8.お姉さんは先輩テイマーでした!

「お姉さん、ボクに何か用事ですか? ボクは早く街の外に行って、モフモフをテイムしたいのですが」

「そんなに慌てて行かなくても大丈夫よ。モンスターは沢山いるんだし、逃げたりしないから」

「むむ、確かにそうですが。……それで、お姉さんの用事はなんでしょうか?」


 ボクがテイマーギルドから出てくるなり声をかけてくるとは怪しい人だよね。

 ……服装も豪華ですし、顔も綺麗ですがボクはだまされませんよ。


「んー、私としては後輩テイマー君に少し指導をしてあげようと思っていたところなんだけどね。ほら、あなたの連れてるパートナーってライトニングシーズーじゃない? 序盤は絶対に苦労することになるから」

「ボクは好きでこの子を選んだので問題ないです。ご用件がそれだけなら、ボクはもう行きたいのですが」

「まあまあ、落ち着いて。別にライトニングシーズーをバカにしている訳じゃないのよ? ただライトニングシーズーって、序盤の敵だと一撃で倒してしまう高火力魔法か、あまり高くない物理攻撃に頼るかの二択だから、次のモンスターのテイムですら厳しいのよ」

「チュートリアルで戦ったゴブリンルーキーは攻撃2回で倒せてましたよ?」

「ゴブリンルーキーってダメージに関係なく、クリーンヒットが2回当たると倒せる仕様になっているのよ。だから攻撃力が低くても問題になることがないのよね……」

「なんと。そうだったのですか」


 それは初耳です。

 シズクちゃんの物理攻撃力がそれなりにあったわけじゃないんだね。


「そう言う訳だから、最初にライトニングシーズーを選ぶと次のモンスターのテイムまで結構苦労することになっちゃうのよ。だから、基本的な手ほどきをしてあげようかなって思ったところなの」

「……ボクにそんな事をしても、お姉さんにはあまり意味がありませんよね。どうしてそんな事をしてくれるんです?」

「一言で言ってしまうと、最近のプレイヤーってテイマーを選ぶ人はごく少数なのよ。テイマーの利点は最初から強力な課金パートナーを連れ歩けることだけど、それだってレベル10までくらいの利点にしかならないのよね。その後は、色々な召喚獣を使い分けられるサマナーの方が強くなっちゃうわけで……。だから、テイマーで始めようって子はとっても貴重なの」


 なるほど、攻略サイトでサマナーの方がお薦めされていたのはそう言う訳だったのか。

 確かに色々なパートナーを使い分けられるなら、サマナーの方がきっと強いよね。


「ボクにとっては強くなることより、カワイイモフモフ達と一緒にいられれば、それで十分なんだけど」

「そうなのね。それは『草原の朝』と話が合いそうだわ」

「『草原の朝』ですか?」

「ええ、そう。あなたみたいなパートナーとふれあいたいプレイヤーが集まって作ったギルドね」

「テイマーギルド以外にもそんなギルドがあるのですか?」

「ああ、そこからなのね。『ギルド』って言うのは職業ごとに登録して利用する施設もあるけど、プレイヤー達が結成した仲間の集まりを指して言うのもあるの。『草原の朝』は後者の方ね」


 ほほう、ボク以外にもモフモフを堪能したいプレイヤー達の集まりがあるんだね。

 それは是非とも参加したいところですよ!


「なるほどです。それで、お姉さんはその『草原の朝』の人なんですか?」

「私? 私は違うわ。私が所属しているギルドは『瑠璃色の風』って言うギルドなの。主な活動内容は、今だと初心者支援がメインかな?」


 初心者支援ですか。

 何となく大変そうな内容ですね。


「それで初心者支援ギルドの人がボクになんの用事でしょう?」

「うーん、さっきも言ったけど、序盤だけでも手伝ってあげようと思って。せっかくのテイマー仲間なんだし、手助けしてあげたいなって思ったのよ。もし必要ないって言うならそれはそれで断ってくれても構わないんだけど、どうかな?」


 うーん、支援ですか。

 確かに、お姉さんの言葉が本当でしたら、次のパートナーを捕まえるのも苦労することになりそうなんだけど……


「うーん、どうしましょうか。……そう言えば、お姉さん、ボクのことを後輩テイマー君と呼んでいましたが、お姉さんもテイマーなんですか?」

「ええ、そうよ。そう言えば名乗っていなかったわね。私の名前はユーリ=ハイフィールよ。ユーリで構わないわ」

「それではユーリさんと。ボクの名前はリーン=プレイバードです。リーンって呼んでください」

「わかったわ。それで、リーン君。お手伝いしてあげたいんだけど、どう?」

「そうですね……悪い話ではないと思うんだけど、ユーリさんは本当にテイマーなの?」

「まずはそこからなのね。……はい、これが私のギルドカードよ。一番最初がテイマーギルドの証の水色になっているでしょう? どのプレイヤーでも最初に登録できるギルドは自分の職業ギルドだけだから、私はテイマーって言うことになるのよ」


