金目の物

 嵐の夜、ある男が盗みを働いていた。


 彼は雨音を聞きながら、満足げに言う。


「世間じゃ、悪事を働くと『お天道様は見ている』だなんて言われるが、こんな天気じゃ太陽も顔を出せまい。」


 迷信なんてなんの役にも立たない。男にとって重要なのは、腹を膨らまし、娯楽を提供してくれる金だけなのだ。


 男が侵入していたのは、街中にある富豪の邸宅。普段の行動観察からこの週末、家主がいないのは把握済みだ。


 客間の展示室に入ると不用心なことに、銀でできたブローチやプラチナのネックレス等、ジュエリーショップでも開けるんじゃないかと思うほどの貴金属類がガラスのケースに入っている。

 中でも一際目を引いたのは、部屋の真ん中に飾られた、金の延べ棒である。泥棒である男からすれば、どうぞ盗んで下さいと言っているようなものだ。

 

「成金ここに極まれりだな。金塊をそのまま置いてあるなんて。」


 男は手慣れた仕草で防犯装置を解除すると、ガラスを壊していく。外の嵐のおかげで物音は漏れることはない。

 男はバックいっぱいに戦利品を詰めると、悠々と帰路につくため、裏口の扉を開けた。

 しかし家から出た瞬間、まばゆい光が男の目に入る。


 (まずい。サツに嗅ぎ付けられたか。)


 その考えが頭をよぎるよりも前に、男は雷に打たれた。

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