第一章 21 『チョロい、飛鳥の心』


 黄色い悲鳴を聞きながらその場を去った飛鳥と周。そのまま手を繋いで帰路に着いた。


「ね、ねぇ、なんであんなことわざわざ言ったの?」


「ん?なんか悪いこと言ったっけ?」


「だ、だって、周がわざわざファンクラブの人たちに言わなくても、心が私に手を出さないように言ってくれてたんでしょ?」


「あー……なるほど?」


 周は飛鳥の言葉に一瞬不思議そうな顔をしたが、次の瞬間にはすべてを理解したようだった。


「そうそう。心が言ってくれたらしいね。でもさ、やっぱり俺の口からちゃんと言うことにも意味があるっていうか、そうでもしないと納得できないところってあると思うんだよね。」


「でも、逆に荒れちゃったりってことは…?」


「それはないかな。伊達に彼女たちに対して今まで丁寧に接してきてないよ。」


 そういって周は微笑む。

周は基本的にファンクラブの人を無下にしたりしない。挨拶は自分からするし、プレゼントも受け取らないことはない。ファンクラブの会員全員の名前を覚えている上に、その人がなんの部活に入っているのか、どのような趣味嗜好があるのかすら把握している。


 せっかく自分に好意を向けてくれているのだから、それに応えたいという思い。当然起きるであろう女子同士の争いの回避。色々なことを考えた上での行動であった。



「なんか周ってすごいね…」


「なに?突然そんなこと言ったりして。」


「いや、だって普通あぁいうのってうざくなったりしないの?疲れない?」


「んー、………もう慣れたかな?」


 少し間が開いた後にされた返事。周はそういった後にどこか遠くを見るような目をしていた。

飛鳥はそれ以上聞いてはいけない気がして、話題を変えることにした。



「あ!そ、そうだ!明日は部活紹介あるんだよね!私まだ何に入るか決めてなくってさ!周は部活入ってるの!?」


 露骨な話題転換に周は思わず笑みがこぼれる。深く飛鳥が追及してこないことに安堵しながら質問に答える。


「言ってなかったっけ?俺バドミントン部の部長だよ。」


「え!?生徒会長やってるのに、部長までやってんの!?」


(どんだけハイスペックなんだ……いや、頼もだったか。)


 飛鳥は周が完璧すぎると思ったが、自分の幼馴染も同じだったことに気付く。

高校時代、頼の近くにいたくて入った生徒会と部活。頼は生徒会長をしながら部長もしていたわけだが、飛鳥も実は生徒会副会長をしながら副部長をしていた。周りからみればどちらもすごいのだが、飛鳥は頼よりも自分の方が立場が下だからという理由で自分のスペックの高さを理解していなかった。


ちなみに、そのとき2人が入っていたのもバドミントン部だ。飛鳥がかっこいいと考える男性像が基本的に頼であるため、周の部活がバドミントン部になるのも必然というものだった。



「じゃあ、部活紹介でも喋るんだ?」


「いや、俺じゃなくて副部長が説明係。俺は実技担当。そこそこおもしろいもん見せれるかな。」


 何をやるかの詳しい説明まではしてくれなかったが、「楽しみにしてて」という周の顔は悪戯を考えている悪ガキそのものだった。






ーーーーーーーーーーーーーーー





「はーーーー!家に着いた!1日が長い!」


 現実の時間に換算すると3時間半くらいしか経っていないわけだが、飛鳥の体感時間としては本当に丸1日学校に行ってきたようなものなのだ。

それに加えて、ルナだと宣言されたものだから、話しかけてまではこないものの、周りからの視線はビシビシと飛鳥に集まっていたのだ。

疲れないわけがなかった。


「本当にTrue Dalingって中身が濃いよね…。私チョロいから簡単に周に恋しちゃうよ…。これだから乙女ゲーはやめられない…。」


 ベッドにダイブして突っ伏しながら、飛鳥は今日起きたことを頭の中で整理する。


(心との10番勝負がメインイベントってところかなぁ。後は他のキャラクターのイベントがあるって感じ?でもまぁ、そういうことなら宿泊研修までは特に何もないのかなぁ?まだよくわかんないや。)


