第20話 いじめ
「なるほどな……」
嘉麻がカンコンと板を繋ぎ合わせている。
裏手の崖には小さな滝があり、いつもはそこから水を汲み出しているのだが、これで水を誘導しようと水道を作っているのだ。
簡単な木組みで器用に継ぎ足す嘉麻の手際をのんびり見ている英吾。
「なんで、ここだけ別で作ってんの?」
「今は大丈夫だろうが、大雨の時に外せるようにしとかんと泥水すする羽目になるぞ。それに大量の水で壊れたら他の場所が連鎖的に崩れてしまう。これぐらいでちょうどいいんだよ」
そう言ってカンコンと木組みを合わせている。
「さっきのはそういう事情だったのか」
「そういうこと。だから口説いてたとかじゃないから安心しなよ」
「まぁいいけどよ。そんな風に思ってくれてたのか……」
「ああ」
嘉麻は何か考えながら仕事を続ける。
嘉麻は何かを考えているようだったが、それがなんであるかは英吾にはわかっていた。
多国籍が進んだとはいえ田舎はまだまだ閉鎖的だ。
嘉麻も昔は虐めで苦労していた。
「寂しいよね……一人ぼっちは……」
「……だな」
英吾は親、嘉麻は肌。
虐められるには十分な理由だった。
俗に言うクラスの上位カーストの連中に虐められていたのだ。
誰も助けてくれず、何よりも生きているのが悪いみたいに言われていたのだ。
「あの頃はほんとに嫌だったな……」
「みんな酷かったよね……」
昔のことを思い出し、少しだけいらだつ二人。
「信用できるのは刀和、悠久、瞬の三人だけだったしな」
「俺は入らねぇのかよ」
「ここにいない奴の中ではって意味だよ」
英吾がそう言うと苦笑する嘉麻。
「守ってあげないと……」
「……言いたい事はわかるが何が出来る?俺達はこの異世界には何にも持ってないんだぞ?金も人脈も物も何一つ持っていない」
「お前までそんなこというなんて……」
「俺は思って無くても周りはそう思ってるってことだよ。何をやるにもハンデが付きまとう状態だ。それぐらい風評というのは重い」
「……どうにかなんない?」
「ならねーよ。そりゃ、もっと頭がいい人なら何か浮かぶかもしれんが、俺はただの中学生だぞ?ラノベの主人公でもあるまいし、チート能力を持ってる奴に言えよ。お前の方こそチート能力持ってるだろ?」
「……あんなの役に立つのかな?」
謎のサイコメトラー能力を考えて不思議そうに首を傾げる英吾。
「そういうことだ。だから今できる事をするしかねーんだって……」
そう言って嘉麻は作っていた物をひっくり返す。
「……できた。そこ持ってくれ」
「ここか?」
「もうチョイ左。そこだ。そこの角を滝に向けておいてくれ」
そう言って言われた通りに持ち上げる準備をする英吾。
「行くぞ。ワンツーのそれ!」
二人が力を入れると軽くそれは持ちあがる。
「そのまま……まっすぐまっすぐ……」
「えっさ」
「ほいさ」
「えっさ」
「ほいさ」
掛け声を合わせてゆっくりと滝に近づき・・・
「ストップストップ」
「なんだ?」
「このままだと落ちちゃうよ」
「ギリギリまで近付いてくれ」
「了解。これぐらい?」
「もうちょっとだけ行けん?」
「うーん少しぐらいなら……」
「じゃあ、もうちょっとだけ頼む」
「おう」
そう言って英吾は滝ぎりぎりまで近付く。
「……まだ?」
「もうちょい。上半身そらしていける?」
「それならなんとか……」
英吾は持ちながら何とか上半身をそらす。
姿勢的にも苦しいので額に汗が出始める。
「もう限界!まだ?」
「ほい」
「ちょっまっ!」
バシャン!
きつい体勢から勢いよく押されて泉の中に落ちる英吾。
「……おい」
「ごめん……わざとだ」
「てめぇ!」
そう言って英吾は嘉麻に掴みかかった。
「おめぇも落ちろ!」
「てめぇだけ落ちな!」
そう言って二人は泉で醜い争いを繰り広げていた。
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