51.サーシャを瑠璃色の風に招待です!

「うわぁ。想像していたよりも立派なところなんだね。瑠璃色の風って」


 サーシャは瑠璃色の風のギルドハウスが立派で驚いているみたいだね。

 ボクも初めて見たときは、驚いたから気持ちはよくわかるよ。


「瑠璃色の風は、昔、結構有力ギルドだったらしいからね。その時の名残なんだって」

「セルシア、詳しいんですね」

「斬魔さんの受け売りよ。……そろそろ、迎えの人が来てくれると思うんだけど」

「そうなんですか? なんだか悪いような」

「気にしなくていいと思います。どちらにしても、最低でもゲスト権限がないと敷地には入れませんし。私達の立場じゃそれも出来ませんから」

「そうなんだ。皆の立場ってどういう扱いなの?」

「ボク達は体験入団扱いだよ」

「そうね、基本的に最初は体験入団扱いでの所属になるはずよ」

「そっか、失礼のないようにしなくちゃ」

「基本的に皆さんいい人ですから大丈夫ですよ。最低限のマナーとルールさえ守れれば」


 そうだね最低限のマナーとルールさえ守れれば問題ないよね。

 それすら守れないバカもいたけど。


 4人で入口前でおしゃべりしてたら、中からユーリさんが出てきたよ。


「あら、意外と早かったのね。サマナーギルドの講習を受けてから来るって聞いてたから、もう少しかかると思ってたんだけど」

「講習は最短コースで終わらせたので大丈夫です。それで、お姉さんは……?」

「ああ、ごめんなさい。『瑠璃色の風』所属のテイマーでユーリって言うの、よろしくね」

「サーシャ=ナインテイルです。よろしくお願いします」

「そんな堅苦しい言葉遣いをしなくても大丈夫よ。最低限のマナーやルールを守ってもらえれば、砕けた口調で話してもらっても気にしないわ」

「えっと、わかりました。でも、この口調はクセみたいなものですから、あまり気にしないでください」

「そう。それならあまり気にしないでおくわね。それで、リーンちゃんから瑠璃色の風うちのギルドを紹介されたみたいだけど、本当にここに所属することで構わないの?」

「はい、大丈夫ですよ。このゲームだって、リーンと一緒に遊ぼうと思って始めたものですし」

「それなら構わないわ。それから、あなたの指導なんだけど、担当は私になるわ。本当ならサマナーがいいんでしょうけど、生憎、うちのサマナーが年度末進行でプレイ時間がろくに取れないみたいなのよね……」

「そこは大丈夫だと思います。この一週間で、サマナーの基礎知識はしっかり覚えてきましたから」

「あら、そうなの? それじゃあ、大丈夫かしら」

「はい、大丈夫です」

「そうなのね。……てっきり、リーンちゃんみたく勢い任せにゲームを始めたかと思ったんだけど」

「……リーンは、直感任せのところがありますから」

「まあ、事情はわかったわ。それじゃあ、ギルドに勧誘するから承認をお願い」

「わかりました。……はい、これで大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫よ。ようこそ『瑠璃色の風』へ。歓迎するわね」

「はい、よろしくお願いします」


 うん、これでサーシャも瑠璃色の風のメンバーになれたね。

 さて、これからどうしようか?


「さて、新しい仲間も増えた事だし、まずは休憩室に向かいましょう」

「休憩室? ユーリさん、何かあるの?」

「ガイルとシリルが待ってるのよ。新人が来るってわかってたから、渡す装備も含めてね」

「そうなんだね。それじゃ、サーシャ行こう」

「えっと、装備ってもらってもいいんですか? 基本的に最初の所持金5,000Gで買いそろえるのが普通らしいですけど」

「気にしなくていいわよ。最近の瑠璃色の風うちの趣味は、初心者支援みたいなものだから。基本的に、第1エリアクリアを狙える装備以上のものは渡さないから安心して」

「ええと、わかりました。このお礼はいずれしますね」

「新人がそんな事を気にしなくても大丈夫よ。さあ、早く入りましょう」


 ユーリさんに連れられて、全員で休憩室に入ってくよ。

 そうしたら、ユーリさんの言葉通り、ガイルさんとシリルさんが待っていてくれた。


「お、その子がリーンの連れてきた新人か。プチドラゴンを連れているが、テイマーとサマナーどっちだ?」

「ガイル、それよりも自己紹介が先でしょう」

「あっと、スマン。俺はガイル。このギルドのサブマスターの一人だ。それで、こっちが……」

「シリル。裁縫師。布系の装備がほしいなら教えて。一応、革鎧も作れるけど」

「……まあ、そう言う訳だ。それで、職業はどっちなんだ?」

「私はサーシャと言います。これからよろしくお願いします。それとジョブはサマナーです。リーンと同じ職業にするのも芸がないかなと思いましたので」

「そうか。……ああ、口調はもっと崩してくれてもいいぞ。そんな事でいちいち目くじら立てるヤツはほぼいないからな」

「大丈夫です。この口調はクセみたいなものですから」

「そうか。……ところで聞きたいんだが、初期スキルは何を選んだんだ? 見たところ、装備は杖しかないようだが。もしよければ教えてくれ」

「構いませんよ。【火魔法】【風魔法】【MP回復速度上昇】【MP最大値上昇】【杖】の5つです」

「……これまた、リーンとは真逆の純魔術士系サマナービルドだな。サマナーが魔術師やっていくなら、必要そうなスキルが全部入ってやがる。あとは、【魔法リキャストタイム減少】と【魔法消費MP減少】を揃えれば完璧か」

