第1話 襲撃者
人里離れた山奥に場違いなほどたくさんの灯りが灯っている。
かなり広い地域でちょっとした城ほどもある広さで、山を開いて作られており、所々に荷馬車や木で出来た倉庫が置かれており、こんな夜中なのに何人もの人影があった。
しいて問題点を挙げれば……
人影は例外なく血だらけで死んでいることだろう。
辺り一面の血の海には物言わぬ骸だけが大量に横たわっており、生きている物は動物だけだった。
そして今もなお、その建物の奥にある洞窟から阿鼻叫喚の悲鳴が響いていた。
「うでがぁぁぁ!!!!」
バオシュッ!
叫んでいた男の首が飛び、そのまま崩れ落ちる。
「なんだコイツは!」
「逃げろ!」
口ぐちに叫んで逃げ惑う男達。
だが、暗い地下室の中では逃げ場すら見つからない。
その男達の視線の先には奇妙な人型の物体が蠢く。
「△〒◎><♡Д」
何かを叫んでいるがそれを理解する事は男達には出来ない。
「何言ってるんだ!」
「わからん!」
叫びながら逃げ惑う男達。
ボシュシュシュシュシュッ!
「ぐぎゃあ!」「いてぇ!」「なんだぁ!?」
逃げようとした男たちの数人が立ち止る。
「げふ……息が……」
胸から血を出した男が吐血して倒れる。
阿鼻叫喚という言葉がこれほど似合う状況は無い。
それを遠巻きに見ている老人がいる。
「何て奴だ……」
苦々しくつぶやく老人。
老人の周りには数人の護衛がいるがとても太刀打ちできそうにない。
「どうしますかゴンボル様!」
「……ここで迎え撃つしかあるまい」
逃げ場などないのだからと心の中でつぶやく。
(機密漏洩と奴隷の逃走を防ぐために一本道にしたのが失敗だったか……)
心の中で悔やむゴンボル。
彼しか作れないという『フォルン』。
これを専売するために採掘場には余人が入れず、知る者は出られない仕掛けを幾重にも重ねていたが、その全てが仇になった。
採掘場は他の出口が無く、今まで自分を守ってきた城が今度は牢獄に早変わりしたのである。
「ぎぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」
今、襲ってきている侵入者は、目の前の人間を虱潰しに殺しながら前に進んできており、全員を殺すまで止まりそうにない。
「でやぁぁぁぁぁ」
「とりゃぁぁぁぁ」
ボシュ!
護衛が思い切って斬りかかったのだが、斬るより先に腰の所で二人同時に両断される。
「……ここまでか」
嘆息して諦めるゴンボル。
「思えば長い人生だった……」
今までの人生を振りかえる。
魔導の研究に明け暮れた青春時代。
ガルムの精製が軌道に乗り、億万長者になった時。
愛人の数が100を超えた時。
そして・・・・
ちらりと奥を見やるゴンボル。
「天女様と出会えたのが何よりも幸せだったな……」
全てはそこから始まっていたのだ。
天女に出会い、ガルムの製法を知り、人生の全てが変わった。
ゴンボルは化け物の方を見る。もはや鼻先にまで近付いていた。
(アルドが秘密の部屋を見つけますように)
ボシュッ!
化け物の放った何かが老人の胸元を貫く。
すぐにおびただしい量の血が辺りにばらまかれる。
(血が通ってないと言われる事すらあったのにな……)
ゴンボル自身もそう思う事があったのだが、どうやら普通に血が通っていたらしい。
(天女様……)
口を開いてそう言おうとしたのだが、それは声にならなかった。
こうして、一代で財を成した希代の大商人ゴンボルは死んでいった。
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