44.ベルの森のモンスター達です
「はあぁぁ!」
セルシアが気合一閃、その斧で猪の頭を思いっきり叩いたよ。
「セルシア、お疲れ様だよ」
「……疲れるほど動いてないけどね。いつからシズクは、そんな小回りの利く魔法を覚えたのかしら?」
「水曜日にだよ。先輩テイマーさんから色々聞いて、スキルカスタマイズで下級魔法を取得したんだよ」
「そうなんだね。戦いやすくてビックリしたよ」
「ボクも本格的な実戦は初めてだから驚いてるよ。こんなに戦いやすくなるのに、強化方針としてはハズレ枠だなんて」
「そうなの? 普通だとどういう風に強化していくの?」
「MPをさらに消費して魔法の威力を上げるスキルと、雷属性の威力を上げるカスタマイズをするんだって」
「……あー、確かに、そっちの方がそのパートナーにはあってる気がするわ」
「そう? シズクちゃんの魔法でここまで楽に進めてきたけど……」
「その、ライトニングシーズー? だっけ? そのパートナーって、一撃必殺の高火力魔法が特徴なんでしょ? だったら、その長所を伸ばす方が最終的には使いやすそうだもの。低火力で燃費のいい魔法は、他のパートナーでいい訳だしね」
「むぅ。ボクはシズクちゃんが相棒だからこれでいいんだよ」
「一般論を言ったまでよ。それに、今現在、シズクの魔法で助かっているのは事実だしね。ワイルドボアがこんなに楽に戦えるとは思ってなかったわ」
「こんなに楽になるなら、初めからリーンちゃんを助っ人に呼んでいればよかったね」
「まったくよ。ここ数日、忙しそうにしてるって話だから見送ってたんだけど……」
「忙しかったのは事実だよ? 家のリフォームをしたり、アントの卵を孵して育成したり、畑を作ったり」
「……まあ、それなら誘っても難しかったかしらね。ともかく、このペースでモンスターを狩れるなら、今日の目標はベルの森最深部の休憩地よ」
「うん、わかった」
「了解だよ」
今の猪――ワイルドボア――との戦闘は、これが始めてじゃないんだよ。
入口付近でエンカウントするようになってから、10匹ちょっとは倒してるね。
その間に、ボクとシズクちゃんのレベルは1上がったしね。
倒し方は簡単。
ワイルドボアに遭遇したら、まずはシズクちゃんがライトニングマインを設置します。
セルシアがトマホークアックスとか挑発技とかで、ワイルドボアの気を惹きつけます。
ワイルドボアは基本的にまっすぐ突進してくるので、ライトニングマインを踏ませます。
すると、HPの大部分を失った上、感電して動きが鈍るので皆でフルボッコにします。
そうすると、ワイルドボアは倒せる。
簡単でしょう?
ワイルドボアは必ず単体で出てくるらしいので、この作戦で楽勝なんだよね。
ジェネラルアントと戦った時に比べて、スズカもセルシアも装備が一新されて強くなってるし、昨日までもベルの森で戦ってたらしいから、ワイルドボアの動きもしっかり理解してるしね。
本当ならワイルドボアって、その突進力がすごくてなかなか足を止められないらしい。
セルシアが普段使う武器は斧だけど、ワイルドボアと戦うために斧よりも小回りが利く剣も用意したんだって。
実際に、昨日まではワイルドボアの突進を何とかセルシアが受け止めて、その隙にスズカが攻撃することで倒していたらしい。
でも、こんなに効率よく倒す事はできなかったらしいね。
「ともかく、シズクが効率のいい魔法を使ってくれるのは助かるわ。MP切れを恐れないで魔法を使ってくれるのは、本当に助かるもの」
「シズクちゃんは元々の魔法攻撃力が高いからね。下級魔法でもそれなり以上の攻撃力があるんだよ」
「そうだね。……あ、またワイルドボア」
「そのようね。リーン、お願いできるかしら」
「任せて。シズクちゃん、ライトニングマインだよ」
「ワン!」
ライトニングマイン、地面に設置するタイプの魔法だよ。
下級魔法としてはそれなりに攻撃力があって、踏ませることができればほぼ確実に感電状態にすることができる。
感電状態って言うのは、動きが鈍くなって物理スキルが使えない状態になる状態異常だって。
ただ、ライトニングマインは、モンスターや仲間の周囲1メートル以内には設置できないし、設置してから60秒で消えちゃう。
だから、ワイルドボアみたいな突進系のモンスターには有効だけど、普通のモンスターには一工夫いるらしいね。
今はワイルドボアとしか戦ってないからあまり関係ないけど。
新しく見つけたワイルドボアを倒したボク達は、森の奥に向けて進んでいくよ。
ベルの森はオープンフィールド型のダンジョンで、森の奥に進んでいく分には道があるから、それに沿っていけば時間はかかるけど森の奥地まで割と楽に進めるらしい。
敵は入口付近、中層部、深層部で出現パターンが変化するんだって。
入口付近はさっきから倒してるワイルドボアや虫系モンスター。
中層部からは、それに加えてゴブリンとかフォレストウルフとか。
深層部に入ってようやく、ボクのお目当てであるフォレストキャットやナイトオウルがでるようになるんだって。
虫系モンスター?
