第一章 20 『飛鳥と心、10番勝負』
☆お知らせ☆
次話→6/20公開予定です。
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「それで?具体的にはどうやって認めさせてくれるんですの?」
飛鳥の宣言を聞いた心は、飛鳥を試すような目で見つめてくる。やれるものならやってみろと暗に言っているようだ。
「えっと…それは……」
「もしかして、全くノープランでしたの?」
「……はい。」
行き当たりばったりな飛鳥にきちんとしたプランがあるはずがなかった。そんな飛鳥を見て、心は絶句する。
「本当に認めさせる気があるんですの!?」
「そ、それについては本当に申し訳なく…ッ!」
「はぁ…、仕方ありませんわね。それでは、こうしましょう。」
そういって、心が出してきたのは年間行事スケジュール表だった。
「これが何かはわかりますよね?」
「それはさすがに。年間行事表だよね。今日配られたばっかりの。」
「そうですわ。ここには、月ごとに何のイベントがあるか書かれていますわ。この学校では、大体1ヶ月に1回大きなイベントがありますの。5月であれば文化祭、9月であれば球技大会といったようにね。」
心にそう言われ年間行事表を見てみれば、確かに各月にイベントが書かれていた。詳しい内容はわからないものの、イベント的には一般的に聞くものばかりだ。
「8月は夏休みだから置いておくとして、他の4月から2月まで、毎月のイベントで飛鳥にお題を出しますわ。それを全てクリアすることができれば、私は飛鳥をルナと認めて周様から身を引きますわ。」
「ちゃんと祝福してくれるってこと?本当に?」
「私は嘘はつきませんわ。ただし、1回でもクリアできなければ絶対に認めませんし、周様を飛鳥から奪ってみせますわ。」
「わかった。要するに1年かけた10番勝負ってことね。その勝負、受けて立つ!」
飛鳥は握りこぶしを上にあげて、やる気を見せる。その様子を見て、心はため息をついた。
「わかってますの?こちらからお題を出すのですから、そう簡単なものはだしませんわよ?なんでそんなに迷いがないんですの?そもそもこの勝負は、飛鳥に受けるメリットなんてないんですのよ?」
「心配してくれるんだ?案外心っていい人だね。」
飛鳥は心に向かって、『ニッ』と笑ってみせる。
「だって、ルナってそれほど大事な役目を持ってるんでしょ?私だって、全校生徒に簡単に認められるとは思ってないし、今の私じゃ周の隣にはふさわしくないとも思ってる。」
「だったら…っ!」
心は、飛鳥の弱音を聞いて、(だったら自分に譲ってよ!)と叫ぼうとする。しかし、それを遮ったのは、飛鳥の凛とした声だった。
「それでも、私は周の隣にいたいと思うから。少しでも周にふさわしい女性になりたいと思う。そのためには、絶対心に認められなきゃいけない気がするの。心に認められたら、本当の意味で周のルナになれると思うんだ。」
その迷いがない飛鳥の顔を見て、心は思わず目をそらす。
「お人好しですわ…」
ぼそっと呟いた心の声は、飛鳥に届くことはない。
「わかりましたわ!そこまでおっしゃるのなら、徹底的に見極めさせてもらいますわ!覚悟してらっしゃい!まずは、来週の宿泊研修ですわね!楽しみにしておきますわ!」
お題は後日伝えると言って、心は帰って行ってしまった。ファンクラブの部屋に残された飛鳥も、ここにいても仕方ないので帰ることにした。
「お疲れ様。俺のルナ。」
飛鳥が奥の部屋を出ると、隣の部屋にいたのはなんとニコニコとした周だった。
「なっ!?なんで周がここにいるのよ!?」
「え?だってファンクラブの部屋は生徒会長室から見れるようになっててさー。なんか面白そうなことが起きてたから、ここで聞いてたってわけ。」
「ど、どこからきいて…」
「んー、『心、私はあなたに心の底からルナだって、周にふさわしい女性だって、絶対認めさせてみせる。』ってとこかな。」
周は飛鳥の真似をしながら言い切る。その顔はずっとにやにやとしている。
「ほ、ほぼ始めじゃん…」
「いいものみせてもらったよ、ありがとう。」
「そんな王子スマイル見せられてもうれしくないです…」
「でも、そうかー。飛鳥は俺のことそんなに好きになってくれてたかぁ。」
「ちっ、ちがうよ!仮にもルナになるんだったらあれくらいしないとかなって思っただけで!心に貸しを作ったままなのもどうかなって思ってたし!」
「はいはい。そういうことにしといてあげる。じゃあ、帰ろっか。」
周はからかいながらも、スッと飛鳥に手を差し出す。
「も、もしかして、私が帰るの待っててくれたの?なーんて…」
「当たり前でしょ?彼女なんだから。」
否定されると思っていたら、あまりにも当然のようにそんなことを周が言ってくるものだから、飛鳥は思わず赤面してしまう。その顔を見られたくなくて、周の手を取らずに走り出す。
「ちょ、ちょっと待ってて!トイレ行ってくるから!」
「そう?じゃあ、下駄箱のとこで待ってるよ。」
飛鳥はとりあえず自分のしたこと、周がしてくれたこと全部を思い出して、恥ずかしすぎてこの場から早く立ち去りたかった。
「あーもう、飛鳥かわいいなぁ…」
そんな飛鳥の後ろ姿を見ながら周がつぶやいた言葉は、飛鳥に届くことはなかった。
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飛鳥がトイレから出てくるのには10分くらいかかった。決して用を足していたわけではなく、顔の火照りが冷めるのを待っていたのと、次の指示が出ていないか確認していたためだ。
鞄に入れていた指示書を見てみたが、新しい指示が出ていることはなかった。なお、前回の指示の場所には「達成!!」と書かれたハンコが押されていた。飛鳥の行動は間違ってはいなかったようだ。
そして、指定された通り下駄箱の場所までやってきたのだが、なにやら人だかりができていた。集まる人々の視線の先にいたのは、周だった。
下駄箱近くの壁に寄りかかりながら本を読む姿は、飛鳥から見ても絵になっていた。集まっていた人々はどうやら周ファンクラブの会員のみなさまらしかった。
飛鳥は、そんな中で周に声をかけるのがためらわれたが、躊躇しているうちに先に周が飛鳥の存在に気付いた。
「飛鳥、もういいの?」
「う、うん!大丈夫!」
突然声をかけられて挙動不審になる飛鳥。それをみて、周はくすくすと笑う。
ファンクラブのみなさまは、周の笑顔を見れて幸せ半分、飛鳥が来て嫉妬半分といったところだ。しかし、心の言いつけ通り邪魔してこないあたりさすがの統率力である。
「じゃあ、帰ろうか。」
そういって自然に差し出される手に飛鳥は未だに慣れなかった。しかし、周にはそれを拒否させないオーラがあったため、飛鳥はおずおずと手を握る。
「あ。」
帰ろうと歩き出した瞬間、周が突然立ち止まり振り返ったかと思うと、
「みなさん、今日も1日お疲れ様でした。飛鳥のことどうかよろしくお願いします。みなさんのこと、信じてますから。」
と、ファンクラブのみなさまに向けて、キラースマイルを放ったのだった。
当然のようにその場には黄色い悲鳴が上がったのだった。
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