第23話 アクドイ商人


 ゴンボルの屋敷は城塞都市ヴァリスにほど近いので交通の便は悪くない。

 近くにそれらしい場所が無いので一目でわかる。

 この屋敷をスティの屋敷にしたのには理由があった。


 最初はヴァリスの町にある官舎を利用していたのだが、周りの者が嫌がるので町の外に移らなければいけなかった事。

 大災厄の予言は勿論のこと、政争に巻き込まれるのはまっぴらごめんという人が多かったのだ。

 また、毒の入り込む隙が増えてしまうの命の危険にさらされているスティにとっては安全ではなかった。


 もうひとつは近づく人が一目でわかる点だ。

 山の裾野にあり、ヴァリスからもある程度離れているので、近づく人が一目でわかる。

 盗賊が襲来してもすぐにわかる。

 また、山の反対側から入った場合は木々が生い茂るのでわかりにくいが代わりにサルミが生息する危険地帯で中に入れば命は無い。

 実際、ゴンボルはこれらの事を加味して作っているので見た目とは裏腹に襲撃に対して逃げやすかったのだ。


 そのため、訪れる人は迷わずこちらに向かってくるので一目でわかった。


「あれがアクドイの馬車か……」

「……意外と地味だな」


 最初に気付いたのは薪割り中の英吾だった。

 2台の馬車が屋敷へと向かってくるので気付いた英吾がすぐに知らせに行ったのだ。

 スティとクリィは準備を始めており、外には英吾と嘉麻しかいない。

 嘉麻は先日町に行った時に買った新品の一丁羅をつけている。

 上は着物形式でやや赤みがかかった黄色の着物をつけている。

 裾は膝までしか無く、下はチノパンのようなズボンをはいており、これがこの国での正装になる。

 隣に居る英吾はといえば上はシャツで下がズボンの簡素な服である。


「まあ、豪華な馬車なんて盗賊に狙ってくださいと言ってるようなもんだからな。仕方ねーだろ」


 至極もっともな事をいう嘉麻。


「……緊張するな」

「お前は最初だけだからいいじゃねぇか。こっちはその後も大変なんだぞ」


 仏頂面で答える嘉麻。


「……なんとかなるといいな」

「……そうだな」


 そう言って二人は馬車を眺める。

 段々近づいてきており、約30分ほどでつきそうだと目算する。


「そろそろ準備するぞ。俺は玄関前に行ってるから、みんなを呼んできてくれ」

「了解」


 そう言って二人は別れて準備に入った。



「アコギ=アクドイと申します」

「スティグミ=アーシア=マイルグです」


 そう言ってスティと玄関に来たアクドイが握手する。

 アクドイは見た目は50代ぐらいだろうか?

 だが、その面相は醜悪の一言に尽きる。

 今まで悪行の限りを尽くしたと言わんばかりの面相で目はギョロギョロで鼻は醜く膨らんでおり、あばた顔で唇も厚い。

 見た目からして悪徳商人なのだが、太った姿もより醜さを際立たせている。

 マントなのかコートなのかわからないジャケットは上等な布地をチェックにしており、ぎらぎらと目に悪い。

 裾も白黒の毛がまだらについており、いかにも上等なジャケットですと言わんばかりである。


「では失礼しますね」


 そう言ってジャケットを脱ぐアクドイ。

 下の服も白黒のチェックのシャツに赤と黄のストライプのズボンである。

 派手すぎて思わず全員が眉を顰める。

 そして何よりも嫌になるのが付き人である。


 一言で言えば白人ギャルだろう。

 白人金髪の可愛い女の子を二人侍らせている。

 渋谷のギャル系のファッションでジャラジャラとアクセサリをぶら下げて、攻め攻めの服を着ている。

 あまりの悪趣味ぶりに全員が顔を顰めているのだが本人たちは全く意に介さずに堂々としている。


「それから失礼ですが今夜は宿泊する事になりそうですが部屋は空いてますかね?」

「え?……ええ、勿論です」


 しばらくあっけにとられていたスティだが何とか持ち直してそう答える。


「護衛が3人居ますが大丈夫ですかね?」


 そゴンボルがそう言うと馬車からぞろぞろと男たちが下りてくる。


(うわ~~~)

(ないわ~~~)


 嘉麻と英吾が心の中で突っ込みを入れる。

 下りて来たのは世紀末雑魚だった。

 金髪のモヒカン頭やツンツン頭などのいかにもパンクといった髪型に鋲の付いたレザージャケット。

 手に持ってる武器も棍棒や鉤爪など凶悪そうな武器ばかりである。

 案の定それを見てスティとメリルは顔を青くしており、クリィは警戒心をマックスに強めた。


「え、え~と」

「残念ながら護衛の方の分まではご用意しておりませんでしたので……空き部屋に毛布だけになりますが宜しいでしょうか?」


 クリィが先頭を切って睨みながら答える。

 だが、それを全く意に介さずにうんうん頷くアクドイ。


「まあ、こちらも話して無かったので仕方ありません。なにしろ彼らがどうしてもついてきたいと言いますので仕方なかったのですから」


 そう言って頭を下げるアクドイ。

 だが、後ろの男たちは気にしたそぶりも無い。


「申し訳ねぇなぁ」

「へっへっへっ」


 凶悪そうな笑みを浮かべる世紀末雑魚達。

 それを見てギラリと睨む英吾。


(落ち着け!)

(わかってる!)


 小声で言いあう二人。

 だが、それを見咎めたのかアクドイがぎらりと目を光らせる。


「ふむ、なにやら不穏な会話をされてるようですが、来ない方が良かったですかな?」

「い、いえ!そんな事はありません!」

「ですがそちらの方の目が怖いのですが……」

「そんなことは無いです!コイツは目つきが悪いだけです!ほら謝れ英吾!」

「……すんませんでした」


 睨みながらも謝る英吾。

 だが、険呑とした空気は治まらない。


「失礼しました。この者は来てまだ日が浅いので無作法なのです。そのような者よりもまずはこちらへ。良い茶を用意しております」


 クリィがすっと前に出て間に入る。

 それを見てアクドイはふむと唸る。


「そういう事にしておきましょうか。ではお茶を頂くとしましょう」

「ではこちらへ。メリルは彼らを客間に案内しなさい」

「はい」

「カマは一緒についてきて。エイゴは薪割りでもしてなさい」

「はい」

「……あいよ」


 そう言ってクリィはアクドイを屋敷の中へと案内する。

 メリルが中へと案内する際に男たちが英吾の方を見てべろを出す。

 バカにしていると明らかにわかる態度にいらっとする英吾。

 全員が屋敷の中に入ると同時に英吾はそばの庭木に拳を叩きつけた。

 当然ながらそれは痛いだけだった。


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