9.突撃『瑠璃色の風』ですよ!

「リーンちゃん、ここが私達『瑠璃色の風』の本拠地、ギルドハウスよ」

「おー、予想以上に立派な建物ですね」


 案内されたのは、アインスベルの大通りから一本裏路地に入った場所でした。

 そこにででんと、3階建ての建物があって、そこが『瑠璃色の風』の本拠地なんだって。


「とりあえず、リーンちゃんにはゲスト権限を渡しておくから、ギルドハウスに出入り出来るようにしたわ」

「おお、お気遣いいただきありがとうございます」

「いえいえ。ギルドハウスに招待したのに入れないとか意味がないじゃない」


 確かにそれもそうですね。

 ユーリさんが先にギルドハウスに入っていきましたので、ボクも遅れないように着いて行ったよ。


 ギルドハウスの中は割と閑散としていて、そんなに人がいなさそう。


「ユーリさん、『瑠璃色の風』って所属人数が少ないのですか?」

「うーん、現状所属員数が多いとは間違っても言えないわね。アクティブな古参メンバーだと10人くらいかしら」


 これは思った以上に人手不足だったみたい。

 ホイホイついてきてしまいましたが、大丈夫かな?


「……うん、とりあえず紹介したいメンバーはログインしているみたい。ちょっと呼んでくるから、あそこの応接室で待っててね」

「わかりました。でも、ボクは何かモフモフがいてくれると嬉しいです」

「本当にモフモフが大好きなのね。とりあえずわかったわ、コール、アンバー」


 今回呼び出されたのは、手のひらに乗るサイズのハムスターでした。

 普通の鼠は苦手ですが、ハムスターならバッチこいですよ!


「アンバー、この子のことをよろしくお願いね。リーンちゃん、アンバーは人懐っこい性格だから十分にモフモフしても大丈夫よ」

「わかりました。それではアンバーと大人しく待たせてもらいますね。……さあ、来るのですよアンバー」


 しゃがんで手を差し伸べると、そこに乗っかってくれるアンバー。

 くぅ、これだけでも十分にカワイイじゃないですか!


「それじゃあ、少し待っててね。すぐに他のメンバーも集めてくるから」


 ユーリさんはギルドの2階の方へと駆け足で登っていきました。

 きっと2階に残りのメンバーさんがいるのでしょう。

 そんな事より、応接室に入ってアンバーと楽しく遊ばなくては!


 シズクと一緒にアンバーとじゃれあうこと10分ほど。

 応接室の扉がノックされて、ユーリさんを始め、男の人と女の人が1人ずつ入室してきましたよ。


「へえ、この子がユーリが拾ってきた新人ちゃんか。テイマーでライトニングシーズーを選ぶプレイヤーなんて久しぶりに見たぜ」

「ガイル、言い方。テイマーやサマナーが何をパートナーに選ぶかは個人の自由」

「ハイハイわかってますよ。……さて自己紹介をしなくちゃだよな。俺はガイル=ブレード。両手剣を使う物理アタッカーだ。ついでに鍛冶士もやってるぜ」

「シリル=ソーイング。戦闘では後衛の魔道士。でも、専門は服関係の装備生産がメイン」

「ガイルさんにシリルさんですね。リーン=プレイバードです、よろしくお願いいたします」

「……思ったより礼儀正しい子。最近だと珍しいかも」

「だな。最近のプレイヤーは礼儀知らずが多いからな」

「そうなんだ。ボクも気をつけなきゃ」

「ま、気をつけるに越したことはないわな。まあ、悪い奴ばかりじゃないからあまり気を使いすぎるのもあれだしな」


 確かに、常に気を張り詰めていたら疲れちゃうよね。

 何事も程々にしておかなくちゃ。


「さて、ユーリのヤツが連れてきたって事は、やっぱりサポートが必要って事でいいんだな?」

「うーん、最初は自分の力で試してみたいというのもあるのですが」

「でも、お前さんの連れてるパートナーはライトニングシーズーだろ? 序盤じゃオーバーキルか、微妙な物理攻撃しかできないから、次のモンスターをテイムすることもキツいぜ?」

「やっぱりそうですか。でも自分で選んだ道だし、頑張ってモフモフ王国を作って見せます」

「その心意気はいい。それなら、私から少しばかりプレゼントをしてあげる」

「プレゼントですか。でも、お金は1,000Gしかないので代金を支払うことが出来ないのですけど」

「初心者はそんな遠慮をしなくてもいい。どうせ、買いそろえても全部で4,000Gもあれば買いそろえられる装備品だから」

「……それなら、お言葉に甘えてさせてもらいます。……えっと、どうすればいいですか?」

「はい、これがあなたにプレゼントする装備。アイテムを受け取ったらインベントリに入るからそこから装備する」

「はい、わかりました。……なんだか装備がいっぱいですけど、こんなにもらって大丈夫です?」

「これは『若草シリーズ』って言って初心者御用達の装備セット。防御力もそれなり以上にあるから、存分に使って」

「わかりました、ありがとうございますね」


 渡された『若草シリーズ』の装備は、白色のブラウスに薄い緑色のキュロットスカート、動きやすそうなシューズにトレッキング帽、それから同じく薄い緑色のローブ、最後に指貫グローブがついてるけど……これだけ、『若草シリーズ』じゃないよね?