「他の属性の魔法も覚えたいのですけどね」

「……初心者のうちは止めておけ。流石に攻撃メインで3属性も覚えたら、スキル回しが大変になるぞ」

「そうなんですね。わかりました、しばらくは魔法の種類を増やすのは止めておきます」

「ああ、そうしておけ。……しかしそうなると、装備品はMP上昇効果のある装備品がメインの方がいいよな。シリル、魔術師系用の装備ってどの程度の在庫がある?」

「普通の魔術士用装備ならそこそこある。特殊装備なら数着」


 シリルさんが特殊装備って言い出したよ。

 特殊装備って何だろう?


「特殊装備? シリルさん、特殊装備って何?」

「生産系プレイヤーがオリジナルで作った装備のこと。オリジナル装備って言う事も多いけど、私は特殊装備って呼んでる」

「そうなんですね。ちなみに特殊装備だと何か困ることでも?」

「見た目の問題。普通の魔術士用装備は、一般的なローブ装備。特殊装備の方は……見てもらった方が早いかも」


 そう言って、シリルさんは2セットの装備品を取り出したよ。


 1つはわかりやすい魔術士用の服装。

 いかにも魔術師って感じの服だったね。

 装備の性能も見せてもらったけど、防御力が低い代わりに、MPが15も上昇するみたい。


 そしてもう1つは……


「どう見てもゴスロリ衣装だよね。これ」

「ゴスロリだね」

「うん、ゴスロリ衣装。昔いた新人にリクエストされて、作った装備品の強化版」

「……すごいですね。このワンピース装備だけで物理防御が18に魔法防御が30も上がります。その上、MPも40上がる優れものですね」

「性能はいいんだけど、この見た目のせいであまり引き取り手がいなかった。もし使うなら譲るよ?」

「……サーシャ、どうしますか?」

「うん、これの方がいいです」

「本当に構わないの?」

「せっかくのゲームなんですから、普段着ない服装がしてみたいです」

「そうわかった。それじゃあ、これがセットになるヘッドドレスと編み上げブーツだから、これも一緒に使って」

「はい、ありがとうございます」


 装備品を受け取ったサーシャは、早速新しい装備に変更したよ。

 金髪狐っ子が白黒ゴスロリ服って言うのも可愛いらしいね。

 ちなみに、サーシャのワンピースは下半身装備と腕装備も含んでいるらしい。

 だから、頭のヘッドドレスと編み上げブーツで全身フル装備みたいだね。


「サーシャの防具はこれで第2エリアでも大丈夫だろ。……問題は武器だな」

「サーシャは魔術系になるんだから杖系なんでしょ? ハイネさんに頼むの?」

「それでもいいんだが……サーシャ、ちょっと変わった物を使ってみる気はないか?」

「……ガイル、あなたはまた新人に変わり種の武器を薦めようとして……」

「今回はそこまでネタに走った……いや、ネタ武器ではあるんだが、雰囲気重視と言うヤツだな」


 そう言ってガイルさんが取り出したのは、白い日傘。

 レースとかもしっかりしてて、とっても可愛らしいね。

 ……でも、これをガイルさんが作ったのかな?


「こいつは『魔導式日傘』って言う装備だな。中軸部分が長杖と同じ働きをして、杖になる。傘の部分は特殊な加工を施した布で、広げて防御に使えば盾代わりにもなる代物だ」

「……こんな布で防御したらすぐ破れそうだよ」

「そこはテスト済みだから心配するな。布部分はシリルに作ってもらってるから、性能的には問題ない」

「これはゲーム。布部分が攻撃を受けても、傘全体の耐久値が減るだけ。……もっとも、そこまで頑丈じゃないから、これで防御してたらすぐに壊れるけど」

「……うーん、事前に調べてた杖の性能に比べると大分上ですね。本当に、これを使ってもいいんですか?」

「おう、構わんぞ。シリルのゴスロリ服にあわせて作ったんだが、日の目を見る機会がなくってな。念のため、予備の傘も渡しておくから使い勝手を教えてくれ」

「はい、ありがとうございます」


 これで、サーシャの装備も整ったかな。


「さて、これでサーシャちゃんの装備も一式揃ったわね。……何というか、ネタもの系になっちゃったけど。それじゃあ、早速なんだけど、ギルドで受けてきてほしいクエストがあるのよ」

「はい、何でしょう」

「『街の配達人』って言う雑用クエストよ。それじゃあ、頑張ってきてね」

「はい、わかりました。行ってきます」


 おや、サーシャは何の疑問も持たずに行くようだね。

 ……そう言えばボクも3回目の配達クエストは受けてなかった気がするね。

 ついでだから、ボクも受けてこようかな。

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