第25話 そういうお仕事


 そして夕食。

 比較的豪勢な食事で接待した後、アクドイは部屋で休み、護衛達は自分の部屋に行った時に事件は起きた。


「へへへへ」

「あ、あの?」

「いーじゃねぇか」

「一緒にやろうや」


 護衛達がメリルに絡んでいた。

 そしてそれを見た英吾は一気に血の気が上がった。


「やめろや」

「なんだてめぇは?」

「あ~ん?」


 ぎろりとにらみ合いが始まる。

 男たちは3人だが、一向にひるまない英吾。


「別にそういう商売してんじゃねーんだ。やめろや」

「あ~ん?」

「なんだ?」

「お前も混ざりたいのか?」


 1対3のにらみ合いが続く。だが、それは唐突に終わりを告げた。


「大丈夫ですよエイゴさん」


 そう言ってメリルは間に入る。


「いいですよ。一緒にヤリましょう」


 そう言ってにっこりと笑うメリル。

 それを聞いてにやりと笑う男達。


「話しがわかるねぇ」

「いいねぇちゃんだ」

「マワすぞぉ~~~」

「乱交パーティーだぁ!」


 口々ににやにや笑う男達。

 英吾は一発ブン殴ってやろうと前に出るがメリルに止められる。


「ダメですよ。今、殴ったらお金を貸してもらえません。彼らの思うつぼです」

「・・・・!!」

「私なら大丈夫です。知ってます?

「・・・・・・」


 英吾が押し黙る。

 何の事を言ってるかわかったからだ。


「私は何人もの貴族を相手にしてきました。それこそ同時にお相手する事も多かったです」


 冷静に言うメリルの顔をなんともいえない顔で見る英吾。


「だから大丈夫です。今さらですから」


 そう言ってメリルは男たちの前に出る。


「ではやりましょう」

「ひゅー!」

「いいねぇ!」

「行こうぜぇ!」


 男たちは歓声をあげてメリルを迎え入れる。


「・・・・・・」


 後に残された英吾は黙って自分の拳を見つめる。


「おい!」


 聞きつけた嘉麻がすぐに声をかける。

 だが、じっと英吾は自分の拳を見つめたままだ。


「喧嘩したのか?」

「……してない」


 嘉麻の言葉にただ静かに答える英吾。


「……お金貸してくれるのか?」

「……難しいな」


 静かに答える嘉麻だが苛立っているのがよくわかる。

 英吾はすっと男達の部屋を指さす。


「メリルがさ……あいつらの相手してくれるってさ」

「……何?」


 嘉麻がすっと目を細める。


「そういう仕事してきたから……大丈夫だってさ」

「……そうか」


 悲しそうに目を閉じる嘉麻。

 何の事かわかったからだろう。


「誰だってそういう仕事はやりたくないよな……」

「……そうだな」


 静かに話す英吾に静かにこたえる嘉麻。


「……何が必要なんだ?」

「……お金に変えられる物。物じゃなくてもいいがな」

「……そっか……」


 おもむろに月を眺める英吾。


「……良い月だな」

「……ああ。特に今日は月が変わるらしいぞ?」


 なんとか話しをそらそうと嘉麻が違う話題をふる。


「変わる?」

「ああ。今まではスマリオンの月だが、今日からはレイパスの月だ」

「……なるほど」


 そう言って英吾は月の模様を見てみる。確かに蟹ばさみをもったウサギに見える。


「言ってみれば今日は満月の日だな」

「大猿で出てくるのか?」

「出てこねぇよ」 


 そう言ってくすりと笑う嘉麻。

 英吾も釣られて笑う。


「大猿とはいわねぇけどシェンロンには出て来て欲しいな」

「ギャルのパンティーでも頼むのか?」

「だっら。頼むのは金だよ」

「それもそうか」


 そう言って二人で笑う。

 だが、その笑いを英吾がぴたりと止める。


「……ギャルのパンティーか」

「引っ張るなぁ……」


 苦笑する嘉麻。

 だが、英吾の顔が真剣な物に変わる。


「ギャルのパンティーを金に換えられないかな?」

「……ブルセラショップでもやるのか?」


 唐突な英吾の言葉にいささか気味が悪そうに答える嘉麻。

 だが、英吾は真剣なままだ。


「天女の下穿きだよ」

「……あん?」

「採掘場には天女の下穿きがあるんだよな?それを金に換えたらどうだ?」

「採掘場って……お前、危ないって言われてるだろうが。どうやって行くつもりだよ?」


 嘉麻が声を荒げる。

 それがいかに難しいかわかってるからだ。


「犬みたいに鼻が効くでかい化け物だぞ?太刀打ちできると思ってるのか?」

「・・・」


 頭を下げて黙り込む英吾。だが、すぐに頭をあげる。


「サンザの実がある」

「サンザ?」

「あの辛いやつだよ。熊避けに唐辛子スプレーを持って行ったりするだろ?鼻が効くんならあれも効くんじゃないか?」

「あ……」


 嘉麻は気付いた。

 サンザの実なら台所に沢山ある事を。


「あれを鼻先にかければいけるんじゃないか?」

「……そうかもしれんな」


 そう言って思案する嘉麻。


「だが、そんな危ない真似、スティさんが許すか?」

「許さんと思う……でも、それ以上に重要な事がある」

「なんだ?」

「ここでやらないと男じゃない」

「・・・・・」


 嘉麻は何も言えなくなった。


「スティさんは俺らを助けてくれた。メリルはじっと耐えて嫌な仕事もやってくれてる。じゃあ、俺らは何してる?何もしてないだろ?そんなの男か?」

「・・・・・・・」

「方法が無いならしかたねーよ。僕だって死にたくない。けど、方法が見つかったのにやらねーのは男として間違ってる」

「・・・・・」

「大丈夫だって。危なくなったら逃げるのを優先するから。それで行こうぜ」

「……はぁ……負けたよ」


 そう言って嘉麻は歩きだす。


「俺は台所でサンザの実を砕いて水に浸しておく、お前は探検の準備を始めろ。後、例の紙を忘れるなよ?」

「紙?」

「暗号書いてあった紙だよ。多分、あそこに何か仕掛けがあるかもしれない。持っていこう」

「了解」

「じゃあ、泉のところでな」

「おう」


 そう言って二人は別れた。

 天女の下穿きを手に入れるために。


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