第26話 採掘場への道


 ゴンボル山と言えばヴァリスのすぐそばにあるラフト山系に連なる山である。

 ラフト山自体は火山だが、ゴンボル山はただの山で山腹から流れる石清水のおいしさには定評がある。

 元々はただの禿山だったのだが、ゴンボルが植林したことでゴンボル山という言葉がついた。


「つまりはこの木々は全部ゴンボルが植えたもんだそうだ」

「へぇ~」


 歩きながら嘉麻の説明を聞く英吾。

 ランプで足元を照らしながらゆっくりと歩く。


「大きさ自体は獅子吼と一緒ぐらいだと思ったけど……この森作ったのがゴンボルか……」

「そういうこった。これだけの山を植林するってことは相当な資産家だったらしいな」


 そう言って嘉麻は先頭を歩く。


「採掘場は山腹にあるからそれほどの距離は無い。前に行こうとも思ってたから場所は確認してるがちょっと尾根を越えた所にあるから場所自体は遠くない」

「まあ、あんまり屋敷から遠いと仕事に支障が出るからね~」


 もっともな意見を言う英吾。


「でもそれだとサルミの生息地から近いんじゃない?どうしてサルミはこっちの方に来ないんだろ?」

「それなんだが……どうも反対側に鮭みたいな魚の取れる大きな川があるらしい。そっちの方が餌場として効率的だからそっちに集中してるみたいだな」

「なるほど」

「だから地元の人間も山の反対側だけはいかないらしい。取る時はもっと下流に行くと鮭を取れるみたいだからな」

「ほうほう」


 納得した声で答える英吾。


「そもそもの数も少ないらしい。川以外にこれといった動物のいない山でそんなに沢山暮らせるわけがないからな。居たとしても十匹程度だ。へたすると絶滅前かもしれん」

「……そんなに少ないの?」

「そもそもこんな山一つで胃袋を満たすほど居るわけないだろ。自然林ならともかく人工林だぞ?それも周りに一切木が生えていない荒野のど真ん中の。草ぐらいしか食べられんよ」


 そこまで話してぴたりと足を止める嘉麻。


「よく考えてみれば急に下草が減ってきたな」

「……嫌な予感がする」


 あたりを見渡してみるが特に何かが動く様子も無い。

 月夜なので少しだけ月光が入り込んでいるが大した明かりにもなってない。


「あれの準備が必要だな」

「ああ」


 そう言って英吾は背負い袋から革袋を一つ取り出す。

 サンザの実をすりつぶして水を加えたソースだ。

 本来なら調味料として使う物だが、今回はそれを革袋に目一杯入れて、いくつか用意した。


「もし効かなかったら全力で逃げる。獣は背中を見せた者を追い掛けるから、相手に向かいながら離れる。いいな?」

「わかった」


 そう言って英吾と嘉麻はあたりに気をつけながら歩く、すると何か廃墟が目に入る。


「なんだろ?」

「行ってみるぞ」


 二人は廃墟に近づいてみる。

 目の前に朽ちた門がたたずんでいる。


「大きいぞ」

「……間違いないな」


 二人で門をくぐるといくつかの建物が見える。

 ランプをかざして手元の紙を見比べる。


「建物の配置からするとここがそうだな」

「とりあえずここまではこれたね」


 ふぅっと息をつく英吾。


ウキャア


「「・・・・・・・・・・・・」」


 野性の猿のような叫び声が聞こえて押し黙る二人。

 あたりを慎重に見渡してみる。


「今の結構近くだったよな?」

「……わからん」


 そう言って明かりを消す嘉麻。


「なんで明かりを消すの?」

「……獣は明かりを目指すんだよ。好奇心が強いんだ」

「だったら何で今まで明かりをつけたまんまだったんだよ!」

「すまん……忘れてた」


 そう言って嘉麻はゆっくり歩きはじめる。

 その後ろを警戒しながら歩く英吾。

 幸い、月あかりが明るいので足元は良く見えている。

 慎重に前に進む二人。


「とりあえずだ」

「おう」

「あの建物の中に入ろうと思う」


 嘉麻が一つの建物を指さす。石造りの大きな建物で頑丈そうだ。


「あの建物から採掘場の入り口までは一本道みたいだし、あの中ならサルミの襲撃にも耐えられそうだ。あそこで一度地図を確認して安全を確保してから先に進もう」

「……そうだね」


 英吾も納得する。

 今のままでも襲われても対処が難しく、何よりもいつ襲われるかわからないまま歩くのは非常に心がすり減るのだ。

 この採掘場自体も広くてどこが安全なのかもわからない。

 慎重に歩きながら前に進む二人。

 幸いなことに危険な足音も奇怪な鳴き声も聞こえないまま石造りの建物に到着する。

 馬屋らしく、すぐそばに大きな扉がついており、ここから馬を出し入れする様子がうかがえる。慎重に扉を開けて中に入る二人。


「ふぅ~」

「まずは一息だな」


 そう言って座り込む嘉麻。


「水でも飲もうか?」

「そうだな」


 そう言って背負い袋を下ろす英吾。

 だが、ごそごそするだけで肝心の水筒が見当たらない。


「ごめんちょっとランプつけて」

「おいよ」


 そう言ってランプをつける嘉麻。

 すぐに水筒を探し出して取り出す英吾。


「ほい水筒。ここあらどう行けば……」


 そう言って嘉麻の方を見た英吾の顔が引きつり、持ってた水筒をぽとりと落とす。


「……やっちまった」


 嘉麻の目の前には熊のような猿のような巨大な化け物が笑っていた!

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