第10話 亡霊
(……盗賊かもしれない)
先ほど嘉麻から聞いた現状が英吾は思い浮かべる。
よく考えればこの屋敷は人の手が入っていないだけで前の持ち主は億万長者なので、それ目当てで盗人が入ってくるのは考えられる。
そう思い英吾は足音の主を追い掛けることにした。
バタバタバタ
ランプを消して静かに足音の主に忍び寄る英吾。
足音の主は誰もいないはずの屋敷の奥へと向かっていく。
(やはり、前の持ち主の持ち物が狙いか……)
この屋敷はかなり広いのに前の方しか使っていない。
家人の数が少ないので前しか必要無いのだ。
スティ自身がここに来て間もない事もあって奥の方は完全に人の手が入っておらず、かろうじて真ん中あたりを物置に使っているだけだ。
バタバタバタ
相手は英吾の気配に気づいておらず、まっすぐに奥の方に向かっている。
英吾は物陰に隠れながら足音の主に近づいて行った
バタバタバタ……ガタッ
(……なんだ?)
気付かれたのかと思い、そっと前の様子を伺う英吾。
ゴソゴソ
(……盗賊?)
訝しげに眉を顰めながら覗き込む英吾。
目の前では白髪の爺さんが転んでいた。
年齢は70歳ぐらいだろうか?
てっぺんだけがはげた白髪の小太りの爺さんが転んでいた。
よほど絶妙にこけたのかスリッパが頭の上に乗っている。
この世界では家の中はスリッパを履くのが基本だ。
(わざわざスリッパにはき直すなんて変な盗人だな)
不思議そうに首をひねる英吾。
コトン
ようやく起きあがってまた歩き出すじいさん。
(どこへ向かうんだろう?)
英吾が訝しげに様子を伺うと、廊下の奥にある裸体像の前でぴたりと止まる。
よくある女性の裸体像で手を広げてこれから抱き寄せるような像だ。
(あんなもんあったんだ)
てっぺんハゲのじいさんは迷わず裸体像の前に向かって……おもむろに乳首をいじり始めた。
(何やってんだよ……)
心の中で呆れる英吾。
さすがにこれ以上は見ていられず、手近にあった棒を手に爺さんの後ろに忍び寄る。
「おい」
ブン!
一声かけてからおもむろにじいさんの脳天に向かって棒を振り下ろす英吾!
だが……
「あれ?」
爺さんは全く意に返さずにそのまま乳首をいじり続ける。
「この!……」
ブン!ブン!
爺さんに向かって何度か振り下ろす英吾だが爺さんに当たった様子は無い。
「すり抜けてる?」
唖然とする英吾。
そんな英吾を尻目に爺さんは迷わずにすぐ横の壁に向かって歩き出し……
すぅ~
壁に吸い込まれるように消えて行く。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ひゅおぅぅぅぅぅ
外の風の音だけが大きく聞こえた。
ほんの少しだけ英吾は呆然として……
「どぅわ~~~~!!!!」
叫びながら部屋に戻った。
「でたぁ~~~!」
「なんだ!」
寝ていた嘉麻を叩き起こす英吾。
一方嘉麻は寝ぼけ眼で英吾を睨む。
「出た!」
「……何が?」
「お化け!」
「……寝ぼけてんのか?」
「出た!爺さんの亡霊が出たんだ!」
「……なんだと?」
寝ていたところを叩き起こされたせいか険呑とした目で英吾を睨む。
「何事ですか?」
寝巻姿のスティが来た。
「出たの!」
「何がですか?」
「お化け!」
「……はい?」
きょとんとした顔で首を傾げるスティ。
その姿は妙に可愛らしい。
「どうしたんですか?」
メリルとクリィも現れた。
二人とも寝巻姿でびっくりしている。
「お化けが出た!」
「え?」
メリル達もきょとんとしている。
「何言ってんのかわからん。説明しろよ」
「さっきトイレに行ったら、廊下で足音が聞こえて、爺さんが乳首いじってて、棒をぶんっと振ったらすり抜けて、爺さんが壁に消えたんだ!」
「お前……トイレで何やってたんだ?」
「いや、トイレは行ったの!戻る途中に出たの!」
「……ほんで?戻る途中にどうなったんだ?」
「足音が聞こえたの!」
「それで?」
「爺さんが乳首いじってたの!」
「そこがわからん……なんで足音から乳首に話しが行くんだ?」
「足音が聞こえてそっちに行ったら爺さんが居たの!そいつが乳首いじってたの!」
「……誰の乳首を?」
「女神の!」
「意味がわからん!」
頭を抱える嘉麻。
「あの~……ひょっとしておじいさんの亡霊が現れて、それが廊下の奥の女神像に触っていたのでは?」
「そう!それ!」
びしっとスティに指さす英吾。
「あ~そうかい。じゃあ、明日の朝に調べてやるよ。今日は遅いから寝るぞ」
そう言って布団をかぶる嘉麻。
「おい!聞けよ!人の話!」
「あの~。もう遅いから明日にしてはどうですか?暗いですし何もわからないと思いますよ?」
そう言って王女様が窘める。
だが、英吾はこまったようにもじもじする。
「でも……こ、怖いし……いや、僕も男だから普段は大丈夫ですよ?で、でも目の前に現れた後じゃさすがに怖いし……」
情けない事を堂々という英吾。
そんな震えている英吾の肩を王女がぽんぽんと叩く。
「ふふふ……そんなに怖いなら一緒に寝てあげましょうか?」
いたずらっぽく笑うスティ。
その姿はあまりにも可愛らしかった。
その瞬間!
普段は使われていない英吾の脳が活性化して200%フル回転する!
「是非お願いします!」
スティの申し出に首が折れるぐらいに頷く英吾。
そのままスティの手を握り締める。
「いや、普段は大丈夫だけど、さすがに今は無理なんだわ。だから一緒に朝まで寝させて。絶対何もしないから! したとしても先っぽだけにするから! だから安心して! って嘉麻は何で僕の腰に手をまわしてるの?」
「寝ろ」
ゴッ!
嘉麻の放ったジャーマンスープレックスで英吾の意識は吹っ飛んだ。
床に倒れている英吾を放置して嘉麻はスティに頭を下げる。
「まあ、忘れてください。こいつはバカですから。とりあえず明日調べてみましょう」
「そ、そうですね……」
スティがたじろぎながらもそれに従い、そのまま部屋を後にした。
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