第12話 フォルンの暗号


「終わらないですね~」


 目の前の惨状にメリルが愚痴をこぼす。

 昨日に引き続き部屋を片付けているのだが一向に終わる気配が無い。

 大きな物はあらかた別の部屋に移動させたのだが、細々とした道具は多すぎてどう使うかもわからないのだ。


「こんだけ多いとなぁ……」


 とりあえず似たような物同士で分類する英吾。

 その中でもひときわ目立つのは書類だ。


「この書類は何の書類ですか?」


 英吾の質問にクリィさんが答える。


「ゴンボルの持っていた書類のようです。領地経営に関する書類は全て別の部屋に保管してあるので、燃やしてくれますか?」

「了解です」


 そう言って書類を全部外へと運び出す英吾。

 木箱一つ分なので結構重たいのだが何とか庭先まで持っていき小枝を集める。

 英吾は適当に薪と消炭を少し入れ、火打ち石を使って火をつける。するとぱちぱちと音が鳴り、やがて程良い火が出来る。

 いい感じになった所で嘉麻が現れた。

 嘉麻の方もいくつかの書類を持っており丁度燃やす所だったようだ。


「お疲れさん」

「そっちもな……」


 軽く挨拶を交わす二人。

 だが、そんな嘉麻の様子に英吾は違和感を感じた。


「どうした?」

「さっき村の代表から陳情が来てな。今年の納税を減らしてくれと頼まれたんだ」

「まるで時代劇だねぇ……」


 呆れる英吾。


「それに騎士達がついてきたんだ」

「……どういうこと?」

「盗賊が村を焼いたらしい。騎士団も出動したけど間に合わなかったみたいなんだ。それに責任を感じて税の免除を一緒に願いに来たらしい」

「……世知辛いなぁ……」


 呻く英吾。


「だが、余力が完全にゼロの状態でのマイナスだ。これから先はどう頑張っても赤字にしかならない。なんとか違う収入を作らなければいけないのにその投資に使うお金すらないんだ。どうしたものか……」

「……なんとかならないの?」

「俺は元々工学系だからな。計算は得意でも経済は苦手なんだ。単純なお金の足し算引き算しかできん」

「……う~ん」


 嘉麻は呻きながら答える。

 当たり前だが、作るのと売るのでは必要なスキルが大幅に変わる。

 嘉麻はそのあたりの計算が出来ないのだ。

 ふと嘉麻が英吾の持っている書類に気付く。


「その書類は?」

「ん?なんでもゴンボルの商売に使ってた書類だって」

「……そういうのあるなら早く言えよ。見せてくれ。ひょっとするとフォルンの製法がわかるかもしれん」


 嘉麻が慌てて書類をひっくり返す。

 一つ一つ慎重に見て行くのだが……


「だめだ。ただの帳簿でしか無い」

「まあそうだろうね……」


 苦笑する英吾。

 そもそもゴンボルの家族は死んでから一家離散しているのだ。

 製法がわかっていればそんな苦労はしない。


「じゃあ、燃やして行くよ」

「いいぞ」


 そう言って嘉麻が捨てた帳簿を英吾が焚火にくべていく。

 それに応じて火の勢いが増してくる。

 すると嘉麻は一つの書類に目を奪われる。


「……なんじゃこりゃ?」

「何?」

「見てみろよ」


 嘉麻はそう言って3枚ほどのつづられた紙を差し出す。

 とりあえず英吾はそれを読んでみて……すぐに顔を顰める。


 3月2日

 私はメティスの陰部に触るとメティスも嬉しそうに私の一物に触った。そして私はメティスの陰部を愛撫した後、熱烈なキスを交わした。


「……なんじゃこりゃ?」

「愛人との成果の記録らしい。好きだねぇ……」


 呆れたようにつぶやく嘉麻。

 だが、その顔が凍りつく。


「英吾ストップ!」

「なにが?」

「そのまま!そのまま動くな!」

「なんだよ……」


 英吾は言われるがまま硬直する。

 そのままの姿勢で苦しそうに立つ英吾。


「もういい。その本をこっちに渡してくれ」

「なんだよ急に……」


 ぶつぶつ言いながらも本を返す英吾。

 それを手にとって嘉麻は一番上の表紙を指さす。


「見ろよ」


 そう言って嘉麻が差し出した本には……先ほどまでほとんご白紙だった表紙には文字が描かれいた。


右1左3


左4右5


「……どういうこと?」

「なんかの隠し暗号だ。炙りだしで出るようになってたんだ」

「そんな古典的な……」


 今どきどこの冒険小説でも出てこないような暗号だと英吾は思った。


「その考えは間違いだ。いつの時代でも何かを隠す時は古典的な手段が一番良い。難しいやり方をすると後から紐解けなくなる事があるからな」

「ネットのサービスごとに暗号を変えると後から開けなるとかそんな感じ?」

「そういうこと」


 納得する英吾。


「それに俺らの時代には使い古されてるかもしれんが、この世界にとっては滅多にない画期的な方法かもしれんぞ」

「……あ、そっか。別にこっちでは知られていない方法なんだ」


 当たり前だが、どんな暗号方法も現れてすぐの時は簡単には解けない。

 だが、ありふれてくるとあっさり解ける。

 現代にとっては簡単な方法でも古代は知るのも難しい代物は多々あるのだ。


「おかしいとは思ったんだよ。帳簿とか重要な書類の中に一つだけ変なのが紛れ込んでるんだからな。多分……遺族はこれの事知ってたんじゃないのか?」

「どういうこと?」

「この本が元々ゴンボルの遺産を手に入れる暗号ってことを。だから必死で解こうとしたけど出来なかったんじゃないか?」

「……なるほど」

「だから、うまくこの本を解けば……」

「ゴンボルの遺産にたどり着く?」

「そういうこと!」

「いよっし!」


 ガッツポーズを取る僕達。


「なんか行けそうな感じだね」

「そうだね」

「じゃ、頑張って解いてくれ」

「手伝えよ!」


 嘉麻は英吾の頭を小突いた。


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