第一章 19 『飛鳥、宣戦布告』
☆お知らせ☆
次話→3/14公開予定です。
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「ねぇちょっと!一体なにがどうなってこうなったの?」
飛鳥は、結局授業開始ギリギリの時間で教室に入ることに成功した。そのため、大勢から質問攻めに合うということはなかった。
しかし、後ろの席の夏菜からは逃れることはできなかった。
「いや、ぶっちゃけ私にもなにがなんだか…。気づいたらこうなってたというかなんというか…」
「そんな成り行きでルナになるなんてことある!?やっぱり飛鳥はすごいね!?」
「夏菜はルナのこと知ってたんだ?」
「いや、むしろなんで知らないの。ルナといえば、学園の華!1番の有力候補は早乙女さんだと思ってたけど、まさか飛鳥がねぇ。私は友人として鼻が高いよっ!」
「早乙女さんって、早乙女心さんのこと?」
「そうそう。愛月周ファンクラブ会長にして幼なじみ。それに加えて、あの容姿と上品さ。ルナにぴったりって言ってる人多かったんだから。飛鳥はこれから大変かもねぇ。」
「やっぱそう、だよね…」
「コラそこっ!ちゃんと俺の話を聞きやがれ!」
「「すみませーん。」」
HR中だった為、鬼神から注意が入り、夏菜が話しかけてくることもなくなった。
一人で考え事に集中できるようになった飛鳥は、これから自分の学園生活がどのようになっていくのかを考えていた。
まず、この状況だと、少女漫画や乙女ゲーの王道展開的に、ファンクラブの何人かに絡まれるのは必須事項だろう。(すでに会長に絡まれているのは別にして。)
そして、生徒会役員としての仕事も、どうやらこなさなくてはならないらしい。飛鳥としては、現実の高校時代でも生徒会に入っていた為、なんとかなるのではないかと考えていた。
ちなみに、飛鳥が生徒会に入っていた理由は、生徒会長が頼だったからである。大好きな頼の近くにいたい、側で役に立ちたいと考えた結果、いつの間にか生徒会に入っていた。
どこか抜けた感じのする飛鳥だが、これでいて仕事はきちんとこなすタイプだ。近くに頼という完璧超人がいたせいで自己評価はとても低いのだが、他人からの評価はすこぶる高い。
ルナの役割に何があるのかはまだわからないが、とりあえず周の近くにいつでもいれそうである。
少しルナについても調べてみようと飛鳥は考えた。これからの行動方針を固めるという意味でも役に立つだろう。
学園生活はまだいいのだ。1番の問題は周自身にある。
なりゆきでいきなり周の彼女になってしまったが、周からは「好きになるなよ」と釘を刺されてしまった。これを振り向かせなくてはならないときたから大事である。
周があのようになったのには、必ず過去に原因があるとみて間違いないだろう。そして、幼なじみという性質上、その過去の原因に早乙女心が絡んでいる可能性が非常に高い。
(やっぱり、指示書のライバルって早乙女心だよなぁ…)
SSH編の目標は、みんなから祝福されること。つまりは、早乙女心からも祝福されなくてはならないわけだ。
(どうアプローチかけるのが正解なのかさっっっぱりわかんない!!!)
飛鳥は頭を抱えて悩んだ。しかし、飛鳥は考えるのは得意ではないので、そのうち考えることをやめた。
そして、とりあえず指示書の指示どおり宣言するために行動することにしたのだった。
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「き、来てしまった…」
放課後、飛鳥は例の生徒会の隣のファンクラブの部屋の前に来ていた。
今日一日、色んな人から質問攻めにあうのかと覚悟していたが、そんなことは一切なかった。飛鳥が不思議に思っていると、どうやら早乙女心が裏で手を回してくれていたらしい。
「なんかね、ファンクラブの掟に『周様が決めたことは絶対遵守!』ってのがあるんだって。だから、会長の早乙女さんが、全校生徒に『ルナ様に必要以上の接触をしないように』って根回ししてくれたみたいだよ。」
というのが、夏菜からの情報。飛鳥としては、正直かなり助かった。
しかし、それはそれ。これはこれ。今朝のこともあって、飛鳥には早乙女が心の底から認めてくれている気は全くしなかった。
周が決めたことだから従っているが、本当は飛鳥のことなど憎いくらいのはずなのだ。
何故なら、今の周と早乙女の立場は、現実での頼と飛鳥の立場とかなり似ている。完璧な幼馴染。いつかは恋人に。飛鳥も頼のファンクラブこそ作らなかったものの(実際は飛鳥の知らないところでファンクラブはあったのだが)、大学の一件がなければ今も恋人になれると信じていただろう。
それが、ある日突然ポッとでてきた女性にとられたとなっては、飛鳥も自分の気持ちに整理がつかなかったに違いない。
それゆえに、飛鳥は早乙女の気持ちが痛いほど理解できてしまう。もっと言えば、飛鳥はまだ「仮」の恋人なのだ。早乙女にきちんと認めてもらおうにも、そもそも周にすら認められていないという事実。
(みんなから祝福されること…もちろんこの早乙女心にも…)
飛鳥が早乙女に認めてもらうためには、まず「宣言」をしなくてはならない。指示書で言われたからだけではない。飛鳥の心もそう言っているのだ。
(よしっ…いこう!)
ガラガラッ
「失礼しまーす…早乙女心さんいますか…?」
「あっ!?ルナ様!?会長ですか!?少しお待ちください!」
中にいたファンクラブ会員らしき女生徒が、飛鳥の顔を見るなりあわてて早乙女を呼びに奥へと入っていく。
そして、1分も経たないうちに戻ってきたと思ったら、そのまま奥の部屋へと通された。
「よくおいでくださいましたわ、ルナ様。」
「いきなり来ちゃってすみません。えーと、早乙女さん。」
「早乙女さんだなんて…。同じ学年同士なのですから、心でいいですわ。」
「じゃあ、心。まずお礼を言わせて。心が私に必要以上に接触しないように根回ししてくれたって聞いた。ありがとう。」
「そのくらいのことお安い御用ですわ。ルナ様に迷惑をかけたとなっては、周様に迷惑をかけるようなものですからね。」
「うん、そう。心は周に迷惑をかけたくないんだよね。だからもう周から身を引くってことでいい?周のことはすっぱりと諦めてくれる?」
飛鳥がそう口にした瞬間、心のこめかみがぴくっと動いた。そして、顔はにっこりとしているのに、どこか怒りのオーラを含んだ顔のまま口を開く。
「もう飛鳥…でいいですわよね。飛鳥になんて言われようが、この思いだけは捨てさせませんわ。いったい、私がどれほど!今までどれほど周様に深い愛情を注いできたのか!!あなたにわかりまして!?」
最初は冷静に話そうとしていた心だったが、次第に声が大きくなり、目にうっすらと涙を浮かべていた。
「いきなりポッと現れて!!ルナ様にしましたと聞かされて!!はい、そうですかと従えるほど、私は従順ではありませんわ!!!本当は飛鳥なんて現れなければよかったのにと思ってますわ!!!!今でも変わらずに周様のことが大好きですわ!!!!!!」
「……よかった。」
「はい!?」
「心ってすごく冷静そうだったから、もしかしたら本音が聞けないかもなって思ってたんだ。心の本音が聞けて良かった。」
「何言ってますの!?」
「私は、あなたに宣言するよ。」
飛鳥は、まっすぐ心の目を見つめ、
「心、私はあなたに心の底からルナだって、周にふさわしい女性だって、絶対認めさせてみせる。」
はっきりと「宣言」したのだった。
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