永劫なる皇帝の始まりの物語

剣乃 和也

全ての始まり

 国を分断するほどの大河も雲を貫く大山も始まりは小さなものである。

 この物語の始まりも小さな穴から始まった。

 それは小指が入らないほどの小さな穴だった。



「で? 女子水泳部の部室に穴まで開けて覗こうとした犯人はだれなの? 」


 どこにでもあるような空き教室の中でショートカットの見るからに気の強そうな少女が仁王立ちをして床に正座している男たちを睨み付けている。

 女の子も含めて全員、金剣中学のジャージを着ており、座っている5人の少年たちは反省しているのかいないのかわからないような顔で神妙に座っている。


「はい! チーボが主犯です! 」


 元気よく手を上げたのは一番アホっぽい顔の少年で左目の下に涙ボクロがある。

 すぐ横の大柄な少年がそのアホを睨み付ける。


「おい誰が主犯だ! 真っ先に覗こうとしたバカが何ほざく! 」

「そうだよ! 主犯は英吾じゃないか! 」


 その横の小太りの少年が声を上げる。


「ひどいぞ! 刀和まで俺のせいにする気か! 」

「お前のせいにするも何もお前が言いだしたからやったんだろうが! 」


 英吾と呼ばれた少年の隣にいる黒人の大柄な少年がぼそりと答える。


「酷い! 嘉麻まで俺に全部押し付けるなんて! 」


 涙を流しながら今度は少女の方に拝み始める英吾。


「信じて瞬! 俺は潔白だから! 」

「はいはいちゃんと信じてるわよ」


 そう言って瞬は手に持った竹刀を振りかぶり……


 パン!


 小気味よい音を立てて英吾の脳天へと振り下ろした。


「なんで……」

「絶対あんたが主犯と信じてるからよ」


 そう言って英吾を蹴倒して転がす瞬。

 そのあとに全員を睨む。


「そんで圭人。あんたは関わったの? それとも単にその場にいただけ? 」

「その場にいただけです」


 圭人と呼ばれた少年はかくかく首を振りながら答える。

 それを聞いて嘉麻と呼ばれた黒人の少年が叫ぶ。


「きたねぇぞ! てめぇだって観ようとしてたじゃねぇか! 」

「たまたま近くを通っただけで俺は計画に関与してねぇよ! 」

「関与してなくても覗こうとした未遂犯じゃないか! 」


 刀和と呼ばれた小太りの少年が叫ぶ。


「汚いこと俺たちにやらせて自分だけ逃げるのはずるいな」


 そう言ってチーボがつぶやく。


「まてまて、俺はたまたま通っただけだ。酷い言いがかりはよしてくれ」


 そう言って圭人と呼ばれた少年は瞬に拝み始める。


「瞬……信じてくれ。俺は無実なんだ」

「なるほどよくわかったわ」 


 パンパンパンパン!


 全員の頭をフルスイングでひっぱたく瞬。


「あんたら全員有罪ね……ギルティよギルティ。敗訴確定。お分かり? 」


 そう言って仁王立ちで頭を押さえて転がる少年たちを睨み付ける瞬。


「リーダー! なんとか反論しろ! 」


 嘉麻が大声で英吾の方に向かって叫ぶ。


「お頭! 頼みます! 」

 

 チーボも英吾に向かって叫ぶ。


「ボス。お願いします! 」


 刀和も大きな声で頼み込む。


「隊長。無実の証明をお願いします! 」


 圭人も刀和に追随するように叫ぶ。


「……さらっと俺を責任者にするなよ……」


 いち早くダメージから抜け出した英吾が涙を流しながら立ち上がる。

 そして瞬の前でひざをついた。


「瞬……聞いてほしいんだ」

「なに? 」


 冷めた目で英吾をみる瞬。


「女体の神秘の追求は人類にとって必要なことだと思わ……」


 バシィン!バシィン!バシィ!


「裁判長の権限で死刑を執行しました」


 竹刀の連打を受けてそのまま倒れ伏す英吾。

 その頭をぐりぐり踏みながら瞬は頭を抱える。


「あんたらはどうして問題ばっかり起こすの? 少しはおとなしく出来ないの? もうちょっと周りの大人を見習ったらどうなの? 」

「「「「もっと変態ですけど? 」」」」 

「……そうだったわ」


 頭を抱える瞬。

 この町の宝満祭りは大きなお祭りだが、大人が率先してバカなことをやることで有名である。

 ましてや全員中学生で青年団にも所属しているので大人たちのおバカな行動はみんな見ている。

 瞬自身も彼らの行動に呆れかえることが多い。


「女の子にちょっかいかけて毎年奥さんに平手打ちくらってる人とか……」

「ちんちんに名前書かれてる人いたね……」

「居た居た。二股がバレて彼女にちんちんの領有権主張されたんだよな」

「まんこの形した水鉄砲に酒入れて撃ちまくってるよね」

「そもそも歌ってる祭り歌自体がちんぽとかちゃんぺとかそればっかりだし」

「よさほい節なんか完全に変態だし」


 口々に大人たちのおバカぶりを言い出す4人。

 ちなみに英吾はそんな大人たちから「期待のホープ」と呼ばれている。


(頭痛くなってきた……)


