第22話 王国の暗闘


・・・おじいさんにパンを分けたら、お礼の服もらえた・・・


 英吾が目を覚ますとどこからともなく綺麗な歌声が聞こえて来た。

 英吾はゆっくりと目を開けるとスティが居た。

 気持ちよさそうに椅子に座って窓を開けて歌っている。

 あまりに嬉しそうなので最後まで聞く事にする。


 そして女の子は幸せに暮らしましたとさ・・・


(女の子が幸せになる話しか・・・・)  


 俗にいうシンデレラストーリーのようだ。

 スティは歌い終えるとちらりと英吾を見て凍りつく。


「ああああ! 起きてたんですね!」


 顔を真っ赤にしてあたふたと英吾に向かってくる。


「歌うまいね」


 そう言って英吾が身体を起こすと慌てて押し倒し始める。


「まだ寝てなきゃダメです」

「もういいよ楽になったし」

「ダメです」


 そう言って真剣な顔で英吾を睨む。

 だが、英吾はそれを見てにやりと笑う。


「ん~~~♪」


 口をすぼめて蛸のようなキス顔を作る英吾。

 それを見て真っ赤になって飛びのくスティ。


「あわわわわわ!」


 こてん


 慌てて避けようとして顔を真っ赤にしながらしりもちをつくスティ。


「はははは!あんまり近づくからこうなるの」

「むぅ~~~~~~」


 わらった英吾に不満顔で口を尖らせるスティ。


「……心配したんですからね」

「ありがとう」


 尚もむすっとしながら大きめの器を持ってくる。


「冷めちゃいましたけど卵粥です」


 そう言ってベッド横の机にドンと置く。

 どうやらちょっと怒ってるようだと肩をすくめる英吾。。


「ありがとう」

「……フン」


 そう言って不満そうにそっぽ向く。

 だが、余りにわざとらしい上にそっぽむきながらもちらちら英吾を見ているので台無しである。

 それを横目に英吾はスープを一口食べる。


「……辛!」


 すぐにひぃひぃ言いながら水を探す。

 だが、その手を押しとどめるスティ。


「ダメです。辛いから風邪に効くんです。我慢して食べないと」

「まじでぇ!」

「サンザの実は風邪の万能薬と言われていますからちゃんと食べないとだめです」


 そう言ってスープのお椀を口元に寄せるスティ。


「さ、食べましょうねぇ……」

「むぎゃぁ!」


 悲鳴をあげる英吾。

 その後、リアクションを取りながらも何とか飲み干す英吾。


「ぶひぃ~」

「よくできました」


 そう言ってにこにこしながら水を差し出すスティ。


(機嫌は直ったみたいだな)


 舌の辛さを水で薄めながらも一息付ける英吾。


「……さっきの歌ってどういう歌なの?」

「……おとぎ話です。一人ぼっちの貧しいながらも清く生きた少女が知らないおじいさんに一切れのパンを分けると綺麗な服をもらえるんです」

「ふ~ん」

「そして少女が競売に出るとたまたま来ていた王子様に競り落とされて結婚する話です」

「……それは幸せになる話なの?」


 訝しげに問う英吾だが、不思議そうな顔のスティ。


「……幸せですよ?王子様と結婚するんですから」

「え~と、それって売り飛ばされたってことだよね?」

「……売り飛ばす?奴隷ですか?」


 なおも不思議そうに頭を傾げるスティ。


「違うの?」

「……ふつうはそれを売り飛ばすって言わないと思いますよ?」

「う~ん……」


 不思議そうに頭をひねる英吾。

 実感がわかずに今一つ理解が出来ない。


「私のお母様もそれで結婚したわけですし」

「……どういうこと?」

「え~とですね……」


 スティの説明によると、この世界では競売にかける形でお見合いするのだ。

 自由恋愛や家の関係で結婚することもあるのだが、スティの母親の場合、田舎貴族の娘だったがたまたま競売に来ていた父親に競り落とされて結婚したらしい。

 ちなみに競り落としても女性や女性の家族が嫌なら断れるから売り飛ばすのとは意味が違う。

 似たようなシステムはヨーロッパにもあり、それゆえに結婚を意味するウェディングは競り市の意味がある。


「そんな仕組みがあるんだ」


 少子化対策に悩む日本でも導入すればいいのにと心の中で突っ込む英吾。


「……まあ、貴族でも末子になると大した俸禄もありませんし、庶民と結婚した方が家計に優しいですし、庶民は庶民で貴族と結婚出来るのでお互いにメリットはあるみたいです」