 そして、一応新しい指示が来ていないかの確認のため指示書を開く。しかし、下校前に見た時と特に変わりはなかった。


(一旦ログアウトして、後で次の日かな?さすがに部活紹介はイベントとして見れるよね。周も「楽しみにしてて」って言ってたし。)


 そう考えた飛鳥は一度ログアウトして、休憩することにした。




ーーーーーーーーーーーーーーー




 飛鳥がゲームからログアウトするとすでに夜の12時を回っていた。次回ログインまでの時間を確認すると約4時間半後、つまり朝の4時半くらいにはログインできるわけだ。

飛鳥はいち早く続きが見たいので、今日はもうそのまま寝て早起きすることにした。ゲームのためならば生活リズムを変える、それが飛鳥のやり方だ。


 しかし、そのまま寝てしまったせいで、机の上に置かれた母親からの伝言に気づくのは翌朝になるのであった。




ーーーーーーーーーーーーーーー




ピピピピッ ピピピピッ


「よしっ!起きたっ!True Dalingやる!」


 朝3時40分。目覚ましが鳴り響き飛鳥は起床。ひとまず何か腹に入れるためキッチンへと向かう。まだこんな時間ということもあって誰も起きておらず静かである。そして、冷蔵庫に残されていた昨日の晩飯の残りを食べることにした。

 飛鳥がゲームにハマると食事の時間に降りてこないことはざらにあるので、母親もそっとしておいてくれるようになった。(さすがに元気がなくなってくると無理やり食べさせに来るが。)

飛鳥は理解のある両親に感謝していた。


 食事も済ませ、自分の部屋に戻ってくるとなにやら机の上に大きさの違う紙が3枚置かれていた。

1枚は母親からの伝言が書いてあった。


『たまたま映画のチケットが2枚当たってたの忘れてた!おいしいサンドイッチのお礼に頼くん誘って行っておいでー。P.S.期限が今週中までなのは勘弁ね』


「えっ!?すご!お母さんまた懸賞かなんかしたのかな…。頼仕事忙しいだろうしなぁ。そんな急に言って時間あるかなぁ…………でも、ほら、一応ね?一応。お母さんに名指しで誘えって言われてるわけだし。」


 誰に言い訳しているのか自分でもよくわからないまま、携帯を開き頼に誘いのメールをする。


 すると、こんな時間だというのにすぐに返信が返ってきた。本当に頼の返信はいつでも早い。


『行く。でも、明日くらいしか空いてる時間が無い…。明日じゃダメ?』


「~~~~~~っっ!!!!!!」


 OKをもらえたことに嬉しすぎて枕を必死に叩く飛鳥。一度落ち着いてからもう一度文章を読み返して、また悶える。

そんなことを繰り返しすること早10回。そこで飛鳥はやっと早急に判断を求められていることに気づく。


「明日!?えっ、いくらなんでも急過ぎない!?でもでも、明日しか行けないっていうし……行くしか、ないか?いや、でも、心の準備が……」


 悩みに悩んでいるうちに4時半まで残り3分になってしまった。飛鳥は心を決める。


「ええい!ままよ!」


 明日行くことを頼に伝え、飛鳥は恥ずかしさで死にそうになりながら、今はTrue Dalingに逃げようとログインするのであった。



=================


そのころの頼くん


「……うぅん……誰だ……この音は飛鳥から?でも、こんな時間にメール?………って、飛鳥からデートのお誘いきた!?おばさんGJ!!え、でも待って、俺今週暇なときある!?………明日!明日ならいける!でも、明日なんていくらなんでも急すぎるか?………頼む!飛鳥!明日でもいいって言ってくれ!」


ーーー数分後ーーー


「来た!………っしゃあああ!!明日は飛鳥とデート!!今日全力で今の仕事終わらせれば行ける!今の俺は無敵だ!!ハッハッハッハッ!!」


その日、めちゃくちゃ仕事した。


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