つまらない者ですが

「すみません。」

 私は撮影からの帰り道、見知らぬ男に声をかけられた。


「つまらない者ですが。」

 彼はそう自己紹介をした後、私に一言投げかけた。


「声優、Say You.」


 彼はそう言い終わると一礼して、そのまま満足そうに去っていった。

 私がこれと似た光景を見たのは、今日だけで3度目だ。


 原因は分かっている、仕事で滑舌の良いアナウンサーの人と共演した時の私のツイート

『つまらない人って憧れる。』

 それ以来、ファンが私に対して寒いギャグを言いに来るのだ。


 だから私は皮肉を込めて、呟き直しておいた。

『教養の詰まった人って素敵。』


「すみません。」

 私はその翌日、また呼び止められた。振り返ると昨日とは別の男が立っている。彼はニタリと笑いながら言った。


「今日、用がある者ですが。」


私は思った。


どいつもこいつも頭の中は空っぽだ。

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