 ユーリさんの言うとおり、ギルドカードの一番初めは水色のギルドランクになっているよ。

 でも、中に記載されているギルドランクがものすごいことになってるんだけど……


「ギルドランクが『B-25』ってなってますけど、ユーリさんってとっても強い?」

「うーん、最近はランキング戦から足を洗ってるから、どの程度強いかはわからないけど……。とりあえずレベルだけなら168あるわ。ちなみに、今のカンストレベルは170ね」


 おうふ、想像以上に上級者プレイヤーだったよ。

 でも、初心者支援か……

 してもらった方が楽なんだろうけど、そこまでがっついてプレイするつもりもないんだよね。


 あ、でも、上級者の連れている従魔には興味があるかも。

 レベルもカンスト間近みたいだし、究極的にはどんなパートナーが仲間になるのかだけでも聞いてみようかな。


「ええと、ユーリさんはどんな子をパートナーにしてるんですか?」

「私のパートナーに興味があるの? それじゃあ、少しだけだけど見せてあげるね。コール、リンド」


 ユーリさんがコールを使ってパートナーを呼び出すと、ユーリさんの前に3メートルくらいのドラゴンが現れましたよ。

 ……でもドラゴンかぁ。


「この子が今のメインアタッカーを務めている、エンシェントテンペストドラゴンのリンドね。……あら? ドラゴンは苦手かしら」

「苦手という事も無いのですが。ボクはモフモフを所望します」

「そう言えばさっきから何度もモフモフって言ってたわね。……わかったわ、次はモフモフ系のすごい子を呼び出すわね。リターン、リンド」


 モフモフ系のすごい子ですか。

 それなら興味がありますよ!


「じゃあ、呼び出すわね。コール、エメラルダ」


 次に呼び出されたのは、なんと先程のドラゴンと同じくらいのサイズまで育ったグリフォンですよ!

 ボクが買おうか悩んだグリフォンが、それも乗れそうなくらい大きな子が目の前にいますよ!


「この子が、カイザーテンペストグリフォンのエメラルダね。……なんだか目つきが真剣になってるんだけど、どうかした?」

「ユーリさん! この子に触ってみてもいいですか!?」

「……先程までとは食いつきが全然違うわね。……少しだけなら触っても大丈夫よ」


 少しだけですか、それは残念だよ。

 でも、許可もいただけたしモフモフしてみましょう!

 あ、エメラルダ君? ちゃん? が触りやすいように伏せてくれましたよ。


 うーん、このなめらかな肌触り、たまりませんね。

 あと、翼の部分に生えている羽もとっても綺麗で触ってみると見た目に反してとっても柔らかいです。


「……なんというか、本当にモフモフが好きなのね」

「何を言っているんですか。モフモフこそが最強ではないですか」

「そこまでとは思わないけど……それで、私のサポート受けてみる?」


 こんなカワイイモフモフを連れている人なら悪い人ではないでしょう。

 ……え、思考回路が単純ですって?

 いいんですよ、このゲームはPKとかできませんし、危ないことになりそうだったらGMコールで逃げればいいんですから。

 ……昔やってたMMOでは何回かお世話になりましたからね、GMコール。


「わかりました。サポートをよろしくお願いします」

「わかったわ。それじゃあ、とりあえずよろしくね、リーン君」

「はい、よろしくお願いします。……それでは早速、街の外に行きたいのですが」

「ああ、待って。せっかくサポートしてあげるんだし、装備とかもプレゼントしてあげるわ」

「……流石にそこまでしていただかなくてもいいのですが」

「気にしないで。私達が声をかけた相手には大体してあげる事だから。それに、初心者用の装備なんて私達なら1回のクエストで数セット作れるくらいの収入があるからね」

「……わかりました。それではお言葉に甘えさせていただきます」

「それじゃあ決定ね。まずは私達のギルドハウスに向かいましょう。そこで初心者向けのもうちょっと良い装備をプレゼントしてあげるわ。リーン君、私についてきてね」

「はい、わかりました。……あと、ボクは男じゃなくて女ですよ?」

「ええ!? そうだったの? つい男の子だとばっかり」

「……気にしなくていいですよ、確かに男と見間違うような体型ですからね……」


 胸はTシャツの上からだとわからないくらいしかないし、ヒップだって小さいですからね。

 男の子に間違えられるのは慣れていますよ、ええ……

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