 どうすればまともになってくれるのかと頭を抱える瞬。

 そんな時だった。


(うん? )


 最初に気付いたのは小太りで丸い体つきの刀和だった。

 瞬の後ろに黒いものが見えたのだ。すぐに瞬の体に隠れて見えなくなってしまう。


(なんだろ? )


 蠅かなにかと思って気にしないようにしていたのだが、何気なく瞬が動くと後ろにある黒いものがまた見えた。


(大きいな……)


 蠅かと思ったら熊蜂ほどの大きさに見えたのだ。


(危ないな)


 そう思って刀和は声をかけることにした。


「瞬。後ろに蜂」

「え? 」


 そう言って瞬が後ろを向いたその時だった。


 ブワッ!


 黒いものが突如として人間台の大きさまで大きくなる。


「なに? なにこれ! 」


 瞬がその黒い塊に一瞬にして左腕が飲み込まれる。


「なに?……抜けない!」


 慌てて瞬が引き抜こうとするが抜けない。


「瞬! 」


 刀和が慌てて瞬に飛びついて引っ張る。


「このお! 」


 思わず黒い塊を殴る刀和。

 だが、今度は刀和が黒い塊に飲み込まれる。


「なんだこいつは! 」

「くそ! 引っ張れ! 」


 嘉麻とチーボが刀和と瞬を引っ張る。

 だが、ものすごい力で黒い塊に飲み込まれていく二人。


「うああああああ! 」


 あまりのことに後ずさる圭人はそのまま教室の隅でうずくまる。


「だめか! 」


 渾身の力で引っ張っていたが限界で思わず手を放してしまうチーボ。

 だが、それがいけなかった。

 態勢が崩れて嘉麻が黒い塊に引っかかってしまう。


「うわぁぁぁぁ! まじか! 」


 完全に右腕が飲まれてしまう嘉麻。

 そして、刀和と瞬は完全に黒い塊に飲み込まれて何も残らなかった。


「嘉麻! 」


 慌ててチーボが引っ張ろうとする!

 だが……


 ドン!


 チーボは何者かに弾き飛ばされて床へ転がった。

 すぐに起き上がって引き戻そうとするがそのチーボに手を広げて止める男が居た。


「英吾! 」

「チーボは圭人と一緒に逃げてくれ。3人は俺が連れ戻す」


 そう言って英吾は嘉麻の手を掴む。

 そのまま自分の体が黒い塊に飲み込まれても平然としていた。


「英吾……」


 涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら嘉麻が嬉しそうに英吾の手を握る。


「泣くな。よくわからんが何とかなるさ」


 そう言って英吾は笑って、泣きじゃくる嘉麻と共に黒い塊に飲み込まれた。


 パキィン!


 何かが割れるような凄まじい音が響いて黒い塊が無くなった。

 後には静かな空き教室だけが残った。


「えい……ご? 」


 チーボは倒れこんだまま呆然と黒い塊があった場所を眺める。

 だが、異変はそれだけではなかった。

 なぜか急激に窓の外が赤くなって、飛行機の様な轟音が聞こえてきた。

 轟音が少しずつ大きくなり、窓の外がどんどん赤くなり……


 ドゴォオン


 ものすごい轟音を響かせて教室を破壊した。



 この事件は後に『世界同時多発隕石事件』として記録される。

 この事件により6人の少年少女は離れ離れになる。


 小太りチビだが心の優しい少年    万代 刀和

 快活なショートカット巨乳少女    玉響 瞬

 大柄で真面目な優等生系の少年    大上 悠久

 眼鏡を掛けた口だけ上手い少年    九曜 圭人


 そしてこの物語の主人公にして、

 


 左目の下に涙ボクロのある少年    久世 英吾 


 そして、そんな彼を支えることになるのは


 大柄で強面の黒人ハーフの少年    嘉麻 一石

 


 離れ離れになった仲間たちは再び会えるようになるまでに途方もない苦難を歩むことになる。


 彼らが再び会えるのはいつの日か?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る