トリックアートの住人

都内のビルの一角で開かれたトリックアート展。

騙し絵の中に住む男は、終わりのない階段を上り続けていた。


そんな彼の正面に飾られていた、横を向いた少女の絵が話しかけてきた。

「あなた、外の世界に興味はないかしら。」

「やあ、麗しいお嬢さん。そりゃあ絵の外がどうなってるかは気になってたよ。でもいくら歩いてもこの階段が終わらないんだ。」

 少女は笑って言った。

「あなたって騙されやすいのね。なら教えてあげる。その階段から外に向かって、飛び降りれば良いのよ。」

 男はその言葉を信じるか悩んだがここで引くのも男が廃る、やがて決心して白と黒の世界から身を投げた。すると少女の言葉通り、絵の世界から飛び出すことができた。

 驚く男に少女は言った。

「階段を上って見なさい。きっと良いものが見れるわ。」


 ビルの階段を上り、屋上にたどり着いた彼は感動していた。

 吹き抜ける風、色のついた空、どこまでも続く世界。自分は今まであんな狭い世界にいたのかと。

「彼女にもこの景色を見せてあげよう。」

 そう考えた男は下に降りるため、いつも通り屋上の鉄柵を登った。

 

 誰もいなくなった無限階段の絵の前で、老婆の絵は普段と変わらない不気味な笑みを浮かべている。

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