第7話 使用人の仕事


 パキン


 英吾が斧を振り下ろすと乾いた音を立てて薪が割れる。

 割れた薪が少々大きかったのでそれをさらに半分に割るためにまたセットする。

 セットした薪に軽く斧を入れて再び振り下ろす。


パキン


 乾いた音を立てて二つに割れる。

 今度はどちらも丁度いいぐらいだ。


「薪割り終わったか~?」


 嘉麻がこっちに向かってくる。

 嘉麻の方は屋根の修繕を行っていたので手には大工道具を持っている。


「もうちょい。そっちは?」

「もう終わったよ」


 そう言って近くの切り株に座る。


「仕事はもう無いの?」

「そっちが終わり次第、屋敷の片付けだってさ。前の持ち主の荷物が多すぎて全然片付いてないらしい」


 そう言って嘉麻は革袋に入れた水をぐいっと飲む。


「じゃあ、そこの薪を先に運んどいてくれ」

「あいよ。一休みしてからでいいか?」

「いいよ」


 そう言って英吾は薪を一つ割る。


パキン


 乾いた音を立てて薪が二つに割れる。

 英吾は腰が痛くなったので少しだけ腰をとんとんと叩いた。


「やっぱ僕も一息つけるわ」

「そうしろよ」


 嘉麻がそう言って隣の切り株をぽんぽん叩く。

 誘われるままに切り株に座る英吾は置いておいた革袋の水を一息で飲む。


「殺風景だけどいいところだな」

「そうだな……」


 そう言って二人であたりを眺める。二人が乞食をやっていた町から馬車で運ばれて一週間。

 この土地は見渡す限り荒野で何も無く、太陽は照りつけて動物すら見かけない。

 かろうじて川の周りに数件の家があるだけだ。

 もっともすぐ近くに城塞都市があるのでそこだけは見ごたえはあるが、明らかに寂れている。

 あまり人が住んでいる様子が無い。


「なんもないねぇ……」

「じゃあ、裏手の方を見るか?あっちはまだ見応えがあるだろう?」

「山の方は虫が多いからやだ」


 そう言って屋敷の裏手を眺めてみる。

 屋敷の裏手は山になっていて、こちらは青々とした木々が森を作っている。

 もっとも、同じ木しか生えてないので森と言うべきか林と言うべきか悩むところではある。

 この薪も裏の山から取ってきた物なのだが、そんな薪を一つ手に取る。


「こんな木はみたことないや。樹液が多いなぁ」

「さすが異世界といったところかな……」


 感心した声を上げる嘉麻。

 薪にはべっとりとした樹液がついており、固まってちょっと気持ち悪い。


「あら? 一休みですか?」


 後ろから優しい声がかかるので振り返る。

 そこには気弱そうな顔の女の子が立っていた。

 服装はこの世界の標準的な服装で上が藍染めの着物のような服で模様すらついていないが、それを白色の帯で結んでいる。

 下のズボンにいたっては麻の地の色そのままだ。

 そんな和洋折衷の服だが、少女の気弱そうな外見に良く似合っていた。


「疲れたから休ませてほしいっす」

「ふふふ。いいですよ。急ぐ仕事は無いですから」


 そう言って口に手を当てて上品に笑う。

 スティグミ=アーシア=ミルガ。

 彼らが居る小国マイルグの王女であり、このヴァイスの領主である。


「こいつは甘やかしたらずっとサボりますよ?」

「サボらねーよ」


 英吾と嘉麻が言いあいを始める。

 するとスティはふふふと笑う。


「私としては来てくれただけで嬉しいんです。こんな私に仕えてくれてありがとうございます」


 そう言って深々と頭を下げる。

 慌てて二人が立ちあがりそれを押しとどめる。


「いやいやこちらこそ!俺達からすりゃ助けられたのはこちらの方だ」

「そうですよ!雇ってくれなきゃ野たれ死んでいた!」


 そう言って二人も慌てて頭を下げる。

 だが、それを見てふふふと笑うスティ。


「そんなことないです。私が領主を務める事になっても助けてくれる人が居なかったのでどうしようかと思っていたぐらいなんです」


 そう言って憂いを込めた遠い目をするスティ。

 それを聞いて二人はお互いの顔を見合わせて……思った事を口にした。


「よかったら、コイツは計算とか得意なんで使ってやってください。事務処理とかは得意そうなんで」

「よかったらコイツを馬車馬の如く働かせて下さい。頭が悪いから肉体労働しか出来ないんで」


 そう言ってすぐにお互いにギリギリとメンチを切り合う二人。

 それを見て慌てて止めに入るスティ。


「ああ!大丈夫です!折角手伝ってくれる人をそんな酷い事はしませんから!でも計算とか得意なら手伝ってほしいです!」

「だってよ」

「別にいいけどよぉ。じゃあ、代わりにお前が部屋の片づけするか?」

「いいよ。計算とかメンドクサイし」


 そう言ってお互いにふっと笑いあう。

 それを見てほっと胸をなでおろすスティ。


「仲が宜しいんですね」

「どこが!」

「こんな頭の悪い奴と一緒にしないでくれ!」


 お互いを罵り合う二人をみてふふふと笑うスティ。


「じゃあ、もうすぐお昼ですし、カマさんは私と計算を手伝ってくれますか? エイゴさんはクリィとメリルにも手伝ってもらいますので一緒に部屋の片づけをお願いします」

「いよっし!」

「嬉しそうだな……」


 嬉しそうな英吾。

 実はメリルという子は結構可愛い子で二人とも狙っていたのだ。

 まんまと良いところを取られたので苦笑する嘉麻。


「じゃあ、後でお願いしますね」


 そう言ってころころ笑いながら去っていくスティ。

 その様子を見送る二人。

 見送ってからため息をつく英吾。


「……いいなぁ……スティさん……」

「まさに良家のお嬢様って感じだな」


 嬉しそうに答える嘉麻。


「チ○チン入れたいなぁ……」

「……ぜってぇあの人の前でそんなこと言うなよ?クビになりかねないからな」


 英吾の正直なコメントに嘉麻はじろりと睨みつけた。


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