第6話 捨てる神あれば拾う神あり


 マイルグは小国ではあるものの、旧大帝国ヴァイスの帝都もあるので歴史は古く、そもそも宮殿自体が元ヴァイスの皇族の保養所であった。

 それゆえに居住性が高く、城塞都市なのに宮殿は湖に面しており、宮殿の屋上からは絶景が広がる。

 そもそも王都の名前のエルビアはこのエルビア宮殿からついた名前である。


 その宮殿の片隅の小さな一室で4人の男女がいる。


 一人は黄人に黒髪短髪の少女で、気の弱そうな虐められっ子オーラを漂わせており、ただでさえ弱弱しいのにその顔は不安げ見るからに辛そうな顔をしている。


 その横では強面の黒い肌の嘉麻が立っている。

 いつもは見る者を後ろに下がらせるほどのオーラを漂わせているのだが、こちらもまた、不安げな顔をしており、じっとベッドの人物を見ている。

 さきほどと少しだけ違うのは簡単な衣服をまとっている事だ。


 その二人の前では一人の女性がベッドの上の人物を看病している。

 こちらは眼鏡をかけ青白い肌をしたメイドさんで、英吾に包帯を巻き容態を確認している。

 ベッドの上では英吾が辛そうに息をしている。

 英吾の脈と呼吸を確認すると眼鏡メイドは後ろに振り返る。


「まだ危険ですが何とかなりそうです。運が良かったですね。傷口は血の量の割に浅いのでこれなら大人しくしていればすぐに治ります」

「ふぅ~……」

「よかったぁ~……」


 安堵の息を漏らす嘉麻と少女。

 すぐさまおじぎする嘉麻。


「ありがとうございます」

「いえこちらこそ。エイゴさんに助けていただけなければどうなっていたか……」


 恥ずかしそうにはにかむ少女。

 それを見て眼鏡メイドも頭を下げる。


「本当にありがとうございます。あなた方が居なければどうなっていたことか」

「いえ……礼はこいつに言ってやってください」


 そう言って嘉麻はさきほどの様子を思い浮かべる。

 英吾は腹から血を出して危険な状態だった。

 嘉麻は漫画知識ではあったが髪の毛で動脈を縛り、なんとか止血したのだが、そこに少女と女性が駆け寄ってきたのだ。

 苦しそうに息をする英吾を見てこのままではまずいとすぐに馬車に乗せ、全員でこの宮殿まで来て治療を始めたのだ。


「本当に嬉しいです。ありがとうございます」


 そう言って少女が涙ぐみながら英吾の頭を撫でる。

 涙ぐんではいるが嬉しそうだ。

 だが少女とは正反対にベッド横の眼鏡メイドは顔を曇らせている。

 眼鏡メイドは傍目に見ても明らかな警戒をしながら立ちあがり嘉麻に頭を下げる。


「スティ様を助けていただいて私からもありがとうございます。ただ、失礼ですが……あなた方は一体何者ですか? ただの浮浪者のようですが……」

「タダの浮浪者……になるのかな?この場合は?」


 そう言って戸惑いながらも嘉麻が事情を説明する。

 すると眼鏡の女性が怪訝そうな顔をする。


「異世界……とはまた変な言い方ですね? 天界や魔界に住んでいたというのですか?」

「違いますが……まあ、詳しく話すと長くなるんですが……要するにただの浮浪者になったんですよ。郷里に帰れず、行くあてもない浮浪者ってことです」


 恥ずかしそうに答える嘉麻。

 だが、眼鏡の女性は尚も疑わしげに眉を顰める。


「それに……その異世界と言うのは同じ言葉を話すんですか? ちゃんとこっちの言葉を話しているようなのですが?」

「それが……どういうわけか言葉や文字がわかるんです」


 不思議そうに答える嘉麻。

 本人たちには謎だが何故かこの世界の言葉や文字が理解できるのだ。



 誰かからそんな話を聞いたはずなのだが、それが思い出せない嘉麻。

 実は二人とも今一つ事件前後の記憶があやふやなのだ。


 だがそんな事情がわからない眼鏡メイドはますます疑わしそうに眉を顰める。

 だがそれらを無視するかのように少女がぽんと手を叩く。


「その……行くあてが無いのなら、私を手伝ってくれませんか?」

「スティ様?」


 怪訝そうに振り返る眼鏡メイド。

 だが、嘉麻は微妙な顔をする。


「……手伝ってとは?」

「その……私たちはこれから所領に戻る予定なんですが、一緒に管理を手伝ってくれませんか?その……よければなんですが……」


 控えめに気弱そうにお願いする少女。

 だが、それを聞いて嘉麻はすぐに首を縦に振る。


「俺達は大歓迎ですよ。なにしろ明日食う飯に困っていたぐらいなんで……むしろお願いしたいぐらいですぜ」

「ありがとうございます!」


 そう言って嬉しそうに微笑む少女。

 それを見て嘆息する眼鏡メイド。


「はぁ……ま、いっか……」


 眼鏡メイドは諦めた顔で道具の片付けを始めた。


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