「ええと、この指貫グローブは?」

「鞭使いのようだから、滑り止め加工をしたグローブがいいだろうと思って」


 なるほど、ボクの腰に鞭がついているので、鞭を使う上での便利さを追求してくれたのですね。


「ありがとうございました。では早速、着てみます」


 このゲームは普通に着替えることもできるけど、インベントリから直接装備することで一瞬で装備を変えることができる。

 ガイルさんもいるしパパッと着替えちゃおう。


「おお、なかなか似合ってるじゃないか。結構可愛らしいぜ」

「そうね。やっぱり女の子なんだから、あの野暮ったいTシャツと短パンはいただけないわよね」


 シリルさんがどこからともなく取り出してくれた姿見で、自分の服装をチェックする。

 ……うん、なかなか似合ってるんじゃないかな。

 そして、何気なく防御力を確認してみると、全部でDEF+12もあったよ。

 初心者装備だと全身で+3にしかならないから、実に4倍だね!

 それに装備ボーナスとしてDEXが少しだけアップしたし、なかなか優秀な装備なんじゃないかな。


「さて、俺からも武器をプレゼントしたいところだが……まず、リーンって呼んでいいか?」

「はい、構いませんよ。それで、鞭を使うことに何か問題があるんですか?」

「ああ、俺の方にも敬語はいらないぜ。それで、質問なんだが、なんで鞭なんて使いにくい装備を選んだんだ?」

「えっと、攻略サイトに『テイムの成功率が上昇する』って書いてあったから……」

「それってどこのサイトだよ……。その話は検証班の連中が調べて『ほとんど意味はなし、あったとしても誤差』って結論が何年か前に出てるのによ」

「そうなの!? それじゃあ、鞭にこだわる理由ってないんだ……」

「あー、前衛にも後衛にも微妙なテイマーが中距離から攻撃する手段としては、鞭も有効だぞ? 慣れるまで時間はかかるが。後は接近されたときにどうしても弱くなっちまうところかね」

「うーん、それじゃあ、別の武器で鍛え直した方がいいの?」

「そうだな、近接戦闘ができる武器も護身用としてもっておいた方がいい。……そんなリーンにお薦めの装備があるんだが、興味はないか?」

「お薦めの装備? どんなの?」

蛇腹剣じゃばらけんと言ってな、普段は片手剣なんだが、ギミックを作動させると鞭になる優れものだ」


 なんと!? そんな便利な武器があるのか!


「……まったく、ガイルはまたロマン武器を新人に薦めて……。リーンちゃん、蛇腹剣だけどガイルが言うほど便利な武器じゃないのよ? 確かに片手剣と鞭の両方の特徴を持つけど、使うタイミングの見極めとか結構大変なんだから」


 ロマン武器だったのか……

 でも、少しだけ使ってみたいかも!


「えっと、お試しという事で使ってみてもいいかな?」

「お、そう来なくっちゃ。それじゃ、これが蛇腹剣だ。剣モードと鞭モードを切り替えるには、魔力を込めてやれば切り替えられるから。早速だが中庭に行って試してみようぜ」


 ガイルさんに手を引かれて、ボクは中庭へと連れてこられたよ。

 ユーリさんも一緒に中庭についてきてくれた。

 シリルさんは生産活動をするからって、自分の部屋に戻っていったよ。


 中庭には練習用と思える的が用意されていて、まずは鞭モードで攻撃してみる。

 鞭モードだとなんと5メートルまで伸びるらしく、かなり距離を取りながら攻撃できたよ。

 ……まあ、ボクの運動神経だと、3回に1回ぐらいしか当たらなかったけどね。


 ガイルさんは鞭スキルがレベルアップすれば補正も強くなるって言うし、そっちに期待するよ。


 剣モードでの攻撃は……うん、剣で切っているって言うよりは殴りつけてる感じかな。

 こっちは剣スキルを持ってないからしょうがないんだろうけど、剣スキル取らなきゃダメかなぁ。


「とりあえず、使えないこともなさそうだな。その武器も持っていっていいぞ」

「本当? ありがとう、ガイルさん」

「おう、気にするなって。蛇腹剣を作る最中の練習品の1つだからよ」


 通りで武器の名前が『蛇腹剣・試作6型』になってるはずだよ。

 でも、攻撃力は10もあって初心者の鞭の10倍もある。

 これならシズクちゃんの攻撃に頼らなくても、良さそうだね。


「さて、それじゃあ、あなたの目的であるモフモフを仲間にするためにフィールドに出かけましょうか」

「モフモフ? ああ、新しいパートナーって訳か。ソロのテイマーは、まずパートナーを3匹手に入れることからスタートだからな。暇だし俺も付き合うぜ」

「えっと、そこまで甘えてしまって大丈夫?」

「気にすんな。俺達も暇を持て余してたところだからな」

「そう言う訳だから行きましょう。……ただ、もう少しで夜時間になっちゃうけど」


 夜時間になると何か困ることでもあるのかな?

 ともかく、まずはフィールドに行ってみないといけないし、一緒にいてくれるなら心強いからお願いしよう。


「ボクは夜時間でも構いませんよ。よろしくお願いしますね」

「ああ、わかった。それじゃ、行くとするか」


 ユーリさんとガイルさん、2人と一緒に街の外に向かうよ。

 さあ、ファーラビットちゃん、待っててね!

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