11争い

「今日が何の日か知ってる?」

友人はポッキーを食べる姿を見せつけながら聞いて来た。


「知らねえよ。そんなこと聞くために呼びつけたのか。」

俺は仕事終わりに呼び出されて、彼と一緒に街中を歩いていた。


「たまにはいいじゃないか、秋の夜長に一人は寂しいんだよ。」


「おっさん二人でポッキーゲームをしても楽しくないだろ。そもそも、菓子を食べる日はハロウィンで十分に間に合ってる。わざわざ世間の流行に躍らされるのは勘弁だね。」


「その発言は広告代理店で働いてる僕に失礼と思わないのかい。まあいいさ今日11月11日は鉛筆を4つ並べた姿から、コピーライターの日なんだよ。だから今日は僕に付き合ってくれ。」


俺はため息をつく。

「今日はなんの日?なんて元々しょうもないのに、11月はもっと下らねえ。いい肉の日だとか、いい夫婦の日だとか。1を4つ並べて麺の日だとか、適当にも程があるだろ。」


「コピーライターは下らないものに価値を付けてあげるのが仕事なんだよ。いいじゃないか、そのおかげで今日は君に会うきっかけができたんだから。」


 そんなやり取りをしていると、向こう側にペットの散歩をしている美女の姿が見えた。俺は友人を煽る。

「ほらお得意のトーク力でナンパでもしてこいよ。素敵な犬ですね、今日は何の日だか知ってますか。ワンワン、ワンワン!僕も貴方に甘えてポッキーゲームでもしたいなあ、なんつって。」


 友人は冷めた声で答える。

「残念だけど、犬の日は11月1日だよ。4つじゃなくて、3つのワン、ワンワン、から来てるんだ。」


「はあ、そういう細かいところが良くないんだよお前は。」


「”いちいち、いちいち”細かいのもいいだろう?今日は11月11日なんだからさ。それにモテないのはお互いさまだよ。」


 渾身のギャグを返されてしまい、俺は敗北を受け入れる。

「参った参った、言い争いじゃ勝てねえ、俺の負けだ。どこでも付き合ってやるよ。」

 俺はそう言いながらせめてもの抵抗として、両手を上げる降伏のポーズをし頭の上に11を作る。


 すると、俺達を見ていた別の女性が近づいて来た。

「今日限定のセールやってまーす。是非お越しください。」


 俺は彼女から渡されたチラシを見て言った。

「なるほどな合点がいったよ。俺もお前も同期の奴らと違って、いい夫婦の日には縁がないもんな。」

 

「そういうわけさ。なんか麺類でも食べに行こうよ。でもラーメンの日は7月11日だから気を付けてね。」


俺は友人に聞く。

「それでこの下らないキャンペーンは誰が考えたんだ。」


友人は苦笑しながら答える。

「多分だけど、どっかの捻くれたコピーライターが作ったのさ。」


 11月11日は誰が呼んだか『独身の日』。ダメ男達の下らない夜は続いていく。

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