「……でも……ええと何て言えばいいんだろ?お父さんは国王なんだよね」

「はい……といっても結婚した時は国王になるはずの無い末子でしたので」

「そうなの?」


 意外そうに尋ねる英吾。


「はい。さすがに十三男になると国王になる見込みもありませんし、よその貴族の養子になるしか道は無かったので庶民と結婚しても問題無かったみたいです」

「……そうなんだ」

「そもそもマイルグはそんなに大きな国でありませんので歴代の国王にも庶民が王妃というのも数名いましたので前例が無い程では無いんです」

「ふ~ん。しかし、よく国王になれたね。どうしてそうなったの?」


 それを聞くと暗い顔になるスティ。


「……暗闘です。毒殺合戦でたまたま全く関係無く、誰にも相手にされてなかった父が生き残ってしまったんです」

「毒殺合戦って……」


 血生臭い話しに渋面になる英吾。


「よくある話です。一人を毒殺したら疑心暗鬼になりお互いに毒殺の応酬が始まってしまって……最後に残っていた第5王子と第8王子が病死と事故死してしまったせいで王都の外に早い段階で避難していた父に白羽の矢がたってしまったんです」

「……怖いね」


 思わず身を震わす英吾。


「最終的に現宰相が父を押して国王になったんです」

「……なるほどね」


 納得する英吾。


「ただいまー。英吾は死んだかー?」

「生きてるかって聞けよ」


 嘉麻の毒舌につっこみを入れる英吾。


「すまん。つい、俺の願望が出てしまった」

「よ~~く覚えたからなそのセリフ」


 そう言って笑いあう二人を見て一緒に笑うスティ。


「もう大丈夫なようですね」

「あ、それから頼まれてた書類は執務室に置いときましたよ」

「ありがとうございます。あとで見ておきます」


 そう言って立ちあがるスティ。


「じゃあ、今日は久しぶりに腕によりをかけましょう。お肉は買ってきてくれたんですよね?」

「ええ。パンドンで良かったんですね?」

「はい。ではパンドンのスープを御馳走しますので、今日は楽しみにしていてください」


 嬉しそうに言って廊下に出て行った。

 一方で不安そうな顔の英吾。


「……パンドンって何?」

「聞かない方がいい。いやあこっちの食べ物って凄いのが多いわー。市場にすげーのが売ってっからびっくりしたわー」

「すげぇ気になるんだけど!」


 顔をひきつらせて突っ込む英吾。


「そうだな。例えばだが……足がたくさんあって犬ぐらいの大きさの虫は好きか?」

「不安しか残らんわ!安心させてくれよ!」


 半泣きになる英吾だが、その様子を見て笑う嘉麻。


「諦めろ……一応食べれる物みたいだから心して食べな」

「怖いよう……」


 不安げな顔の英吾だが、ふとあることに気づく。


「あ、そういやさっき書類って言ってたけど何の事?」

「ヴァリスの町にある官庁の陳情書。行くならついでに取ってきてくれって頼まれてたんだ」

「ふ~ん……」

「何でもスティが行くと露骨に嫌がられるんだってさ」

「……なるほど」


 露骨に嫌そうな顔をする英吾。

 苛立たしげに頭を掻く。


「ほんっとうにむかつくな!スティは何も悪くねーやろ!」

「落ち着け。気持ちはわかるがこの世界は魔法も存在していて、まだまだ迷信深いんだ。仕方ないだろう」


 苛立たしげに声を荒げる英吾を窘める嘉麻。

 そう言う嘉麻自身もイライラしている。

 そういった扱いを受けた事のある二人にとっては許せないのだ。

 

 ちなみにこの世界には魔法があることはあるのだが、それほど強い力を持っていない。


「それから、明日はアコギ=アクドイが来るからお前は後ろに下がってろよ」

「……その名前からして胡散臭い奴は誰よ?」

「前に言ってた高利貸しだよ。表向きは売る物を探しにだが……まあ、この場合はお金を借りると言った方がいいな」

「……借りたくねェなぁ……」


 嫌そうにつぶやく英吾。


「その様子だとひと悶着やりそうだから絶対に前に出るなよ」

「……わかったよ」


 そう言って頭を掻く英吾。


「お前はパンドンを食べる事だけに集中してろ」

「それは嫌だぁ!」


 嫌そうに嘆く英吾をにやにや笑う嘉麻。

 ちなみに件のパンドンがエビの仲間であることに気づくのはスープを目の前にしてからである。

 ちなみにこちらもサンザの実が大量に入っていたので死ぬほど苦しみながら食べた英吾であった。


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