第32話 大戦士ニョイ


 「「「おりゃぁぁぁぁぁ」」」


 武装した何百人という男たちが武器を手にぶつかる。

 ぶつかると同時に何人もの男たちが死に、その屍を乗り越えてさらに多くの男たちが互いの命をかけて殺し合う。


 そこはまさしく戦場であった。


 血しぶきがいたるところで吹きあがり、鉄がぶつかり合う音がまるでオーケストラのように奏でる。

 その戦場を一人の男が眺めていた。

 戦場の中であっても軽装で革の簡素な鎧を着ているだけであったがその身体付きは無駄が無く、その佇まいは一目でただものでない事がわかる。

 周りの男たちの態度からわかるようにこの戦場の指揮官の一人なのだろう。

 馬に乗って辺りを見渡し、一番激しい所へと向かっていく。

 一人の男が指揮官らしき男に跪き進言する。


「ニョイ様!ここは危険です!お下がりください!」


 ニョイと呼ばれた指揮官らしき男が進言した男を一瞥する。

 そしてすぐにかぶりを振る。


「この戦場には奴がいる。今の内に流れを作っておかないとまずい」


 そう言って辺りを見渡す。

 その様子を見ていて横の白髪の老人がふぅっとため息をつく。


「……キーン殿ですか?」

「……そうだ。奴がいる限りこの戦いは勝ったとは言えない」


 そう言って手に持った棒を眺める。


「奴はこの『縦横無尽』の対になる『傍若無人』を持つ。どんなに優勢な戦いもひっくり返されかねない」


 そう言ってニョイと呼ばれた男はもう一度辺りを見渡す。

 だが、目的の人物は見当たらないようだ。


「……案外逃げているかもしれませんぞ?」

「それはない。奴も私を探しているはずだ」

「……なぜわかるんです?」

「俺が奴なら同じ事をするからな」


 そう言ってにやりと笑うニョイ。

 その様子を見て苦笑しつつため息をつく老人。


「ですがこのままでは見つかりそうにありませんな」

「そうだろうな。私があいつでも私の位置はわかるまい」


 そういって苦笑して、棒を突きの構えで持つ。


「だから炙りだすしかないのだよ」


 そう言って戦場の一点を睨む。

 もっとも激しくぶつかっているところ見るからにおされぎみになっていた。

 にやりと笑うニョイ。


「伸びろ『縦横無尽』!」


 ニョイが叫ぶと同時に持っていた棒が急に伸び出す!

 ぐんぐんと伸びていき、今まさに押し込もうと突撃していた兵士達の頭に当たり、なぎ倒されていく!


ボバババ!


 一撃で昏倒する敵の兵士たち。


「進め!」

「「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」 


 ニョイの合図とともに男たちが突撃する。

 最初の一撃が効いたのか、その隙間をこじ開けるかのようにどんどん突き進む。


「……形勢が変わりましたな」

「そうだ。そしてこれで奴も私の存在に気付いたはずだ」


ボバン!


 ニョイの言葉が終わると同時に突撃していった兵士達が吹き飛ぶ。

 9つの触手のような物に貫かれて絶命する兵士達。


「……意外と近くに居たようだな」


 ニョイがにやりと笑う。

 すると、兵士達がさざ波のように横に広がり、一つの道が出来る。

 ニョイはゆっくりと馬から降り、その道を歩く。

 道の先には一人の軽装の鎧を着た長髪の男がいた。

 端正な顔立ちながらもニョイ同様に威圧感にあふれており、こちらも歴戦の勇士である事が伺える。


「見つけたぞニョイ」

「会いたかったぞキーン」


 お互いの姿を認めるとにやりと笑いあう。


「今こそ決着をつけようぞ」

「……望むところよ」


 そう言って男たちはぶつかり合った。


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