アントとかでっかいハチだけど、見かけたら速攻でシズクちゃんとプリムとシルヴァンをけしかけてるから詳細は知らないよ。
ただ、一度に出てくる数は多いけど、一匹一匹は体力が低いかな。
昨日までは、スズカとセルシアの2人でここに狩りに来ていたらしいけど、入口付近で戦うのが精一杯で奥の方へは進めなかったんだって。
それで今日は、ボクの作業が落ち着いたことを知ってるガイルさんから、ボクのことを誘うように薦められたらしいよ。
少なくとも、ボクがいれば数で襲ってくる虫たちを倒すのは楽になるから、中層部に進むくらいはいけるだろうって言われてたんだってさ。
「そう言えばリーン。ワイルドボアも獣系だけど、テイムはしないの?」
「うーん、ボクの趣味じゃないかな。テイム枠に余裕があるならテイムしてもいいけど、この先も考えるとテイム枠が厳しいから無理なんだよね」
「そうなんだ。テイマーって言うのも大変なのね」
「本当ならスキルを鍛えるためにも、テイムを使っていくべきなんだけど、テイムに成功しても仕方が無いからね」
「リーン、テイムしてから逃がしてあげるのはダメなの?」
「うーん、それも難しいかな。テイムした従魔を減らすには、リリースっていうスキルを使わなくちゃいけないんだよね。だから、すぐには減らせないから難しいかな」
「そうだったんだね。知らなかったよ」
「ボクもテイマーギルドのチュートリアルを受けるまで知らなかったよ」
「そう言うものなのね。それじゃあ、テイムはお目当てのフォレストキャットかナイトオウルがでるまで封印?」
「その予定だよ。フォレストウルフはシルヴァンがいるからいなくてもいいし、ゴブリンをテイムしてもモフモフじゃないし」
「なるほどね。……さて、そろそろ中層部のはずよ。ここからはフォレストウルフが奇襲してくる事もあるから気を引き締めましょう」
「わかりました」
「うん、わかったよ。……あ、でも、シルヴァンが警戒してくれてるみたいだから、奇襲の心配は少ないかも」
「……テイマーってそう言うところが便利なのね」
中層部まで進んだボク達はウルフやゴブリン達との戦闘を繰り広げることになったよ。
もっとも、フォレストウルフの奇襲は、シルヴァンとシズクちゃんが警戒してるから不発だし、ゴブリンにはこちらが先手を取れてたからそれなりに楽だったけどね。
ただ、モンスターのレベル的にはレベル12から13とボクと同じくらいのレベルになったから、楽とは言い切れなかったかも。
……フォレストウルフもゴブリンも、シズクちゃんのライトニングアローで一発だったけど。
深層部はモンスターのレベルが13から15になるらしいので、しばらく中層部で狩りを続けることにしたよ。
少し離れたところでも戦闘音がしてたから、他のパーティが近くで狩りをしてたみたいだね。
そして、フォレストウルフやゴブリン達をしばらく倒し続けて、全員のレベルが14まで上がったら少し休憩を挟んで、いよいよ深層部に移動だよ。
深層部まで来るとかなり森が鬱蒼としてきて、日の光も届きにくくなってきた。
ただ、出発時間がちょうどゲーム内時間で朝だったから、まだしばらくは夜になる心配はないけどね。
……でも、夜にならないとナイトオウルは出てきてくれないんだよね。
深層部に進んだボク達を待っていたのはフォレストキャットによる洗礼だったよ。
木々の間や木の上を自由に跳ね回りながら、三次元的な挙動で襲いかかってくるフォレストキャットはかなり手強かった。
盾役のセルシアは何回かクリティカルをもらって、瀕死になったしね。
本当は捕まえたかったけど、最初の一匹はサンダーボルトでドーンして倒してしまったよ。
「……話には聞いていたけど、フォレストキャットって厄介ね」
「そうだね。あんなに素早く動かれるとなかなか攻撃できないよ」
「体が小さいのも問題よね。……リーン、あれをテイムするの?」
「できればテイムしたいけど、無理そうなら今日は諦めるよ。また今度来ればいいしね」
「……それなら今日のところは諦めてもらえるかしら。チャンスがあったらテイムを試してもらってもいいけど、流石に意図的に動きを封じる余裕は無いわ」
「ゴメンね、リーン。せっかく付き合ってもらったのに」
「気にしなくてもいいんだよ。ボクもどんな感じかはみてみたかったからね」
それからは3人と3匹で周囲を警戒しながら最深部まで進んでいったよ。
途中、何度もフォレストキャットに襲われたから、かなり戦い慣れたけどね。
一度だけ瀕死にすることができたから、バインドウィップで捕まえてテイムを試してみたけど、テイムできなかったよ。
ちなみに、バインドウィップが当たったのはシステムアシストのおかげです。
【従魔術】と【使役】のスキルレベルは順調に上がっているけど、自分と同格のモンスターだとなかなか捕まえられないね。
そして、深層部をしばらく進み続けると、森が開けた広場みたいな場所に着いたよ。
湖もあるし、休憩には良さそうな場所だね。
よく見ると女神像もあるし、ここが目的地かな?
「ここが目的地のベルの森の休憩地ね。それじゃあ、女神像を登録して少し休みましょうか」
「わかりました」
「賛成だよ。流石に疲れたからね」
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