第13話 助けた理由


 パキンという音を立てて薪が割れる。

 嘉麻はそのまま仕事に戻り、英吾は薪割りをやっている。

 これから冬が来るので薪を多めに作っておかないといけないのだ。


「ツーツーレロレロ♪ ツーレェロ♪」


 小気味よく鼻歌を歌いながら薪割りをする英吾。


「ツレラレソレ♪ツレソレ♪ツレラレソレ♪ツレソレ♪シャンシャン♪」


 パキン


 再度小気味よい音を立てて薪が割れる。


「うっちの父ちゃん♪ 狐か狸♪」


 歌いながら薪を用意する。


「よぉるの夜中にぃ♪穴さーがす♪穴探す♪へいへい♪」

「なんて歌を歌ってんですか……」

「うり?」


 英吾が後ろを振り返るとスティが切り株に腰掛けていた。

 呆れ顔で少し笑っている。


「楽しそうに仕事をしているのでついつい見てしまいました」


 そう言って恥ずかしそうに笑う。


「一緒に歌う?」

「そんなエッチな歌は嫌です」


 そういって可愛らしく舌を出すスティ。


「別の歌なら歌います」

「ほかの歌かぁ……じゃあ、この歌はどうだ?」


 そう言って斧を置いて手を叩いて歌い始める英吾。


「ゆんべ父ちゃんと寝たとっきにゃあ♪変な所に芋があるぅ♪」

「もっとマシな歌を知らないんですか?」


 すぐに嫌な予感を察知して呆れ顔で歌を止めるスティ。


「これだって変な歌じゃないよ?ちゃんと3題目まである」

「そうなんですか?」


 ちょっとだけ興味を持つスティ。

 ちなみに石川県では歌詞の一番、二番を一だいめ、二だいめと言う。


「そうだよ。子供に性教育を施す親の様子を歌った真っ当な歌だよ」

「それを変な歌と言うんです」


 あきれ顔で答えるスティ。それを言った後くすくす笑う。


「エイゴさんって面白い人ですよね」

「むぅ……」

「どんな時でも楽しそうで……羨ましいです」

「そうか?」


 不思議そうに答える英吾。


「スティに助けられるまではどん底生活だったから泣いてたぞ」


 渋面になって以前の生活を思い出す。

 仕事すら探せずに乞食をやっていた時は食うや食わずの生活だった。

 そのころに比べれば随分と楽になっている。


「あの頃に比べたら今なんて天国だよ。本当にありがとうスティ」

「そんな……助けるだなんて……助けてもらったのはこっちのほうですよ」


 ちょっとだけ悲しそうに俯くスティ。


「あの時……もう駄目だと思って……エイゴさんが後ろから現れた時は何が起きたのかわからなかったんです」


 ちょっとだけ悲しそうに笑う。


「あの時はなんで助けてくれたんですか?」


 不思議そうに尋ねるスティだが、英吾は首を傾げる。


「あの時って?」


 ちょっとだけ腰砕けになるスティ。


「あの二人の暴漢に襲われた時の事です! 覚えてないんですか!」


 あきれ顔のスティ。

 だが、英吾の方もぽんっと手を打つ。


「ああーあんときの話しかー……我ながら無謀な気がしたよ。勢いだけで助けちゃったからねー。良く生きてるもんだ」


 呑気に答える英吾に呆れかえるスティ。


「死にかけてたのに忘れてたんですか?」

「あまり過去を振り返らない性格なんだ」


 あっけらかんと答える英吾。


「子供のころに虐められてたから、昔のことは考えないようにしてるんだ。そのせいかな?どうも虐められてる人を見るのが嫌なんだ」

「……え?」


 不思議そうにつぶやくスティ。


「あの時もなんだったっけなぁ……ああそうだ。お前を助ける奴なんていねぇだったか。そんなこと言われてるの見て、ついカッとなっちゃってね。だったら俺が助けてやらぁ的な?なんかそんな気持ちであいつらをぶっ倒したかったんだ」

「……そ、そうなんですか?」

「うーん……だからなんというか……一人ぼっちの子を見ると見ていられ無いんだよね。可哀そうで。だから助けたんだ」

「は、はぁ……」


 どう対応していいかわからず、ただ、頷くスティ。


「ま、そんな感じかな?最初はあまり深く考えずに行動しちゃったんだわ。その後は大変だったなぁ。スティを担いで逃げたけど、すぐに疲れて動けなくなるし、刺された時はやらなきゃ良かったと後悔してたし・・・」


 上を見ながら思い出すように答える英吾。


「でもやっといてよかったよ。職はありつけたし、スティとも仲良くなれたから結果オーライじゃないかな?」

「そ、そうですよね!」


 ようやく我に返ったスティが元気よく答える。


「それでどうしたの?」

「……何がです?」

「どうしてここにいるのかなって思って……何か用事があったんじゃないの?」


 そう言われてはっとなるスティ。


「あああ! ごめんなさい! もうご飯なんです! それで呼びに来たんですよ!」


 慌てて手を振りながら答えるスティに苦笑する英吾。


「そうなん? じゃあ、いこっか」

「はい!」


 そう言って二人で屋敷の方に戻っていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る