第15話 秘密の部屋


 ほどなく奥の女神像へとたどり着く二人。


「そんで?」

「俺の予想が正しければ……やっぱり!」


 そう言って嘉麻は女神像の乳首を凝視する。


「見てみろ」

「どれどれ……ん?」


 英吾がよく見ると女神像の乳首の先には傷が一つ走っており、乳輪には等間隔で線が走っている。


「右1左3左4右5か。多分こうだな」


 そう言って嘉麻が乳首をつねるとカチカチという音が鳴る。

 それを見てぽんと手を叩く英吾。


「なーる。乳首いじってたんじゃなくてダイヤルまわしてたんだ」

「そういうことだ」


 嘉麻がドヤ顔で乳首をいじっているとガコンという何かが外れるような音がする。

 それを聞いて不思議そうに周りを見る二人。


「何の音だろう?」

「その後、その爺さんはどこへ行ったんだ?」

「そこの壁の中だけど?」


 そう言って隣の壁を指さす英吾。

 嘉麻も見てみるが壁には何も変わった様子が無い。


「ちょっと待て、さっきのガコンって音もこっちから聞こえたよな?」

「という事は?」


 そう言って二人が壁を調べ始めると、ずずっと壁が内側へとずれ始めた。


「もっと動きそうだな」

「もうちょい押すか」


 頑張って押してみる二人。

 昔の仕掛けなのでどうも動きが悪いようだがやがて下に下りる階段が現れる。


「こんな仕掛けを用意していたなんて……」

「とりあえず降りてみようぜ」


 そう言って下りてみる二人。ほどなくして小さな書斎が現れた。

 机と本棚があるだけの極小の隠し部屋である。

 一人入るのがやっとの部屋なので嘉麻が中に入って調べてみる。


「なんだろ?」

「おい、見てみろよ」


 嘉麻の言われた通り見てみる英吾。


 机の上には一通の手紙が置いてあった。

「……読む?」

「読もうぜ」


 全く遠慮なく手紙の封を切る嘉麻。

 そこにはこんな事が書いてあった。


 我が愛する家族へ

 私にもしもの事があった時のためにこの書斎を用意しておく。この書斎にはフォルンを作る上での必要な製法を残しておく。後は採掘場の連中が取ったフォルンの原石にここに書かれた製法で調合すれば作れるようになる。願わくば我が一族に永遠の繁栄が得られん事を願う。


「…………なぁ、僕らが使っていいのかな?」

「…………背に腹は代えられんよ。家族は離散したんだからありがたく使わせてもらおうぜ」


 そう言って、嘉麻は書斎の本を一つ手に取る。

 だが、その顔が再び険しくなる。


「……よく考えればフォルンの原石を採掘しないと作れないんだな」

「……あ」


 言われて気づく英吾。

 仮にステンレスやチタン合金の製法は知っていても原石を採掘できないと作ることすらできない。


「たまにファンタジーとかでありえん物作る時はどうやって原石を確認したんだろうな?」

「そこを突っ込んじゃダメだよ」


 悔しそうに本を閉じる嘉麻。


「そもそもこの世界の石はこっちと名前からして違うからな。鉄とか真鍮みたいな日常的に使える代物ならわかるがクロムとかになるとルビーから作るしか無いしな」

「クロムって何に使うの?」

「ステンレスに使う」

「めちゃくちゃ高いステンレスになるね」


 苦笑する英吾。


「そのままルビーとして売った方がましだな」


 そう言ってパタンと本を閉じる嘉麻。


「そういうこった。つまりはフォルンの原石がわからないとどうしようもないんだが……」


 そう言って本棚の本を順番に指さして確認する嘉麻。

 それが左上から順番に右下まで来て……再び左上に行く。

 そしてまた右下に来て……こんどはそのまま左上に行く……。

 その時点で怪訝そうに眉を顰めた。


「妙だな……」

「どうした?」

「素材の取り出し方法を書いた本が無い」

「……どういうこと?」

「原石はそのままでは使えない。何らかの処理が無いと素材にはならないのだが……その素材の取り出し方法が書いてない」

「……え~と……」


 よくわかっていない英吾の様子を見てはぁっとため息をつく嘉麻。


「例えばパソコンに金(きん)が使われてるってのは知ってるか?」

「まぁ、話だけは」


 よく言われている話しである。


「じゃあ、取り出したりしてるか?」

「したことない。やりかた知らねーもん」

「それと一緒だよ。あるとわかってても取り出す方法がわからないと意味が無いんだ。実際にパソコンとか車にはレアメタルは使われているけど、廃車や廃パソコンから取り出すとなると非常に大がかりな装置が必要になるんだよ。そのせいで捨てる事が多いんだよ」

「へぇ~~」


 取り出す方法がないために苦労する事は多々ある。

 また、よく誤解されることだが、書物では簡単に作れるように書いてあっても、実際に再現するとなるととんでもない試行錯誤が必要になるのだ。


「なのに取り出す方法が書いてない」

「……そんなに難しい方法ではないとか一般的な方法で取れたりするとか?」

「そんな簡単な話じゃないんだよ」


 呆れた声で答える嘉麻。


「例えば鉄鉱石だと粉々に砕いて熱を加えて溶けだした物を固めると出来るんだが、実際にやろうと思うととんでもなく大変なんだ。それを効率よくやる方法があるんだけど今までの経験とか知識の積み重ねがあって初めて出来る事なんだよ。適当にやっても時間と金ばっかりかかって何も出来ない。なのにその方法が書いてない」

「……確かにおかしな話しだね」


 言われたことをようやく理解して首を傾げる英吾。

 子孫のために残しているのに肝心要の部分が抜けているのだ。 

 片手落ちもいいところである。


「せめて原石の特徴が書いてあればわかるがそれすら書いてない。このままだと材料すら用意できない事になる。どういうことだ?」


 嘉麻が首を傾げる。

 嘉麻の言葉を聞いて英吾も本棚を一通り探したが材料に関する本は無かった。

 ほとんどがこの製品はこのように作るとしか書いてない。


「ひょっとしたら採掘場に採掘方法書いてあるんじゃないの?」

「そうかもしれん……」

「明日スティさんに頼んでみようか?採掘場に行ってみたいと」

「そうだな。じゃあ、今日は寝るとするか」

「そうだね」


 そう言って二人は部屋を後にした。


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