが目的の機体です」

「…………なんかよくわからんけど助かる方法はないのか!」

「進言。自律移動型地雷は人が離れるとスリープモードに入ります。一度、動けないようにしてから逃げれば追ってきません」

「……なるほど」


 言われた事を理解する英吾。

 要は動けないようにして離れさえすればもう何もしなくなるのだ。


(そうなると……)


 注意深く相手の様子を見ながら先ほどの様子を思い出す。


(つまりは俺達が近づいたせいで奴は勝手に襲ってくるようになったのか……)


 ロボットはこちらの様子を伺っている。盗塁を探る一塁走者のように右左に体重を移動させる。

 そしてふと、階段を塞いでいる木を見つける。


「……あそこにある木で押さえつければ動けなくなるか?」

「回答。恐らく可能。『ゲイド』は駆動力は非力ですのであの木で十分です」

「……なるほど」


 英吾は頭の中で作戦を立てる。

 そして考えが決まる。


「よし!」


 ゆっくりと階段側の木に向かう。

 相手もそれに合わせてにじり寄る。


(ゆっくりだ。嘉麻の方に向かったら本末転倒だしな)


「天女が居なくなってるぅぅぅぅ!!……でも下着落ちてたからいいや」


 奥の方で嘉麻の叫び声が聞こえる。

 だが、そこで英吾がちょっとだけ脱力してしまったのをロボットは見逃さなかった。


 バシュ!


(跳んだ!)


 英吾が気がつくと同時に相手は鼻先まで来ていた。

 手には刃を持っている。


「この!」


 ガシィ!


 英吾はロボットの刃の刃元を持ち、力づくで押さえつける。


(ホントだ!力は弱い!)


 それほど強く握っていないのに動かなくなる刃。

 だが、右手の方をこちらの胸元に当てている。


「やば!」


ドゥン!


 左手の刃を押さえながら身体を捻って謎の砲撃を避ける英吾。


「進言。胸甲部の損傷が激しいです。後一発で壊れます」

「わかったよ!」


 叫びながら倒れている木に寄りかかる。

 ロボットはもう一度右手を英吾の胸に当てる。


「やらせるかよ!」


ドゥン!


 ゲイドの右腕を足で蹴り上げて避ける。

 砲撃は真上に向かって撃たれ、虚空へと吸い込まれる。


(よし!後は……)


 ちらりと横を見る。

 いままで上がってきた吹き抜けはかなりの高さで5階建てのビル位ある。

 そして自分のすぐそばに先ほどの倒れた木がある。

 英吾はゲイドの手を握ったまま、倒木に足をかける。


「わんつーのそれ!」


ゴロン!


 木を足の力で押して吹き抜けへと落そうと試みる。

 木はうまい具合に引っかかり、ゆっくりと下へバランスを崩して行く。


「どっせい!」


 それを確認してからロボットを掴んだまま吹き抜けへとジャンプする。

 ふわりとした無重力に包まれながら自由落下する英吾とロボット。


「これなら!」


 そう言って空中でむりやり体勢を変えてロボットを押さえつける。


「筋肉ドラ○バー!」


グシャン!


 頭から地面に叩きつけられたロボットはそのままめり込む。

 英吾が上を見上げると丁度木が落ちて来た。


「やば!」


グシャバキドガシャァ!


 派手な音を立ててロボットの上に落下する木とそれを間一髪で避ける英吾。


「……やったか?」

「回答。ゲイドは木の下敷きになりました。動けなくなってます。今のうちに距離を取って下さい」

「わかった」


 慌てて階段へと向かう英吾。


ガション


「うぉ!」


 逃げようとした英吾の足に何かが絡みつき、そのまま先ほどの大黒柱へとぶつかる。

 見ると手錠のような物が足に巻ついていた。


キュィィィィン


 枝の中から嫌な音が聞こえる。


ドゥン!バシン!


 枝の中から飛んで来た何かが大黒柱に当たってはじける。


「しつこい!」


 英吾は苛立ちながら叫んだ!

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