第4話 夜の裏道
エルビアの夜はにぎやかだ。
小国とはいえ、その中心都市は活気があり、そこかしこで陽気な声が飛び交っている。
そんな声を尻目に裏路地で二人は寂しく布にくるまっていた。
「……寒いね」
「……そうだな」
二人でそれだけ言って、なるべく温度を保つために丸くなる。
「……何でこんな目に遭ったんだろうね?」
「……知らん」
英吾の言葉にぶっきらぼうに答える嘉麻。
英吾は暗い路地裏から空を眺める。夜空にはアーチ状の月がかかっており、途中で途切れている。
嘉麻曰く、今居る惑星の陰で見えなくなっているそうだ。
月の下側は白く輝いており、それ以外は緑色に輝いている。
(……綺麗だな)
英吾は空を見て素直に思った。
(……こんな状況でなければ月を愛でるというのも良かったかも)
英吾はこんな状況でも風情を忘れない男であった。
ふと、喉の渇きを感じてむくりと起きあがる。
「どうした?」
「水飲んでくる」
英吾はそう言って起きあがって、すぐ近くに公共の井戸へと向かう。
のそりと歩いて向かう英吾を、何人かが怪訝そうにこちらを見るがすぐに浮浪者と気付き目をそらす。
(……誰も助けてはくれないよね……)
はぁっとため息をついてとぼとぼ歩く英吾。
そして唐突に何かにつまずく
どしゃぁ!
舗装されていないむき出しの土に転ぶ英吾。
ちょっとだけ遠くに飛ばされた椀がからからと音を立てる。
(あぶねぇ!)
慌てて木の椀を拾って傷が無いか確かめる英吾。
実はたまたま見つけた椀で今の財産はこれだけしか無いのだ。
周りからクスクス笑う声が聞こえる。
「なんだあれ?」「最近うろついてる乞食だよ」「ばっかじゃねぇの」
その様子を見ていた通行人が口々に笑う。
一瞬で頭が沸騰しそうになるがぐっとこらえる英吾。
人権の概念すらなさそうな国なので、暴れたらどうなるかわかったものではない。
ぐっと唇を噛んでそそくさと逃げる英吾。
後ろからまだ笑う声が聞こえていた。
あしもとに気をつけながらもようやく井戸に到達する。
井戸はよくあるつるべ方式で英吾がつるべを掴むとからからと音を立てて目の前の桶が下に落ち、代わりに底にある桶が上がってくる。
水は桶の中に半分程入っているのでそれを使って椀を洗い水を飲む。
「……ふぅ」
井戸の周りは町の中心地でもあるのでにぎやかである。
ゆえに自分の服装のみじめさが一層際立つ。
実際にくすくすとこちらを見て笑う人達の声が聞こえる。
(早く逃げよ)
そう思って先ほどの道を戻ろうとするがふと、もう一本の通りが目に入る。
(あそこは人通りが少ないな)
薄暗い路地裏で普段から人通りの少ない道だった。
実はこの路地で身ぐるみはがされたので普段から通らないようにしていたのだが、今のねぐらに行くには来た道かこの道を通るしかない。
(……ま、いっか)
さすがに盗む物は無いからどうしようもないだろうと意を決して路地裏に入る。
昼も薄暗いこの道は明らかにやばそうな住民の住むスラム街で歩くだけで窓の隙間からちらりと見られる。
何か盗める物を持ってないかとみているのだが、流石に何も持ってない英吾を襲うほど暇ではない。
そんな薄暗い道をとぼとぼと歩く英吾。
キャア!
「……なに?」
奥の方から黄色い叫び声が聞こえてきた。
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