45.強い猫ちゃんと遭遇です!

 ボク達は休憩地で十分休憩を取った後、再度、ベルの森最深部に向かって歩き始めたよ。

 経験値稼ぎの継続だね。

 それよりも気になるのは、この休憩地よりもさらに奥に続いている道があった事なんだけど……


「ねえ、スズカ、セルシア。この森の奥ってまだ続いてるの?」

「え? ああ、この休憩地の奥ね。この奥は『ゴブリン族の集落』っていうインスタンスダンジョンに続いているのよ」

「インスタンスダンジョン? それってどんな場所なの?」

「わかりやすくいうと、パーティ毎に自動生成されるダンジョンの事かな。だから、ダンジョン内の全ての敵を自分達の手で倒せるけど、他の人の助けを受けられないの」

「スズカの説明通りね。あとは、クリアボーナスとして経験値やお金、それに少し強めの装備が手に入るって事かしら」


 そんな場所があるんだね。

 全然知らなかったよ。


「ああ、でも、あのダンジョンはレベル16以上にならないと入れないから、今は気にする必要はないわ。……それに、レベル16になったら、報酬の装備が微妙なせいで不人気ダンジョンの一つなんだけどね」

「そうなんだね。それじゃあ、あまり気にしないでおくよ」

「その方がいいでしょうね。さあ、最深部に戻ってもう一稼ぎするわよ!」


 セルシアの号令で、ボク達は再び最深部へと足を踏み入れたよ。

 そこは当然だけど、相変わらず鬱蒼と木々が育っていて、やっぱり見通し悪いね。

 中層部くらいまではよく聞こえてた戦闘音も、深層部に入ってからは聞いていないよ。


 深層部で戦い続けること1時間ちょっと、ようやくフォレストキャットの動きにも慣れて、大ダメージを受けなくなったところ。

 そんな矢先、激しい戦闘音が深層部に鳴り響いたんだよ。

 爆音というか、轟音というかそんな感じだね。


「何でしょう、近くで別のパーティでも戦っているのでしょうか?」

「最深部に入ってからは、他のパーティは見かけてなかったのにね」

「それで、どうするの? 狩り場を少し変える?」

「そうね……狩り場を変える前に、この轟音の主がどんな敵と戦っていたのかは気になるわね」

「それじゃ、見に行ってみる?」

「そんな、相手の方に迷惑ですよ」

「大丈夫よ。気付かれないように遠くから見るだけだから」

「そうだね。戦闘の邪魔をするつもりもないから、きっと大丈夫だよ」

「そうでしょうか。……でも、私も実を言うと気になるんですよね」

「それじゃあ、音のする方へ行ってみましょう。……多分こっちの方角よね?」

「あってると思うよ。それじゃ、行ってみようか」


 僕達3人は正規ルートを外れて、森の中へと足を運ぶ。

 しばらくして、モンスターが襲ってこなくなってきた。

 運営のバグかな、と思っていると、スズカから説明が入った。


「……おそらく、この一帯はネームドモンスターの縄張りなんでしょうね」

「ネームドモンスターの縄張り? それって何なの?」


 セルシアも知らなかったみたいだね。

 当然、ボクも知らないよ。


「ネームドモンスターが出現すると、その周囲に普通のモンスターがいなくなるんです。それがネームドモンスターの縄張りで、もう、私達はそこに足を踏み入れている事になりますね」

「詳しいのね。……そうなるとネームドモンスターに襲われる心配もある訳ね」

「いえ、序盤に出現するネームドモンスターはノンアクティブで、こちらから攻撃しない限り襲われないそうです」

「スズカ、詳しいね。誰から聞いたの?」

「ユーリさんです。だから、信頼してもいい情報だと思います」


 なるほど、ユーリさん情報か。

 確かに、ユーリさんならモンスター情報に詳しくても不思議じゃないね。


「そうなると、見学する分には安全なのね。とりあえず、もう少し近づいてみましょう」

「そうだね。そうしよう」


 ボク達は音の発生元の方に近づくと、そこでは一人の男性がドラゴンと一緒に虎柄模様のフォレストキャットと戦っていたよ。

 その周囲には、周りを封鎖するように光の壁で囲まれているね。

 うん、これはネームドモンスター戦だ。


「周りが光の壁で囲まれてるけど、どういうことかしら?」

「ネームドモンスター戦は勝負がつくまで、隔離されるんだよ。つまり、あの虎柄模様のフォレストキャットはネームドモンスターだね」

「そうだと思います。となると、あの人はテイマーかサマナーでしょうか」


 今のところ、テイマーかサマナーの人の方が不利っぽい。

 ボク達は離れた場所で様子を窺う事にしたよ。

 あと、時間はありそうだし、ユエさんのサイトでネームドモンスターのテイム条件も調べておこう。


「……あの人、大分押されてるわね。どうして他のパートナーがいないのかしら?」

「ネームドモンスターを仲間にするには、特定の条件を満たさなければならないんです。そのせいじゃないでしょうか?」

「なるほどね。……リーンは何を調べているの?」

「フォレストキャットのネームドモンスターを仲間にするための条件だよ」

「それって、すぐわかるの?」

「そういった情報をまとめてるサイトがあるんだよ。フォレストキャットのネームドモンスターを仲間にするには、テイマーかサマナーがパートナーのみのパーティで挑んで、HPを20%以下にしなくちゃダメみたいだね」

「そうなの。だから、あの人は一人なのね。でも、あのドラゴンしか連れていない理由は何かしら?」

「そこまではわからないよ。ともかく、観戦だね」


 しばらくはプレイヤーさん側が押される展開が続いたけど、ドラゴンが何とかフォレストキャットによる攻撃を防いでいたよ。

 そして、少し時間が経ったら、プレイヤーさんが指示を出した。


「いけ、ドラゴンブレスだ!」

「グガァァァ!」


 プレイヤーさんの指示を受け、ブレスを使うドラゴン。

 炎のブレスはフォレストキャットに直撃して、その姿が見えなくなったよ。


「あれってオーバーキルじゃないの?」

「うーん、そう思えるよ」


 だけど、その予想は簡単に裏切られる。

 炎のブレスの中からフォレストキャットが飛び出してきたよ!

 フォレストキャットは、そのままドラゴンの喉元を切り裂いて、ドラゴンを倒した。

 倒されたドラゴンは、すぐに消え去ったから、あのプレイヤーさんはサマナーかな。

 その様子を見て慌てた様子のプレイヤーさんにフォレストキャットが追撃をかけて、あっという間に倒してしまったよ。


「……随分、呆気ない結末ね。フォレストキャットがブレスに耐えられた理由は何かしら?」

「多分、【対魔法障壁】っていうスキルだね。一定値までの魔法ダメージを無効化するバリアを使えるんだって」

「ドラゴンのブレスがそこまで弱いとは思えないけど……かなり小さかったし、未成長のドラゴンなのかしら」

「ドラゴンはあまり興味がないから、よくわからないよ」


 フォレストキャットの様子を窺うと、既にHPは全回復しており、毛繕いをしていた。

 ネームドモンスターって戦闘終了と同時に完全回復するみたいだね。

 ユエさんのサイト情報だけど。


「さて、それじゃあ、ボクもフォレストキャットに挑んでくるよ」

「え? 大丈夫なの?」

「そうだよ。リーンちゃんじゃ厳しいと思うよ?」

「大丈夫、無策なわけじゃないんだよ。それに、ボクが死に戻りしても、2人はリターンホームで帰ってこれるよね」

「まあ、それもそうだけど」

「それなら問題ないんだよ。それじゃあ、いってくるね」

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