恩返し
夜遅くに玄関のチャイムが鳴った。覗き穴から来客者を確認すると、そこには長い前髪で顔が隠れた女性が立っていた。
時間も時間なので不気味ではあったが、とりあえず危害はないだろうと思い私は扉を開けた。その時女性は丁度髪をかきあげており、私は彼女と目があった。
彼女は長髪のせいか隠れた顔は色白で、目付きは少し鋭かったが、顔も体型もそれに見合うようにスラリとしていて美人だった。彼女は言った。
「今日の昼に助けていただいた者です。恩返しをしにやって来ました。」
俺は驚いていて、彼女の言葉をただ聞いているしかなかった。
「では奥の部屋を借りさせてもらいますね。でも、決して私の姿を覗かないでくださいよ。」
彼女は可愛らしく舌をペロッと出して、ドアを開いたまま固まっている俺の脇をスルリと抜けていった。
突然、男の家に上がり込んで「覗かないでください」なんて誘っているとしか思えないが、恐らく今頃熱心に自分の鱗で財布でも作っているのではないだろうか。
俺は彼女の顔を一目見た時から、彼女の正体が分かっていた。恐らく今日の昼に助けてあげた白蛇である。道路で干からびかけていた所を森に戻してやったのだ。
わざわざあんな遠くからやって来て、恩返しとはご苦労なことだ。だがしかし、この状態では覗くも覗かないもないだろう…。
俺は彼女と最初に目があった時から、石化している体でそう考えた。
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