第9話 荒廃した大地
「どうだったそっちは?」
「……う~ん……」
一日の仕事が終わって二人は自室で一休みしている。
部屋は学校の教室ほどの大きさで二人のベッドとクローゼット、ここに来て既に一週間が経っているが、この世界では行商人がくるか町に買いに行くかしない限り、何も買えないので、元からあった小物と衣類を除けば何も無い。
そんな部屋の中で嘉麻は渋い顔で天井を見上げる。
「厳しいな」
「……何が?」
「領地経営だよ。お世辞に言ってもいい事は全くない」
唸るように答える嘉麻。
「全く無いって……」
「そもそも税収自体が無いのだ。やりようが無い……」
「税収が無いって……どういうこと?」
「税が取れないんだ。荒れ地しか無くて領民はみんな貧乏。それに加えて盗賊も出ている。徴税官すら集落に行って無い」
「え?……」
英吾は呆然とする。
要は税金を取りに行って無いのである。
「税金を取っているのはこの屋敷の周辺の集落だけ。地図の上ではマイルグでもっとも大きな土地だけど、実際はこの周りしか治めていないんだ」
「……なんで?」
「まず、集落が貧乏過ぎて税金を取りようが無いことと、この近くに騎士団が常駐する城があるんだけど、その周辺以外は盗賊が蔓延っていて、治安が安定しないんだ。そもそも荒れ地ばかりだから税収が取れる土地自体が限られていて、それがこの周りしか無いんだ」
「そんなに厳しい現状なんだ……」
不安げに呻く英吾。
「それで、俺らの給料とか出るの?」
「言いにくいが……実は王家から出てるお小遣いで俺らは賄われているんだ。それも正直カツカツな状態だ」
「ギリギリなんだ……」
ますます顔を曇らせる英吾。
「さらに問題なのは近隣の状況だ。まずは東には魔人達が住むクオン魔王国がある。なんか魔王とその配下みたいなやつらだ」
「魔王の土地と隣接してるんだ……」
「俺もびっくりしたがな。だが、考えてみるとドラクエでも魔王って世界征服が目的だから、ある種の領土問題だわな。こっちの魔王は魔人っていう種族の王様のことを魔王と呼ぶらしいから、やばい敵国と考えた方がいいな」
「……なるほど」
納得する英吾。
「だが、それに関連して亜人が盗賊化してな。こっちに襲撃してるみたいなんだわ」
「亜人?」
訝しげに問う英吾。
「強いて言えば匈奴みたいなもんかな? 元々住んでいた土地を魔人達に追い払われてこっちに来てるからそいつらのせいで住民が被害にあっている」
「まじか?酷いな……」
「領土問題から来る魔人の嫌がらせと亜人の盗賊。それと荒れた土地。この三つがこの土地を貧しくしているのが現状だ」
「終わってるなぁ……」
天井を見上げて呻く英吾。
「ぶっちゃけ、父さんから聞いたアフリカ諸国なみに酷い」
「そういやお父さんはアフリカ生まれなんだっけ?」
「ああ、ボツワナ生まれだ。とは言ってもアフリカには俺は行ったことないし、どんなところかわからないけどね」
そう言って肩をすくめる嘉麻。
「アフリカの話はともかくとして、この辺りまでは盗賊も魔人も来ないみたいだがこの土地はかなりやばいみたいだな。どこから手をつけていいかわからん。さしあたっては収入源だな。何か見つけないと困るな」
「う~ん……でもまあ、とりあえずはやっていけるんだろ?」
「とりあえずはな」
渋い顔で答える嘉麻。
「まあ、細かい話しはあとにして寝ようぜ」
「そうだな」
「その前にトイレっと」
「行ってらっしゃい」
そう言って嘉麻は近くのランプに息を吹きかけて火を消す。対する英吾はランプを持って部屋の外に出た。
ギィ
夜更けなので音を鳴らさないように注意しながら廊下に出る。
この屋敷のトイレは外にあるので、一度外に出なければいけない。
サンダルを履いてトイレに向かい用を足す。
お腹がすっきりしていくのを実感しながら英吾はふと窓から見える月を覗きこんだ。
「
夜空に浮かぶ大きな掛け橋を眺める英吾。
この世界の神話にはこう書かれている。
遙か昔、混沌たる世界に3人の神が降り立つ。
一人は創造の神イセル。
一人は生命の神アミ。
一人は律法の神ネール。
3人は天地を作り、生命を生み出し、秩序を作った。
そしてその世界に魔人を住まわせ、自ら産んだ神々に管理を任せた。
やがて、神々と創世神は対立し、戦争を引き起こしたが、創世神族は破れ、南にあると言われる大きな裂け目を通り、地下へと逃げた。
残った8人の神々で世界を統治したが、やがてリオルという神が反乱を起こし、7大神に敗北して月へと逃げた。
だから月にはリオルに従うリオルの民とリオルの使いである晶霊がすんでいるそうだ。
「晶霊ってのも住んでいるのかねぇ……」
カグヤ姫でも住んでんのかな? と心の中で付け足して小便を済ませ手を洗う。
手水式なので柄杓を取って手を洗う。
そして廊下へと向かうと何か足音が聞こえた。
バタバタバタ
(……なんだ?)
明らかに男の足音だが、嘉麻では無い。
嘉麻よりももっと身体の重いデブが歩く音で、歩き方が明らかにおっさんである。
当然ながらこの屋敷には嘉麻と英吾以外の男はいない。
バタバタバタ
足音が段々遠ざかっていく。
「……泥棒か?」
英吾の顔に警戒の色が走った。
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